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二章 崩れゆく背後
18話 違う世界
しおりを挟む「それでアグノスに襲われたんですけどガペーラさんっていうティミスちゃんの知り合いが助けてくれて」
「へぇ…そんなことあったんだ」
俺はフェートのする話を相槌を打ちながら聞く。
悪い男に騙されて奴隷として売られかけたこと。その男がアグノスだったこと。ガペーラという女性に助けてもらったこと。
確か蝙蝠の奴も組織の裏切り者だったんだよな? 先に彼女達が倒してくれてたのか。
ガンマさんも離れているふりをしつつ、アグノスの話題が出てからはこちらに聞き耳を立てている。
でも…アグノスは元人間で…俺やガンマさんも…
村で襲われたことからアグノスは全員悪人だと決めつけていた。だが自分自身がこんな風になって、俺は二人を前に複雑な気持ちに苛まれていた。
「それで今その元締めの所から逃げてきた女の子を保護してて」
「えっ!? それって大丈夫なの? 良ければ協力した方がいいかい?」
「あっ、いや…とりあえずはガペーラさんが守ってくれてますし、安全な場所に連れてってくれるので大丈夫です」
「そうか…でも危ないことはしないでね」
「…はい」
彼女は何か隠すように言い淀むが詮索する気は起きなかった。俺にも探られたくないことがいくつもできてしまったから。
「でも…許せませんよね」
「え?」
ティミスが下唇を無意識に噛み、悔しげな表情を浮かべる。
「アグノスになって、その力で人を殺すなんて許せませんよね」
「あはは…そう…だね」
俺は彼女達の、人間の綺麗な瞳を見ながら話せなくなってしまう。
もし、もしもアグノスになった瞬間目の前に居たのがルミアではなくこの子達だったら。そんな考えが、もしもの可能性を想像してしまい純粋な目で彼女らを見られなくなる。
「エディアさんはこれからどうするんですか?」
「えっと、まぁなんとか立ち直れたし、これからはそこの人の仕事を手伝うつもりだよ」
「そうですか…でもエディアさんが前を向けれて良かったです」
フェートの、無垢で綺麗な女の子の笑顔が罪悪感という刃物となり俺の胸を突き刺す。
「そう…だね。とにかく気をつけて。俺はこれで」
「あっ、はい! エディアさんもお元気で!」
彼女達はもう俺とは違う場所に居る。そんな気がしてこれ以上話すのか辛くなってしまう。
「おっ、もういいのか?」
彼女達と別れ俺はガンマさんと家に戻る。
「さーて食料品とかカチコミに必要なもんも買えたし、あとは休んで実行日まで待つだけだなー」
ガンマさんは机に買ったものを放り捨ててソファーに腰掛け足を組む。
「ねぇガンマさん」
「なんだ?」
「その組織って、もしかしてこの前村を襲わせたりしましたか?」
「あ?」
俺はこの前村が三体のアグノスに襲われたこと。俺に謎の液体を飲ませてきたことを話す。
「あー多分組織っぽいな。なんか人をアグノスにするとか噂で聞いたことがあるが…完成してたのか」
「っ!!」
俺はガンマさんの胸倉を掴み上げる。怒りの形相を露わにして。
「ちょ、オレはその件には関わってねーよ!」
「どうしてそんなことをした…組織は、何で人をアグノスに変える!?」
「まぁ今のままじゃ数も少ねーし、交渉しようにも人間と対等に立つ必要があるからとかじゃねーのか?」
「そんなことのために村を…俺を…!?」
予想通り黒幕はガンマさんの所属する組織とやらだった。不幸の元凶を見つけ、その一員である彼に怒りの矛先を向ける。
「だからオレは関わってないし細かいことは知らねぇって!! それにオレはお前が思ってるよりずっと下っ端なんだよ!!」
「あんた…組織の命令で人を殺したことはあるのか?」
「まぁ悪人やクズを数人。オレには村を襲えだとかの指示が来たことはないな」
「そう…ですか」
とりあえず敵意をしまい手を離す。しかし組織に対しての不信感や憎しみは爆発的に増えていく。
「お前…この件が終わったら組織を潰す気か?」
「それは…分からないです。まだ何が正しくて何が悪いのか。だけど組織の上に何でこんなことするのかは聞くつもりです」
「そうか…だがな、組織を潰す気ならやめとけ」
彼は体を起こしリンゴを取り出して齧り付く。
「俺なんかじゃ無理だからですか?」
「それもあるが、オレ達アグノスは組織がなければ所詮ちょっと強いだけの個体だ。もしこれから人間の技術が発達して検査機なんて出てみろ。すぐバレて囲まれて終わりだ」
まるで魔法が発達した頃に起こったとされる魔女狩りのようだ。いつの時代も突出した者は恐れられ排除される。今は魔法は受け入れられているが、もしアグノスがそうなったとしてもその時には俺はもうこの世に居ないだろう。
「だから数を増やして対抗できるようにして、交渉してそこから有耶無耶にして~てのが上の狙いなんだろ。手段を選ばないのはまぁどうかとも思うがな」
「そんなの…戦争じゃないですか」
「戦争だよ。生き残るためのな」
彼は持っていたリンゴを握りつぶしそれを口の中に放り込む。
「人間と戦うのは嫌か?」
「そりゃ嫌ですよ。人なんて…もう殺したくない」
数日経ってもあの時の感触が忘れられない。これ以上あの感覚を覚えてしまったら精神が壊れてしまうかもしれない。
「そうか。だが人間は、さっきのあの子達はそう思ってないようだがな」
「あの子達は…」
「きっとお前がアグノスって分かれば容赦なく殺してくるぞ。聞いた話ある程度戦えるんだろ? きっとアグノスは許さないって言ってお前が無抵抗だとしても容赦なくグサッ! てな」
ガンマさんは取り出したバナナで俺の腹を突く。
「そんな…きっと話せば分かるはずですよ!」
「分からなかったら? 次はないぞ」
「それは…!!」
言い返す言葉がなかった。もし今後彼女達にアグノスであることがバレたとして、殺されない自信が湧かない。説得して分かり合える自信がない。
俺は世間から疎まれる化物なのだと改めて実感する。
「オレはお前らのその他人に理解してもらおうだとか、信じるとかがいまいち理解できねぇ」
「前に言ってたことですか?」
「そうだ。オレは生まれてこの方ほとんど自力で生きてきた。組織とだって最低限の関わりしかねぇ。オレにとって損なら容赦なく裏切れるし何の罪悪感もない」
冷酷とも捉えられるほどドライで、損得感情のみで動いている人だ。
「ま、だからといって不用意に殺す奴でもないし、お前とも今は友好関係で居てやる。感謝しろよ」
「はい…俺もしばらくは同じで居ます」
彼に影響されてしまったのか、俺もドライになってしまい軽く食事をした後は少し距離を取り意味もなく外を見つめる。
日差しに照らされて街を歩く人々。様々な人間が居て、みんな光に当てられて幸せそうだ。
商売をする者。子供を連れる者。馬車を動かす者。みんながそれぞれの生活を日の下で送っている。
「はぁ…」
深い溜息をついてしまった後にカーテンを閉め、日光が当たらなくなったこの部屋で毛布を被るのだった。
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