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番外編
お姫様、初恋をします♡ ②
しおりを挟む冷静に相手を観察すれば見えて来るものは沢山ある。
小さい頃にプログラミングの技術を買われ、ホームページ作りで稼いでいた時の、大人への接待で培われたこの観察眼があれば、きっと子供相手でも付け入る隙があるはずだ。
まぁ、ずっと顔をそらされてるけど。
今は調べものに集中するか。厄介な相手じゃないと良いな。
カタカタとPCを操作すると、暴走族関連のサイトや書き込みをチェックする。
他にも色々と不良校に通う個人情報を洗いだし、特定して行く。
なるほどなるほど。
この前の下っ端のいざこざで、マークしていた奴等で間違いないかな。
そうなるとメンバーの出身校がここだから、アジトに使われそうなのは、ココとココの廃倉庫で……。
メンバーの情報を詳しく調べながら、携帯で周辺情報を洗い出す。
警察に見つかるリスク。
住民の視線。
向かう道、帰り道。
「よしッと。……これなら寄って来れる範囲かな」
キーボードを叩き終えると伸びをしながらため息をつく。
すると夢中で俺の手元を見ていた真依ちゃんが声を漏らした。
「────す……」
──ん?
「すごい!!」
キラキラした目で見つめて来る真依ちゃんに俺はびっくりする。
まさかここまで興奮するとは思わなくて、「すごい! カッコイイ!!」と褒めてくれる真依ちゃんに固まる。
「ありがとう……」
柄にもなく少し照れる。
無邪気だなぁ、そこまで褒めることでも無いのに。
裏表もない態度に、観察とか隙の探りとか色々難しく考えていたことがバカらしくなって、俺は微笑みながら息をついた。
「真依ちゃんは明るいね」
「……??」
「ねぇ、真依ちゃん。お兄ちゃんのお迎えが遅くなっても良い?」
「……?? だいじょうぶだよ。まい、おりこうさんにできるよ?」
「────」
もっと、寂しがるかと思ったのに……。
「そう」
良い子だね。とは、なぜか言えなかった。
この子はきっと、見た目よりも大人だ。多分、一人でいることに慣れてる。
息を潜めて、じっとしてることに慣れてるんだ。
それが悪いとは思わないけど……。
真依ちゃんには、笑っていてほしい──。
…………なんで?
「だいじょうぶ?」
なんで笑っていて欲しい?
「──なんでもないよ。電話してくるね。それが終わったら何して遊ぼうか?」
「うーん……」
頭を悩ませて考える真依ちゃんに、クスッと笑う。
もう顔を反らさなくても大丈夫みたいだね。
「考えてて」と頭を撫でてから、秋良に電話をかける。
『なんだよ?』
秋良の声と一緒にかすかな罵声が聞こえる。
「あれ? まだ終わってないの?」
『人数増えたんだよ……!』
へぇ、向こうは奇襲じゃなくてこのまま潰すつもりなのか?
「何人来た?」
「あ? あぁー……。10人くらいか?」
半数近くを送り込むなんて。
フフッ。お陰で楽が出来きそうだな。
さっさと終わらせて、真依ちゃんに遊んで貰おうかな。
「戦力は足りてる?」
「あぁ。余裕だ」
「──そ。ならそのまま頑張って」
「はぁ!? 少しは寄越せよ」
「ムリだよ。そろそろ道弘来るから残りと一緒に敵城を攻めに行って貰わなきゃ」
「はぁ? それこそ足りんのかよ」
「道弘ならやって来れるでしょ。それに、そこまで強くないんでしょ?」
「まぁ、そうだが……。おっと──」
相手に襲われたのか、秋良の息遣いと一緒に、知らない男の「ウッ」と苦しそうな呻き声が聞こえた。
「場所送っておくから、終わらせたら行って来てね」
「わーったよ!」
「よろしく」
よし、次は──。
「真依ちゃん、ちょっと下にいる人たちに話したい事出来ちゃったから待ってて──、いや。一緒にみんなの所に行こうか」
「うん」
真依ちゃんに手を差し伸べると、警戒心でじっと手を見つめられたが、小さな手が俺の手を取るまで微笑みながら待ってみた。
暫くしておどおどしながらも、ゆっくりと手を取ってくれる。
良かった。
焦らず、時間を掛けてゆっくりと距離を縮めなきゃね。
本当は好みのタイプが分かれば一番良いんだけど。
部屋を出ると下には既に30人近くの野郎が溜まったいた。
事情を説明してやるべきことを指示して行くと、途中でやって来た道弘と一緒に敵城へと向かってもらう。
もちろん。何かあった時に誰も居ないのは困るから、腕が利く4人は残ってもらっている。
男たちがバイクに乗ってで散って行くと、ズボンの裾を引っ張りながら、真依ちゃんに呼ばれた。
「……ねぇねぇ」
「なぁに?」
「えっと、りん……と……?」
そこまで言いかけて、モゴモゴと口ごもる真依ちゃんに期待した。
まさか、名前で呼んでくれるのかな。
関係性が進展しそうなことに嬉しくなって。
片膝を付いて目線を合わせてから、改めて自己紹介をする。
「泉野凜人だよ。そうだなぁ、リンちゃんって呼んでくれるかな?」
「……り、リンちゃん。は……」
「うん?」
なんだろう……。
少し俯き加減で、手を胸の前で弄る真依ちゃんに、何を聞かれるんだろうと首を傾げると、ハッキリした言葉で聞いて来た。
「リンちゃんは、おうじさまなの?」
「へ──?」
「ちがうの?」
「えーと……」
その時になって、最初の反応を思い出す。
──あ!
なるほど、そう言うことだったのか。
“はいはい。仰せの通りに”
確かにこの年頃の女の子が憧れそうだよね。
単純明快で、至極在り来たりな、ちゃんとした女の子だ。
「──そうだね」
秋良が“王様”でNo.1の地位なら、副総長の俺は、No.2になる。
“王子様”でも間違ってないよね。
本当は『参謀』の肩書きの方がしっくり来るけど、好印象を貰える機会を逃す手はない。
「姫が望むなら、俺は王子でありたいかな」
こんな俺でもそう見えるのなら。
「真依姫の王子様にしてもらえますか──?」
優しい笑みをつくってそう聞くと、真依ちゃんは黙り込んだ。
そして、長い沈黙の後にボソリと呟く。
「……いいよ」
スカートの裾を握りしめて云う真依ちゃんは顔を真っ赤に染めていて、その姿は年頃の女の子に見えた。
うん、大丈夫。
やっぱり俺は嫌われてなんてない。
「──じゃぁ。部屋で一緒に遊ぼうか」
「うん」
手を差し伸べると、今度は直ぐに小さな手を掌に乗せてくれた。
添えられた温もりをそっと握りしめて、ふわりと笑う。
花が咲くように微笑む真依ちゃんに、ドキッと心臓が跳ねた音が響いたのを聞きながら、ふわっと身体を盛り上げた。
「ッ──!?!?」
どうやら突然抱き上げたことに驚いたらしい。
真依ちゃんは腕の中で身体を硬直させた。
無理もないと思う。何も言わず姫様抱っこをされたら、誰だって怖がるだろう。
そのことに抱き上げてから気づいて、俺は慌てて取り繕った。
「そのまま。出来れば大人しくしててくれると良いな」
ちょっとズルかったと思うけど、内心ものすごく焦っていたからしょうがない。
あぁ、なんで一言断らなかったんだろう……。
せっかく距離が縮んだのに。
どうしよう、真依ちゃんに嫌われるのは嫌だな。
笑顔を崩さず、どうフォローするか悩んでいると、何かに気付いたみたいに真依ちゃんは俺をじっと見つめて来た。
ドキドキと緊張していると、そっと両手を伸ばして来た。
指先が俺の頬に触れられて、思わず立ち止まる。
あと一歩で扉の前だったけど、今いる場所なんてどうでもいいよな状況だった。
えっと、これは一体……。
「まい、ちゃん……?」
訳が分からず、戸惑いを隠せなかった。
それはしっかり顔にも表れたのだろう。
瞬きを何回かして聞くと、真依ちゃんはハッとした表情を浮かべて俯いた。
同時に頬に添えられていた手を勢い良くしまう。
あれ、なんだろう……?
心臓から聴こえる鼓動が変に早まる。
真依ちゃんをじっと見つめていると、林檎のように真っ赤になった顔を少し上げて、上目遣いで見つめ返された。
その瞬間に心臓がドクンッと跳ねて、感じたことのない痛みが襲う。
「リンちゃん、あのね……」
「な、に……?」
喉から出たその声は微かに震えていて、まるで自分の音じゃないみたいだった。
「あのね……、まいね……」
一度俯いて、途切れ途切れに呟く真依ちゃんの様子は見覚えがあった。
いつものようなシチュエーションに、何を言われるのかは直ぐに予想がつく。
だけど、いつもとは違った感情に俺は襲わていた。
真依ちゃんの口から、その口から紡がれる言葉を早く聴きたい──。
あぁ、参ったな……。
おかしくなりそうだ。
黙っていると、期待していた言葉が耳に入ってくる。
「まい、リンちゃんがすきなの──」
甘い響きが、脳に浸透していく。
どうやら俺も変えられるみたいだ……。
「リンちゃんは……、まいのことすき?」
「──うん、もちろん。好きだよ」
きっとこの少女からは逃れられない。
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