忘れられた青年(仮タイトル)

剣斗

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第一章 忘れられた青年

第六話

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 今日はいつもどおりの薙刀の訓練……ではなく、今まで使わずにいた風魔法の訓練だ。

 といっても、魔力の数値がそこまで高くもないので、長くはできない。これが終わったら、いつもどおりの訓練をするつもりだ。

 さて、まずはどんな魔法が使えるかの確認だ。ランクはFだし、2種類だけしか使えないんだけども。

 1つ目:『送風』
  少し強めの風を起こすことができる……それだけ。

 2つ目:『風刃』
  風の刃を生み出し、対象を切り裂く。切れ味はかなりいい。しかし、今のところは発動するまでの時間が長い。

 初期の風魔法で使える魔法はこの2つだけ。正直に言って、どちらもあまり需要はないだろう。魔力の消費が少ないのはいいところだが。

 それじゃあ、後は風刃の切れ味だけ確認して、魔法の訓練(という名の検証)を終わらせようかな……

……いや、ちょっと待てよ?魔法を少し改造することができれば色々と面白いことができるのでは?

……思い立ったが吉日。早速練習を始めよう。

 しかし、魔法を改造するコツなど、すぐにわかるはずもない。何度かチャレンジをして、魔力が無くなったら、回復するまで武器の訓練をして待つというのを3回ほど行ったところで、いつの間にか18時を超えてしまっていた。

「やべ、そろそろ家に帰って御飯作らねぇと……」

 そうつぶやき、急いで帰る準備を始める。魔力の回復速度も結構ゆっくりだし、練習が多くできないのは苦しいな。送風は消費魔力が1だから、まだマシなんだろうけど。

 そして、訓練場を出て帰ろうとした時、ふと3人の男たちに絡まれている女性が目に入った。どうやら、男たちの側がしつこくパーティーに誘っているようだ。

「えっと、あの、今は誰ともパーティーを組むつもり無いので……」

「まぁまぁ、話だけでも。俺達いま遠距離役の人がいなくてさ~。君が入ってくれたら、ものすごく助かるんだよ」

「そうそう。遠距離型の弓使いがソロでやるのは厳しいしさ、せっかくなら頼れる人に守ってもらったほうが、攻略もしやすいでしょ?」

「俺達が手取り足取り・・・・・・教えてあげるからさ?とりあえず、近場のカフェにでも行かない?」

「何度も言っていますが、私は今のところ、誰とも組むつもりがないので……」

 そう言って逃げようとする手を、男の1人がつかみ、引き止める。

「遠慮しなくていいって。ほら、こっち来てよ」

「嫌です!離してくださ……!」

「あの、その子困ってるじゃないですか?やめてあげたらどうです?」

 その風景を見ていた俺は、自然と体が動いていた。紫苑といっしょにいるときは、しょっちゅう紫苑がナンパされていたからな。その時の癖かもしれない。

「は?お前には関係ないだろ?まさか、お前もこの子狙いか?それこそ嫌がるんじゃないのか?お前みたいな陰キャに助けられてよ」

「……陰キャなのは否定しません。ですが、俺は彼女を狙っているわけではありません。ただのお節介ですよ」

 今の俺の格好は、重ための前髪で目を隠し、パーカーと動きやすいズボンを履いた、ただの陰キャだ。性格もどっちかと言うと陰キャだしな。

「お節介ぃ?ならなおさらどけよ。彼女は俺達と話したがっているんだからよ。ほら、お前が前にいるから、彼女、怖がっちまってるだろ?」

 本当に俺のことを怖がっているのか、確認のために後ろを振り向く。すると、そこには俺がよくしっている顔……紫苑がいた。

 しかし、驚きを顔には出さず、俺はまた男たちの方へと向き直る。男たちはほらな?とでも言いたげな顔をして、俺を苛ついたように見つめている。

「……怖がらせているのは、どちらでしょうね?俺は、彼女が困っているようだったので、助けに入っただけですよ。そもそも、喜んで話しているようであれば、止めになんか入りません」

「だったら、彼女はどうして今顔を真っ青にしているんだ?お前が近くにいるからとしか考えられないだろうが」

……こいつらは、自分たちが特別な存在とでも思っているのだろうか。本当に、こういうタイプは嫌いだ。話が通じない。

「順当に考えれば、怖がられるのはあなた達では?誰でも、初対面の異性から、急にスキンシップを取られたら嫌なものでしょう?」

「はっ!んなもん、お前の価値観だろうが!彼女がそう思っている訳では無いだろう?」

 これは、どう言っても通じなさそうだな……仕方ない。少し強引な手でも使おう。

「でしたら、あなたが彼女の手を取るまでを映像にとっていますが、それを見ますか?これを見れば、彼女は俺が出てくる前から怖がっているということもわかるはずです。何なら、これを警察に提出してもいいんですよ?音声もバッチリ残っていますし、お縄になるのは俺と貴方がた、どっちでしょうかね?」

「……っち!おいお前ら、帰るぞ」

「「……おう」」

 ふぅ、なんとか嘘が通じたようだ。あんな急な場面で動画なんざ取れるわけがなかろう。全く、あぁいう奴らは本当に面倒くさい。適当な嘘でもつかなきゃ、退散させることなんか出来ないし……絶滅しないかな?あぁいう人種。

 っと、紫苑に対してなにか言わないと。流石に、助けて無言で去っていくのもただの痛いやつに見えるし。

「大丈夫でしたか?おもわず助けに入ってしまいましたが……」

「いえいえ!困っていたので、本当に助かりました!」

 紫苑の顔は真っ青だし、腕もまだ震えている。紫苑は男が苦手だし、それも仕方のないことなんだけれども……って、苦手じゃなくても嫌か。

「ご迷惑にはならなかったようで良かったです。この時間からはああいう輩が増えてきますので気をつけてお帰りください。それでは、俺は急いでいるのでこれで……」

「え、あの、ちょっと……!」

 早口で言葉を吐いて、すぐに逃げるように走っていった俺に呼び止める声は届かず、そのまま走り去る。

「……何で、あの人には嫌悪感を感じなかったんだろ?」

 だからこそ、紫苑のそんな声も、届くことはなかった―――


「―――ふぅ、まさかあいつも探索者になっていたとは」

 紫苑から逃げるように家へと帰った俺は玄関でしゃがみ込む。男嫌いの紫苑にとっては、もう見知らぬ人である俺に話しかけられることは辛いだろう。

 明日からはまた見知らぬ人に逆戻りだ。少し……いやかなり寂しいが、紫苑にとって迷惑になるのなら、干渉しないほうがいい。

「……あんまり外へ出ないようにしておこっと」

 訓練とかで仕方ないときならいいとしても、俺と紫苑の家は真隣だからな。それでもできるだけ遭遇しないように、早めに家を出ることにするか。紫苑は外に出るとき、いつも遅めに家を出ているし、8~9時くらいに家を出なければ問題はないか……
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