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prologue

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7月某日   帝都 エステバンニューズ紙


エリザベス・トーラス・ドラクロアが侍従と駆け落ちした。

エリザベスはドラクロア家に巣くっていた、血を啜る吸血鬼の名である。

当紙記者が取材したある貴族令嬢は、そんな筈はない、あのしたたかで強欲な女性が、すべてをなげうつなど考えがたいと動揺を隠せないようすだった。
またドラクロア子爵家にちかい家のメイド頭は、なにか後ろ暗い秘密が有りそうだった、処刑される前に逃げたのでは、と話しており、本当に駆け落ちなのか、なにか画策があっての逃亡なのか、いまだ真偽のほどは分かっていない。

ドラクロア子爵家は下級貴族でありながら、海運で財をなし、現在の当主になってからは帝国全土へ鉄道を敷設して鉄道、運輸、商取引でも知らぬ者のない巨大企業になった。

エリザベスは、そのドラクロア子爵家当主を兄にもち、幼い頃から皇太子妃候補として期待されてはいたが、最近ではその奔放かつ傲慢な性格や、ドラクロア家の財力を笠に着て自分より弱い立場のものを虐げることから、皇太子妃として相応しくないとして、一部の貴族から声があがっていた。

一連の報道をうけて、皇室報道官であるラファエル公爵は、
「現在調査中であり、事実が分かり次第国民の皆様へお知らせする」
と述べるにとどまった。

                    記者   メルヴィル・ロドワイア
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