脱走悪役令嬢、猫を飼う。

西藤島 みや

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行方不明の皇太子

メルヴィルとエリン

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メルヴィルは何をするでもなく、昼夜丘の上を歩き回る。
「それが記者の仕事ですからね」
ルーはそう言って、剥きおわったじゃがいもをひと桶持ち上げて運んで行く。やせ形でけして大柄な訳ではないルーが軽々とあれを運んでいるのを見ると、大抵の人は驚くのだが……
「ルー、手伝おうか?」
メルヴィルは驚きもせず手を差し出した。
「客にたのめるわけないだろ。いいからはやく仕事して、はやく帰れ」
けんもほろろとはこういうことか、という程に冷たくあしらわれた。

「ロドワイアさま、一体なにを探しているんですか?わたし、お手伝いできるなら……」
私がおずおずと言い始めると、
「ああ!ここら辺の人はしらないのかな。皇太子がこのあたりにかくれてるって噂だからさ。」
皇太子?と私は首をかしげた。エドアルド様が行方不明だなんて、まさかまだ私たちを探しているの…?

「メルヴィル、出かけるなら早く行け。俺達を巻き込むな」
ロドワイアさんを追い出そうとするので、私は早く起きて作っておいたコーンブレッドを渡した。
「ごめんなさいね、いま小麦粉も酵母をとるブドウもなくて。お口にあうかどうかわからないけど…」
というと、
「合う合う!昨日の夜食もすっごく美味しかったもん。ルー、あんた、どこでこんないい子見つけたのよ!」
なにをそんなに感激したのか、私にだきついて頬にキスをした。
「メルヴィル!」
ルーが声をあらげると、ロドワイアさんは肩をすくめてから、

「皇太子見つけたらすぐ戻ってくるよ!まってて!」

大きな声で元気に手を振って、ズボン姿のロドワイアさんは駆け出していった。

「……ありえないな」
妙にきっぱり言いきって、ルーが仕事の手をとめて丘を下ってゆくロドワイアさんを見送った。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

しまった、このあたりの気候について説明をしておくべきだったと気づいたのは、夕方になってからだった。

「いやあ!めっちゃ降られたよ。このひとが通らなかったら危なかった!」
クランさんにぶら下がるみたいにして、ロドワイアさんは足を引きずってもどってきた。
「クランさん、ありがとうございます」
お礼を言って、ルーが受け取ろうとすると片手をあげてそれを拒否しながら、
「やだなあ!気がきかないんだから!」
とロドワイアさんが笑った。

「ロドワイア嬢、気を利かすとは?」
と、クランさんが尋ねると、
「すくなくとも自分の恋人のまえでほかの女を抱き上げたら駄目でしょ?」
ウィンクされて、ああ、そういうことかと妙に納得した。ルーと私はここで同棲している、平民のカップルなんだった…ちょっとあかくなったりしていると、ロドワイアさんが突然、とんでもないことを言い出した。
「伯爵様はご存じではないでしょうけどね」
え、とクランさんが目をみひらいた。

「よくご存じだったね、伯爵といっても僕はそう高くない身分だし、最後の何年間かは名鑑からも写真を抜いてもらってたのに」
ビックリしてはいるものの、別に隠していたわけではないらしくクランさんはそのままロドワイアさんをかついでいって椅子に腰かけさせた。

「ど、うしてわかったんですか?その、クランさんが、平民じゃないって」
私は掠れそうになる声をふりしぼって、ロドワイアさんにたずねる。なにか、違いがあるのだろうか?
「ん?いいえ、ただ何年か前にクラン伯爵の記事を担当したことがあって、その時に直接会って話を聞いたのよ。…覚えてませんか?エステバンの見習い記者で、当時は商業面の担当だった…」
クルクルと指を回して見せるロドワイアさんに、ああ、とクランさんもうなづく。
「あのときの女の子!随分大きくなって…すみません、立派な女性になっていたので気がつかなかったな…」
ふふふ、と笑いあうクランさんとロドワイアさんに、ホッと胸を撫で下ろした。面識があったから、わかったのね。それなら私のように夜会へも行かなかった令嬢は会ったこともないしわからないはず。

私はその場を外れ、カウンターの方へと歩いていった。カウンターの奥から、ロドワイアさんを介抱するべく包帯や湿布を取り出す。

しかしそのとき、とんでもない言葉が聞こえてきたのだ。
「そうだったのか、君はエステバン紙の。では、エリザベス嬢を取材するために来たんだね」

クランさんは、何の屈託もなさそうに私を差し示した。
「彼女が駆け落ちをして、もう帝都には戻らないのか、あるいは何かを企んでいるのかと心配している人間は多いからね!」
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