婚約者の様子が(かなり)おかしい。

西藤島 みや

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私にまつわる日常的な困難について

幼馴染を紹介します。

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春、美しい薔薇の季節。

我がマルセル家の庭園は、庭師たちが丹精込めて育てた艶やかな薔薇や、芳しいラベンダー、日の光のようにこぼれ咲くエニシダに彩られている。

その一画に仕立てられた美しい四阿あずまやに私は午後のお茶を用意させ、幼馴染である少女の来訪をうけていた。

「ですから、クローディアスさまはいずれこの国の国王になるのですわ。そして異世界から来た可憐な美少年と手を携えて、この国を治めるのです!」
エリーゼは麗しいその顔を紅潮させ、テーブルを手で叩いた。

かちゃっと音をたてて、茶器から僅かに水滴が零れ、彼女の来ているドレスへ跳ねたけれど、全く気にとめた様子もない。わたしは曖昧にわらいながら、それとなく水滴をハンカチでふいてやった。
「エリーゼ、おちついて?」


私にとってエリーゼ・レスター・コーデリアは単なる幼馴染ではなかった。というとまるで特別な関係のようだけれど、そうではない。

こんな言い方をするのは心苦しいが、エリーゼは、とても、とても奇妙な少女なのだ。いや、もう、奇怪な、といってもいい。
一見すると素晴らしい令嬢なだけに、とても残念な話だ。

名門コーデリア伯爵家の令嬢で、年は私より2つ下の14歳。つややかな銀の髪はいつも柔らかな螺旋を描くようにセットされており、透き通る白い肌、美しいサファイアの瞳はいつも新しい発見にきらきらしている。

見た目だけでなく、名門の令嬢らしく学力でも魔術でも群をぬいており、私も彼女のピアノ演奏についてはその辺の演奏家などよりよほど素晴らしいと、心からおもっているのだけれど。

「エリーゼは王妃になりたいの?」
つい、尋ねてしまうのはエリーゼがうちに来る度に私に話す謎の物語が、あまりにも荒唐無稽だからだ。

「いいえ、私は王妃にはなりません。私はクローディアス様と結婚しますけれど、異世界から来た美少年、ユーリと恋に堕ちますの。
道ならぬ恋のはてに、ユーリの子供を産んでその咎で、クローディアス様に処刑されますのよ。
そのあと、クローディアス様とユーリはめでたく結ばれ、ふたりは手を携えて…」

何を言っているのか全くわからない。わかったとして理解したくない。

私は落ち着こうと温かいお茶を少し口に含んだ。そんな私を、エリーゼがまるで夢物語の英雄でも見るような目で、きらきらと見ている。

期待されても、焼き菓子くらいしかあげられないのだけれど。




私の名前はクローディアス。マルセル家の嫡男であり、王位継承権第六位。王国北部にある高原地帯、セレートニア領を治める子爵でもある。

マルセル家の当主はこの国の今上、マリアテレサ女王の、父親違いの兄にあたるマルセル侯爵だ。

勘のいい方はお分かりのこととおもうが、先々代まではこのマルセル家が王家だったわけで、ドロドロの王権争いの果てにいま、この国はようやく落ち着きをとりもどしてきたところなのだ。

そんな我が家の家訓は「万一にもことがあってはならない」だ。全ての王侯貴族と一切の問題を起こさぬこと、そのために、静かに、静かーーにくらしている。

父であるマルセル侯爵は、侯爵という身分だけれど王立博物館の館長におさまり、それもあまり博物館には行かずに庭師と薔薇の手入ればかりしている。
とにかく、誰とも会わず、誰とも仲良くならないというのが、父の信条らしい。

もちろん母も生前、私に
「お前は将来はどこか身分の低いおうちのお嬢さんをもらって、できれば子爵のままセレートニアで暮らしなさい。羊を飼うのです、羊を飼って生きるのですよ」
と言い聞かせていたほどだ。

それなのに、エリーゼときたら
「クローディアス様!クローディアス様は国王になりますのよー!」
そんな声をはられては困る。私はそっと彼女の口を手のひらで塞いだ。

「駄目だよエリーゼ、そんなことを言っては」
王室の耳にはいれば、二心ありと思われて処刑されるのは私と我がマルセル家だ。何せ変な実績だけはあるのだから。

手のひらに彼女の吐息を感じ、潤んだサファイアの瞳を眺めながら、ため息を吐いた。なにはともあれ、もうすぐ新学期。

そうすれば私は王立魔術学校へ戻れることになっている。エリーゼとも当分会わずに済むし、うまくいけば残りの2年間でかわいらしい令嬢と出会えるかもしれない。卒業する頃には婚約、順調にゆけば数年後には結婚できるかもしれない。

これはいい考えだ、と私は自分のアイデアについ微笑んだ。つられてか、口を塞いだままのエリーゼもなぜか微笑む。


とにかく、じきこんな奇妙な会話とはお別れできる……筈だ。

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