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バセッティの幼い姉弟
始めの一手
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夕刻、幼い姉弟は広い食堂の、巨大なマホガニー製のテーブルにたった二人で座る。侍従や侍女は規則どおり、離れた場所へ立って、二人が呼ぶまで動くことはない。
「ねえ、そっちへ行ってもいいかしら?」
おとなしくセッティングされた席についているリアムに、フィオラは尋ねる。
「だめだよ、ねえさま。リアムはひとりで食べたいです」
きっぱりと断られ、冷たいとつぶやくと
「セッティングしたり運ぶみなさんのことを考えてください。となりあわせで食べたいなら、先にそう言うべきでしょう」
と、諭される。
ふうっ、とフィオラはため息をつき、奥に控える自分の侍女を振り返った。若いほうはマレーネ、年配のほうがカレン。先程までは入れ替り立ち代わり食事の用意をしてくれていた。確かに今席を移れば、彼女たちはまた同じ作業をすることになる。
「そうね。明日にするわ」
まだ話足らなさそうなフィオラに、リアムは小さな手で上品にパンをちぎりながら、
「ねえさま、あとで遊戯室へ行きましょう。チェスがしたいです」
とかわいく首をかしげてねだった。
勿論、それが単に姉の話をきいてやろうとする、幼い子供らしからぬ気遣いとは、皆分かっているが、この愛嬌である。ついフィオラは笑顔になって、いいわよと応じてしまうのだった。
食事を終えて二人は、遊戯室の端にある背の高いチェスボードに向かい合わせにすわり、駒を戦わせていた。
「昼間のこと、ねえさまはなにか考えているの?」
上手くナイトを動かしながらリアムが尋ねる。
ふむ、とフィオラは口元に指先をよせた。
「できたら、王子様の怒りを買うことなく『この子は不適格』と思わせる必要があるわよね。病弱だとか?」
そう言うと、リアムは少し考えてから
「ねえさまはひとより頑丈だって、お父様があちこちでいい回ってます…いまさら仮病では、お父様は赦して下さらないのでは?」
はっきりと首をふった。
「あとは、実は物凄くアホだとか、驚くほどの不美人だとか…素行不良とか。不美人は無理よね、私は自分でも時々驚くほどかわいいもの」
ふむ、と頬に手を当てる姉に、弟は
「時々ねえさまのその自信が、どこから来るのかとふしぎに思いますよ。まあ、アホに見せるのはかんたんだけど、お父様のあの様子だと、もっときびしい家庭教師をつけられるかも」
と応じた。そうよね、それが問題だわ、とフィオラはため息をつく。
「やっぱり素行不良かしら。でも、素行不良ってどんな…」
そう言って、柱時計を見上げた。数ヶ月ほど前から7時を指して止まっているが、使用人たちは気づいていないのか、ずっとそのままになっている。
不思議なのは、夜中になるとこの柱時計が鳴るという噂があることだ。
「不適格…素行不良。そうだわリアム、いいかんがえがあるわよ!」
フィオラの微笑みに、リアムはなんとなく嫌な汗が、背中をつたうのをかんじた。
「ねえ、そっちへ行ってもいいかしら?」
おとなしくセッティングされた席についているリアムに、フィオラは尋ねる。
「だめだよ、ねえさま。リアムはひとりで食べたいです」
きっぱりと断られ、冷たいとつぶやくと
「セッティングしたり運ぶみなさんのことを考えてください。となりあわせで食べたいなら、先にそう言うべきでしょう」
と、諭される。
ふうっ、とフィオラはため息をつき、奥に控える自分の侍女を振り返った。若いほうはマレーネ、年配のほうがカレン。先程までは入れ替り立ち代わり食事の用意をしてくれていた。確かに今席を移れば、彼女たちはまた同じ作業をすることになる。
「そうね。明日にするわ」
まだ話足らなさそうなフィオラに、リアムは小さな手で上品にパンをちぎりながら、
「ねえさま、あとで遊戯室へ行きましょう。チェスがしたいです」
とかわいく首をかしげてねだった。
勿論、それが単に姉の話をきいてやろうとする、幼い子供らしからぬ気遣いとは、皆分かっているが、この愛嬌である。ついフィオラは笑顔になって、いいわよと応じてしまうのだった。
食事を終えて二人は、遊戯室の端にある背の高いチェスボードに向かい合わせにすわり、駒を戦わせていた。
「昼間のこと、ねえさまはなにか考えているの?」
上手くナイトを動かしながらリアムが尋ねる。
ふむ、とフィオラは口元に指先をよせた。
「できたら、王子様の怒りを買うことなく『この子は不適格』と思わせる必要があるわよね。病弱だとか?」
そう言うと、リアムは少し考えてから
「ねえさまはひとより頑丈だって、お父様があちこちでいい回ってます…いまさら仮病では、お父様は赦して下さらないのでは?」
はっきりと首をふった。
「あとは、実は物凄くアホだとか、驚くほどの不美人だとか…素行不良とか。不美人は無理よね、私は自分でも時々驚くほどかわいいもの」
ふむ、と頬に手を当てる姉に、弟は
「時々ねえさまのその自信が、どこから来るのかとふしぎに思いますよ。まあ、アホに見せるのはかんたんだけど、お父様のあの様子だと、もっときびしい家庭教師をつけられるかも」
と応じた。そうよね、それが問題だわ、とフィオラはため息をつく。
「やっぱり素行不良かしら。でも、素行不良ってどんな…」
そう言って、柱時計を見上げた。数ヶ月ほど前から7時を指して止まっているが、使用人たちは気づいていないのか、ずっとそのままになっている。
不思議なのは、夜中になるとこの柱時計が鳴るという噂があることだ。
「不適格…素行不良。そうだわリアム、いいかんがえがあるわよ!」
フィオラの微笑みに、リアムはなんとなく嫌な汗が、背中をつたうのをかんじた。
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