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幽霊と時計の秘密
司祭令嬢の作戦
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その週末、フィオラとリアム姉弟は美しく盛装されて、先日勉強していたあの庭に立っていた。
その日は庭には天幕が張られ、沢山の茶器や菓子が並べられており、バセッティ司祭に招待された貴族の子息子女が母親や、使用人に手を引かれて続々とやってきた。
全ては我が子を皇帝に次ぐ権力を持つと言われるバセッティ司祭の嫡子と、縁をつなぐためだ。親たちは二人の前に列をなしていた。
「フィオラ様、リアム様。このような盛大な茶会に呼んでいただいたこと、光栄に存じます」
息子たちの手をひいた年かさの婦人が、深々と頭を下げると、フィオラは胸に手をあてて膝をまげて頭をさげた。
「お越しいただけたこと感謝いたします、公爵夫人。この子がリアム、四歳です。弟はまだ幼く友人がおりませんの。ご子息がそうなってくだされればと、父が申しておりました」
とても6歳とはおもえぬ態度で、リアムを紹介した。リアムは公爵夫人と手を繋いでいる二人の息子に、
「リアム・バセッティです。おにいさんたちは、ボール遊びはすきですか?」
たどたどしいいいかたでたずねた。かわいいと口々にいいながらふたりが頷くと、リアムはフィオラをみあげた。フィオラにいいわよ、と言われて二人の少年と駆け出していく。
公爵夫人は満足そうに我が子たちを見送った。
「素晴らしいわ、フィオラ様はまだ小さいのに良いお姉さまなのですね」
公爵夫人たちは勧められた席に座り、フィオラに話しかけてきた。
「うちにはお父様しかおりませんでしたから、リアムが来てくれてとてもうれしいんです。…最近はふたりで沢山本を読みました」
まあ、と他の貴族の夫人たちがそれに反応する。
「大図書館の館長の、令嬢はどんな本を読むのかしら?是非とも知りたいわ!」
美しく着飾った少女は伯爵令嬢である。噂好きで、社交界で知らぬことはないと皆が認めた女性だとフィオラは口元をひきあげた。作戦決行、と心のなかで呟く。
ええと、と周りを見回し、お茶を啜った。
「一番気に入ったのはシルビエラ戦記のなかの、斬首された将軍の話でしょうか。ぞくぞくするような、呪いとまじないの物語でしたわ」
すると、まじないですか?と公爵夫人が眉根を寄せた。
この国では、知識こそ至上とされている。
第一、この科学の時代にまじないや魔法などというのは古くさく、子供っぽいと上流階級の大人は歯牙にもかけないだろう。
ふたりはそれを逆手にとることにしたのだ。つまり、フィオラはあやしげな魔法や魔術に傾倒している子供っぽい性格だ、という噂を流し、皇太子妃候補として不適格の烙印を捺されようというのだ。
ところが…
「まあ!それはとてもドキドキしますわね!わたくしの城にも、とても恐ろしい幽霊が出ますのよ!」
公爵夫人はまゆをしかめたまま、そう言ったのだった。
「うちは古い城でしょう?フィオラ様ほどであれば、あの幽霊が何者かご存知かもしれませんが」
まるで自慢するように言われて
「……公爵邸…隻眼の姫の幽霊でしょうか?それとも、よく聞く血だらけ男爵かも…」
んふふ、と公爵夫人は手を口元へもっていって笑った。伯爵令嬢も身を乗り出してきた。
「女はいつも、秘密と不思議が好きなものですものね…ねえ、ご存じ?王宮殿の井戸に、コインを投げると出てくる女の霊の話…」
まあ、恐ろしい、なんでしょう?と話を合わせながら、フィオラは心ひそかに唇を噛んでいた。評判が下がるどころか、フィオラをかこんで婦人や令嬢たちの、幽霊や魔法の同好会が今しも結成されてしまいそうな勢いだった。
その日は庭には天幕が張られ、沢山の茶器や菓子が並べられており、バセッティ司祭に招待された貴族の子息子女が母親や、使用人に手を引かれて続々とやってきた。
全ては我が子を皇帝に次ぐ権力を持つと言われるバセッティ司祭の嫡子と、縁をつなぐためだ。親たちは二人の前に列をなしていた。
「フィオラ様、リアム様。このような盛大な茶会に呼んでいただいたこと、光栄に存じます」
息子たちの手をひいた年かさの婦人が、深々と頭を下げると、フィオラは胸に手をあてて膝をまげて頭をさげた。
「お越しいただけたこと感謝いたします、公爵夫人。この子がリアム、四歳です。弟はまだ幼く友人がおりませんの。ご子息がそうなってくだされればと、父が申しておりました」
とても6歳とはおもえぬ態度で、リアムを紹介した。リアムは公爵夫人と手を繋いでいる二人の息子に、
「リアム・バセッティです。おにいさんたちは、ボール遊びはすきですか?」
たどたどしいいいかたでたずねた。かわいいと口々にいいながらふたりが頷くと、リアムはフィオラをみあげた。フィオラにいいわよ、と言われて二人の少年と駆け出していく。
公爵夫人は満足そうに我が子たちを見送った。
「素晴らしいわ、フィオラ様はまだ小さいのに良いお姉さまなのですね」
公爵夫人たちは勧められた席に座り、フィオラに話しかけてきた。
「うちにはお父様しかおりませんでしたから、リアムが来てくれてとてもうれしいんです。…最近はふたりで沢山本を読みました」
まあ、と他の貴族の夫人たちがそれに反応する。
「大図書館の館長の、令嬢はどんな本を読むのかしら?是非とも知りたいわ!」
美しく着飾った少女は伯爵令嬢である。噂好きで、社交界で知らぬことはないと皆が認めた女性だとフィオラは口元をひきあげた。作戦決行、と心のなかで呟く。
ええと、と周りを見回し、お茶を啜った。
「一番気に入ったのはシルビエラ戦記のなかの、斬首された将軍の話でしょうか。ぞくぞくするような、呪いとまじないの物語でしたわ」
すると、まじないですか?と公爵夫人が眉根を寄せた。
この国では、知識こそ至上とされている。
第一、この科学の時代にまじないや魔法などというのは古くさく、子供っぽいと上流階級の大人は歯牙にもかけないだろう。
ふたりはそれを逆手にとることにしたのだ。つまり、フィオラはあやしげな魔法や魔術に傾倒している子供っぽい性格だ、という噂を流し、皇太子妃候補として不適格の烙印を捺されようというのだ。
ところが…
「まあ!それはとてもドキドキしますわね!わたくしの城にも、とても恐ろしい幽霊が出ますのよ!」
公爵夫人はまゆをしかめたまま、そう言ったのだった。
「うちは古い城でしょう?フィオラ様ほどであれば、あの幽霊が何者かご存知かもしれませんが」
まるで自慢するように言われて
「……公爵邸…隻眼の姫の幽霊でしょうか?それとも、よく聞く血だらけ男爵かも…」
んふふ、と公爵夫人は手を口元へもっていって笑った。伯爵令嬢も身を乗り出してきた。
「女はいつも、秘密と不思議が好きなものですものね…ねえ、ご存じ?王宮殿の井戸に、コインを投げると出てくる女の霊の話…」
まあ、恐ろしい、なんでしょう?と話を合わせながら、フィオラは心ひそかに唇を噛んでいた。評判が下がるどころか、フィオラをかこんで婦人や令嬢たちの、幽霊や魔法の同好会が今しも結成されてしまいそうな勢いだった。
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