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バセッティ家、令息の苦悩
みどりの目
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リアムは唯一の家族である。と、フィオラは考えていた。バセッティ司祭が横暴な支配者であればあるほど、フィオラはリアムだけが自分にとっての理解者であり、あるいはフィオラが守らねばならないかけがえのないものに感じた。
だが、リアム自身はそうではないらしいと思うようになったのは、リアムが寮へ入るために家をでて、時折しか帰らなくなってからだ。
「リアムに、迷惑をかけたくなくて…かといって、お父様にエスコートを頼むと、すぐに王太子殿下の名前を出すのだもの」
そう言って、フィオラはまごまごと掌を擦り合わせた。先程からリアムは、暗い炎を宿したような瞳でフィオラを睨みつけている。余程腹に据えかねているのかと、フィオラは俯いてしまった。
「男爵令息はまだ15よ?あなたとそうかわりないし、気のいいかたなのでつい…たぶん、本の隠喩のこともご存知ないのかも」
そう言うと、リアムは音をたててテーブルを叩いた。乗せられていた茶器が、ぶつかりあって僅かに水滴を散らせた。
ビクッと体をちぢこませたフィオラに気づいたリアムが、ふうっとため息をついて席に座り、きつく目を瞑って眉間に皺をよせたあと、ごめんなさいと呟いた。
「乱暴な真似をしてごめんなさい。でも、姉さんは人が良すぎる。中にはいい人間のふりをして、ひとを騙すような輩だっているんですよ?」
そう言ってお茶を飲み、暫く返答を待った。そうね、とフィオラは頷く。
「気を付けるわ。それから、もう本の話はしない」
ぎゅっと膝を掴み、頷いた。
「僕ももう少し家へ帰るようにする、できる限り姉さんのエスコートは僕がします…いいよね?」
身内にエスコートされるのは、いい年齢の令嬢からすると少し格好悪いのだが、いつもと違う甘えたような言い方をするリアムについフィオラはうなづいてしまう。
「よかった。姉さん、食べないならそれ、ください。なんだかお腹がすいちゃった」
どうやら機嫌は治ったらしいリアムに焼き菓子をねだられて自分のぶんも差し出しながら、フィオラは苦笑いをする。
「どこの子もそうかもしれないけど、子供だったり大人だったり、忙しいのね」
そういってリアムの前髪をはらおうと手をだして、やんわり拒否される。男の子って難しいのね、などと呟くのだった。
「普通ですよ、僕は。学校の友達も皆こんな風」
つまらなさそうに呟いて、ふうっと息を吐いてアカシアの木を見上げた。
「知ってますか、これ、ニセアカシアなんです」
何を言い出したのかとフィオラが首をかしげながら、頭の上の白い花を見上げた。あまく濃密な薫りが降ってきた。
「ニセアカシアは、アレロパシーという能力があるそうです…ある種の植物に有害なガスを出して、ライバルとなる植物が育たないよう枯らしてしまうんです。けして自分の邪魔をさせないために」
そう言うと、その房になって群れ咲く白い花弁をひとつちぎってくちにいれた。あっ!とフィオラが叫ぶと、
「大丈夫、心配ありませんよ。でもニセアカシアには毒もあるから、姉さんは真似をしないで?」
そう言ってすうっと目を細める。そんな風にするとリアムのみどりの目はやたらと際立つ。最近、リアムがよくするフィオラの知らない表情だ。
そんな表情をされると、リアムがまるで知らない男のようにみえて、フィオラは落ち着かない気分になり、煩く鳴る音を抑えようと胸のあたりに手をあてた。
「すぐに帰るつもりでしたが、休暇の終わる9月までここへ残ります」
リアムに言われ、フィオラは曖昧に笑うよりほかになにもできなかった。
だが、リアム自身はそうではないらしいと思うようになったのは、リアムが寮へ入るために家をでて、時折しか帰らなくなってからだ。
「リアムに、迷惑をかけたくなくて…かといって、お父様にエスコートを頼むと、すぐに王太子殿下の名前を出すのだもの」
そう言って、フィオラはまごまごと掌を擦り合わせた。先程からリアムは、暗い炎を宿したような瞳でフィオラを睨みつけている。余程腹に据えかねているのかと、フィオラは俯いてしまった。
「男爵令息はまだ15よ?あなたとそうかわりないし、気のいいかたなのでつい…たぶん、本の隠喩のこともご存知ないのかも」
そう言うと、リアムは音をたててテーブルを叩いた。乗せられていた茶器が、ぶつかりあって僅かに水滴を散らせた。
ビクッと体をちぢこませたフィオラに気づいたリアムが、ふうっとため息をついて席に座り、きつく目を瞑って眉間に皺をよせたあと、ごめんなさいと呟いた。
「乱暴な真似をしてごめんなさい。でも、姉さんは人が良すぎる。中にはいい人間のふりをして、ひとを騙すような輩だっているんですよ?」
そう言ってお茶を飲み、暫く返答を待った。そうね、とフィオラは頷く。
「気を付けるわ。それから、もう本の話はしない」
ぎゅっと膝を掴み、頷いた。
「僕ももう少し家へ帰るようにする、できる限り姉さんのエスコートは僕がします…いいよね?」
身内にエスコートされるのは、いい年齢の令嬢からすると少し格好悪いのだが、いつもと違う甘えたような言い方をするリアムについフィオラはうなづいてしまう。
「よかった。姉さん、食べないならそれ、ください。なんだかお腹がすいちゃった」
どうやら機嫌は治ったらしいリアムに焼き菓子をねだられて自分のぶんも差し出しながら、フィオラは苦笑いをする。
「どこの子もそうかもしれないけど、子供だったり大人だったり、忙しいのね」
そういってリアムの前髪をはらおうと手をだして、やんわり拒否される。男の子って難しいのね、などと呟くのだった。
「普通ですよ、僕は。学校の友達も皆こんな風」
つまらなさそうに呟いて、ふうっと息を吐いてアカシアの木を見上げた。
「知ってますか、これ、ニセアカシアなんです」
何を言い出したのかとフィオラが首をかしげながら、頭の上の白い花を見上げた。あまく濃密な薫りが降ってきた。
「ニセアカシアは、アレロパシーという能力があるそうです…ある種の植物に有害なガスを出して、ライバルとなる植物が育たないよう枯らしてしまうんです。けして自分の邪魔をさせないために」
そう言うと、その房になって群れ咲く白い花弁をひとつちぎってくちにいれた。あっ!とフィオラが叫ぶと、
「大丈夫、心配ありませんよ。でもニセアカシアには毒もあるから、姉さんは真似をしないで?」
そう言ってすうっと目を細める。そんな風にするとリアムのみどりの目はやたらと際立つ。最近、リアムがよくするフィオラの知らない表情だ。
そんな表情をされると、リアムがまるで知らない男のようにみえて、フィオラは落ち着かない気分になり、煩く鳴る音を抑えようと胸のあたりに手をあてた。
「すぐに帰るつもりでしたが、休暇の終わる9月までここへ残ります」
リアムに言われ、フィオラは曖昧に笑うよりほかになにもできなかった。
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