33 / 33
繰り返す悪夢の果て
全知全能の書
しおりを挟む
4人の脱出を見届けるようにして、数千年の歴史をもつ大図書館は崩れ落ちた。一部は完全に崖下へと崩落し、残った部分も凡そ原型を留めてはいなかった。
それから3年。正式な皇太子となったメルヴィル皇女は、学園を卒業したフィオラ・バセッティを、大図書館の新しい司祭とすることを、国じゅうに知らしめた。新たな司祭が決まり、国の叡知の象徴たる大図書館を復興すると。
その発表を、国民は熱狂でもって歓迎した。
「でもいいのかしら、カンタレラは行方不明のままなのに」
フィオラは屋敷の庭に出したテーブルに、リアムと向かい合ってすわり、呟いた。
「不思議だよね、崩れ落ちたからといって、あの場所にあることにかわりないはずなのに」
リアムも、お茶のカップを覗き込みながら呟く。
復興の発表よりずっと前から、メルヴィルは王宮の兵たちに命じて、図書館の蔵書を王宮殿で保護してくれていた。だが、そのなかをどれ程探してもカンタレラはみつからなかったのだ。
無論、リアムとフィオラも何度も足を運んだが、どういうわけか、あの大きな、しかもフィオラが傷までつけた本がみつからないのだ。
「崖下も捜索はするといっていたけれど、私は見つからないような気がしているの」
と、フィオラはリアムをみた。
美しいみどりの瞳が、ニセアカシアの葉陰を移して柔らかく微笑んでいる。それを見るたびに、どきどきとフィオラの胸はいまにも壊れそうなほど高鳴るのだ。
「……わかるよ、フィオラ」
リアムはそっとテーブルの上のフィオラの手を握った。フィオラは頬をそめてリアムを見上げる。
「それでね、メルヴィル皇女はカンタレラをみつけられないお詫びにって、何でもひとつ、プレゼントを下さるって言うから」
んん、とリアムが眉をよせた。まさかと唇が動く。
「私、自動車をお願いしたの。これで自分で何処へでも行って、講演でも式典でも行えるわね!」
リアムのみどりの瞳が、驚愕に見開かれる。
フィオラはいたずらそうに笑い、そんなに心配しなくてもそのうち慣れるって聞いたわよ、と笑った。
「ねえさん!?いや、フィオラ、正気なの!?あれは爆発するってきいたよ!なんで馬車じゃ駄目なのさ!?」
しないわよう、いや、爆発する、と二人がやりあうこえが、晴れた日の、薔薇の咲き誇る美しい庭園に響きあっている。
幼い日、手を繋ぎあってこの庭園をかけていったふたりは、今日もこの場所でいつまでも笑いながら、変わらず話し続けていた。
それから3年。正式な皇太子となったメルヴィル皇女は、学園を卒業したフィオラ・バセッティを、大図書館の新しい司祭とすることを、国じゅうに知らしめた。新たな司祭が決まり、国の叡知の象徴たる大図書館を復興すると。
その発表を、国民は熱狂でもって歓迎した。
「でもいいのかしら、カンタレラは行方不明のままなのに」
フィオラは屋敷の庭に出したテーブルに、リアムと向かい合ってすわり、呟いた。
「不思議だよね、崩れ落ちたからといって、あの場所にあることにかわりないはずなのに」
リアムも、お茶のカップを覗き込みながら呟く。
復興の発表よりずっと前から、メルヴィルは王宮の兵たちに命じて、図書館の蔵書を王宮殿で保護してくれていた。だが、そのなかをどれ程探してもカンタレラはみつからなかったのだ。
無論、リアムとフィオラも何度も足を運んだが、どういうわけか、あの大きな、しかもフィオラが傷までつけた本がみつからないのだ。
「崖下も捜索はするといっていたけれど、私は見つからないような気がしているの」
と、フィオラはリアムをみた。
美しいみどりの瞳が、ニセアカシアの葉陰を移して柔らかく微笑んでいる。それを見るたびに、どきどきとフィオラの胸はいまにも壊れそうなほど高鳴るのだ。
「……わかるよ、フィオラ」
リアムはそっとテーブルの上のフィオラの手を握った。フィオラは頬をそめてリアムを見上げる。
「それでね、メルヴィル皇女はカンタレラをみつけられないお詫びにって、何でもひとつ、プレゼントを下さるって言うから」
んん、とリアムが眉をよせた。まさかと唇が動く。
「私、自動車をお願いしたの。これで自分で何処へでも行って、講演でも式典でも行えるわね!」
リアムのみどりの瞳が、驚愕に見開かれる。
フィオラはいたずらそうに笑い、そんなに心配しなくてもそのうち慣れるって聞いたわよ、と笑った。
「ねえさん!?いや、フィオラ、正気なの!?あれは爆発するってきいたよ!なんで馬車じゃ駄目なのさ!?」
しないわよう、いや、爆発する、と二人がやりあうこえが、晴れた日の、薔薇の咲き誇る美しい庭園に響きあっている。
幼い日、手を繋ぎあってこの庭園をかけていったふたりは、今日もこの場所でいつまでも笑いながら、変わらず話し続けていた。
20
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
元平民だった侯爵令嬢の、たった一つの願い
雲乃琳雨
恋愛
バートン侯爵家の跡取りだった父を持つニナリアは、潜伏先の家から祖父に連れ去られ、侯爵家でメイドとして働いていた。18歳になったニナリアは、祖父の命令で従姉の代わりに元平民の騎士、アレン・ラディー子爵に嫁ぐことになる。
ニナリアは母のもとに戻りたいので、アレンと離婚したくて仕方がなかったが、結婚は国王の命令でもあったので、アレンが離婚に応じるはずもなかった。アレンが初めから溺愛してきたので、ニナリアは戸惑う。ニナリアは、自分の目的を果たすことができるのか?
元平民の侯爵令嬢が、自分の人生を取り戻す、溺愛から始まる物語。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦
未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?!
痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。
一体私が何をしたというのよーっ!
驚愕の異世界転生、始まり始まり。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
お邪魔しております。始めの一手、まで拝読しました。
この主人公さん、そして弟さん、好きですね。
お二人の関係性も性格も、すごく気に入っています。
この回の終盤で、何かを閃いたみたいですね。
それが何なのか……。今から、明日の拝読できる時間が楽しみです(待ち遠しいです)。
感想、ありがとうございます。リアムとフィオラ、子供時代が書いていて楽しかった作品でもあります。楽しんでいただけたら幸いです。
リアム(リュゼ)はあれほど虐げたフィロニアに付き纏いまた手に掛けようとしているのですか?
自分達が殺されたのは自業自得なのでは?フィロニアに育てられた息子達がフィロニアの復讐を果たしただけで、逆恨みにも程がある。
愚王と阿婆擦れ二人で地獄の底に沈めばよかったのに。
読んでいただきありがとうございます!
阿婆擦れ男爵令嬢(ミア)に関しては、ガッツリ地獄ゆきにするつもりで。どこがいいですかねえ、生臭くて泣き叫んでも帰ってこれない、マグロ漁船か蟹工船が好きなんですが、山中の飯場もいいですかねえ。でもフィロニアの苦しみに匹敵するほど苦しんでもらわないと……なりませんからねえ。
リアム(リュゼ)がフィロニアをおいかけて転生してきた理由を、男爵令嬢もフィオラも知りません。愚王なりの心境というものも、これから書いてゆく予定ですが。その過程で、まだまだ辛酸を嘗めさせられ、苦しんで頂く所存で。
皇女さまに気に入られ、カンタレラらしき本を手にした転生令嬢、完結まであと少し、楽しんでいただけたら幸いです。