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断罪されたのはダレ?
マリアの能力
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目が覚めて、見覚えのない可愛らしい部屋に目をぱちぱちさせた。頬に触る感覚も、なんとなく違う。
キョロキョロしていると、若い侍女が扉をあけて入ってきた。
「お嬢様!お目覚めでございますね!」
侍女は呆然としている私に話しかけた。
「……あの、ごめんなさい、あなたは?」
私が尋ねると、侍女は真っ青になり、声もなく私を見つめた。
「マリアお嬢様さま…私がわからないのでございますか?」
ええ、と私が頷くと、もはや立っていられないのか侍女は膝から崩れ落ち、
「だ、誰か!誰か来て!お嬢様が!お嬢様が!」
そう叫びながら這うようにして廊下の方へ出ていった。ちょっと、まるで私が何かしたみたいだからやめてほしいんだけど、と思っていると、バタバタと足音がして、沢山の侍女や侍従が部屋になだれ込んで来たのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
なだれ込んできた侍女や侍従たちに呼ばれた医師は、困った様子で私は体に異常はなく、記憶が一時的に混乱している、と説明した。
まあ、そうだよね。私だって別の人間だなんて説明できないし、何より本物の本人はどこにいったのか、も説明できないもの。
はあ、とため息をついていると扉を勢いよく開けて女性が飛び込んできた。さっと私の体を抱きしめて涙を流す。
「マリア!可哀想に、なんということなの!」
私がまごまごしていると、後ろからレイモンド様が姿をみせた。なるほど、この体はカーラントベルク家の、マリア嬢なわけね。と、ようやく少し事態がのみこめた。そうね、レイモンド様には妹がいらしたんだったわね。あまりお会いした覚えがないから、まだ社交界にはでていないのかも。
「母様、マリアは母様も記憶に無いようですので、どうか…」
ああ神様!と私の耳元で女性は呟き、ぎゅうぎゅうに力をいれてくる。
「マリアのような心根の優しい子が、恐ろしい殺人事件を目の当たりにしたのですからそれくらい当たり前ですわ!おお、可哀想に!」
このとき私は生まれてはじめて誰かに抱き締められて、完全に固まってしまっていた。離してほしいけれど、この温もりは嫌ではない。突き放して、もし嫌われたら?そもそもマリアはこんなときどうしていたのかしら?
「マリアが困っているよ、離しなさい」
そう言って部屋に入ってきたのはカーラントベルク侯爵だろう。ぱっと見た目は先ほどいたお医者様と変わりないけど、マリアのお母様と睦まじそうだし。
「父さん、キンバリー公爵令嬢はどうなりましたか?」
レイモンドがたずねた。どうやら侯爵はキンバリー公爵家へ行っていたみたいね。
「レイモンド、それはマリアの前では…」
首をふり、侯爵はレイモンドに耳打ちした。やっぱり、私の体は死んでしまったのかしら?
「皇宮殿は蜂の巣をつついたような騒ぎだったよ、キンバリー公爵家は皇帝に次ぐほどの権力をもっているからな…そもそも、どうやら皇宮でキンバリー令嬢は随分と冷遇されていたらしい。それが明るみに出て、キンバリー公爵は完全に臨戦体制だ」
それは、とレイモンドが眉をしかめた。
「内戦が起こるということですか?」
「昨日今日のキンバリー公爵と令息の様子からして、避けられないかもしれん」
そんなはずはないわ、と言いかけて私は口を押さえた。お義父さまもお義兄さまも、葬儀さえ終われば私のことなんて忘れるはず。そこまでするとは思えない。
ああ、でも、もしかしたら葬儀代やなんかを皇室から出してもらえないか交渉しているのかも。
婚約破棄になったんだもの、持参金だって返してもらわなければならないしね。そうか、これは交渉なんだわ!流石冷静な二人ね。
「とりあえず、私は公爵家へ通うことになった。その前に可愛いマリアの診察をしておこうかと思ってね」
そういうと、さっと私の手をとって脈拍をはかり、目のなかを覗きこんだ。
「精霊の加護があるように」
唐突に私の体は暖かい風に吹かれた。ひらひらと春の花びらが私の回りに舞い、それを目でおっているとそれはベッドにつく前に消えていった。ずいぶんと体が軽くなっている。
ああ、これが有名なカーラントベルク公爵家の力なのね、と思っているとレイモンドが私の頭を撫でた。
「マリア、何が見えたの?」
「花ですわ…花吹雪です」
ほおお、とカーラントベルク侯爵と夫人が頷く。
「記憶は失くなっても、やはりマリアには精霊やその力が見えるのだね」
カーラントベルク侯爵は微笑み、優しく私の手をとった。
「不思議な子だ…なあマリア、お前は記憶は失ったかもしれないが、それでも私の娘であることに変わりはないよ」
ちがうわ、と私は言いたかった。私は死んだはずのアシュレイで、マリアがどこに行ったのかは 全く分からない。でも、いまそれを言うのはひどく躊躇われた。
「あ…ありがとう、ございます」
頭をさげると侯爵は悲しげにため息をついて、キンバリー公爵家へまた出掛けていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
どうやらマリアには、精霊やその力を見られるだけでなく、妖精も見えるらしい、とわかったのはその夜の事だ。
他所の家ではあっても、いつも通り私は小さなミルクピッチャーにはいったミルクを窓際へ置いていた。
「お嬢様、これはなにを?」
ミルクを持ってこさせた侍女…キャルは怪訝そうだったけれど、私は構わず其を窓のそとへ置いた。
「ちょっとしたおまじないよ」
その夜半のことだ。
冷えるかもしれないからとキャルは私の部屋の窓を閉めた筈だった。僅かに開いているカーテンの隙間から、なにかの明かりがみえて、私はベッドから起き出した。
そっとカーテンの隙間を広げてみると、ちょうど掌位の大きさの、オレンジ色の羽の生えた男の子がみえた。
「《え、なんだよ、まだ起きてるじゃん》」
私と目があうと、男の子は慌てたように回りをみまわした。
キョロキョロしていると、若い侍女が扉をあけて入ってきた。
「お嬢様!お目覚めでございますね!」
侍女は呆然としている私に話しかけた。
「……あの、ごめんなさい、あなたは?」
私が尋ねると、侍女は真っ青になり、声もなく私を見つめた。
「マリアお嬢様さま…私がわからないのでございますか?」
ええ、と私が頷くと、もはや立っていられないのか侍女は膝から崩れ落ち、
「だ、誰か!誰か来て!お嬢様が!お嬢様が!」
そう叫びながら這うようにして廊下の方へ出ていった。ちょっと、まるで私が何かしたみたいだからやめてほしいんだけど、と思っていると、バタバタと足音がして、沢山の侍女や侍従が部屋になだれ込んで来たのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
なだれ込んできた侍女や侍従たちに呼ばれた医師は、困った様子で私は体に異常はなく、記憶が一時的に混乱している、と説明した。
まあ、そうだよね。私だって別の人間だなんて説明できないし、何より本物の本人はどこにいったのか、も説明できないもの。
はあ、とため息をついていると扉を勢いよく開けて女性が飛び込んできた。さっと私の体を抱きしめて涙を流す。
「マリア!可哀想に、なんということなの!」
私がまごまごしていると、後ろからレイモンド様が姿をみせた。なるほど、この体はカーラントベルク家の、マリア嬢なわけね。と、ようやく少し事態がのみこめた。そうね、レイモンド様には妹がいらしたんだったわね。あまりお会いした覚えがないから、まだ社交界にはでていないのかも。
「母様、マリアは母様も記憶に無いようですので、どうか…」
ああ神様!と私の耳元で女性は呟き、ぎゅうぎゅうに力をいれてくる。
「マリアのような心根の優しい子が、恐ろしい殺人事件を目の当たりにしたのですからそれくらい当たり前ですわ!おお、可哀想に!」
このとき私は生まれてはじめて誰かに抱き締められて、完全に固まってしまっていた。離してほしいけれど、この温もりは嫌ではない。突き放して、もし嫌われたら?そもそもマリアはこんなときどうしていたのかしら?
「マリアが困っているよ、離しなさい」
そう言って部屋に入ってきたのはカーラントベルク侯爵だろう。ぱっと見た目は先ほどいたお医者様と変わりないけど、マリアのお母様と睦まじそうだし。
「父さん、キンバリー公爵令嬢はどうなりましたか?」
レイモンドがたずねた。どうやら侯爵はキンバリー公爵家へ行っていたみたいね。
「レイモンド、それはマリアの前では…」
首をふり、侯爵はレイモンドに耳打ちした。やっぱり、私の体は死んでしまったのかしら?
「皇宮殿は蜂の巣をつついたような騒ぎだったよ、キンバリー公爵家は皇帝に次ぐほどの権力をもっているからな…そもそも、どうやら皇宮でキンバリー令嬢は随分と冷遇されていたらしい。それが明るみに出て、キンバリー公爵は完全に臨戦体制だ」
それは、とレイモンドが眉をしかめた。
「内戦が起こるということですか?」
「昨日今日のキンバリー公爵と令息の様子からして、避けられないかもしれん」
そんなはずはないわ、と言いかけて私は口を押さえた。お義父さまもお義兄さまも、葬儀さえ終われば私のことなんて忘れるはず。そこまでするとは思えない。
ああ、でも、もしかしたら葬儀代やなんかを皇室から出してもらえないか交渉しているのかも。
婚約破棄になったんだもの、持参金だって返してもらわなければならないしね。そうか、これは交渉なんだわ!流石冷静な二人ね。
「とりあえず、私は公爵家へ通うことになった。その前に可愛いマリアの診察をしておこうかと思ってね」
そういうと、さっと私の手をとって脈拍をはかり、目のなかを覗きこんだ。
「精霊の加護があるように」
唐突に私の体は暖かい風に吹かれた。ひらひらと春の花びらが私の回りに舞い、それを目でおっているとそれはベッドにつく前に消えていった。ずいぶんと体が軽くなっている。
ああ、これが有名なカーラントベルク公爵家の力なのね、と思っているとレイモンドが私の頭を撫でた。
「マリア、何が見えたの?」
「花ですわ…花吹雪です」
ほおお、とカーラントベルク侯爵と夫人が頷く。
「記憶は失くなっても、やはりマリアには精霊やその力が見えるのだね」
カーラントベルク侯爵は微笑み、優しく私の手をとった。
「不思議な子だ…なあマリア、お前は記憶は失ったかもしれないが、それでも私の娘であることに変わりはないよ」
ちがうわ、と私は言いたかった。私は死んだはずのアシュレイで、マリアがどこに行ったのかは 全く分からない。でも、いまそれを言うのはひどく躊躇われた。
「あ…ありがとう、ございます」
頭をさげると侯爵は悲しげにため息をついて、キンバリー公爵家へまた出掛けていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
どうやらマリアには、精霊やその力を見られるだけでなく、妖精も見えるらしい、とわかったのはその夜の事だ。
他所の家ではあっても、いつも通り私は小さなミルクピッチャーにはいったミルクを窓際へ置いていた。
「お嬢様、これはなにを?」
ミルクを持ってこさせた侍女…キャルは怪訝そうだったけれど、私は構わず其を窓のそとへ置いた。
「ちょっとしたおまじないよ」
その夜半のことだ。
冷えるかもしれないからとキャルは私の部屋の窓を閉めた筈だった。僅かに開いているカーテンの隙間から、なにかの明かりがみえて、私はベッドから起き出した。
そっとカーテンの隙間を広げてみると、ちょうど掌位の大きさの、オレンジ色の羽の生えた男の子がみえた。
「《え、なんだよ、まだ起きてるじゃん》」
私と目があうと、男の子は慌てたように回りをみまわした。
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