どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや

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悪役令嬢が去ったあと

薔薇の天蓋

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良く見知ったキンバリー邸で私は、自分の寝顔を見下ろしていた。よかった、今夜は自由に動き回れるらしい。昨晩みたいにただ映像を見せられるだけ、というのはかなりきつい。

単にミルラの記憶を見せられてるだけみたいだから、見つかったりしないんだろうけど、そろそろと私はマリアが入ってるらしいアシュレイにちかづいた。
「《自分の姿をじっくり眺めるのは、どんな気分だい?》」
誰かに話しかけられて、ぎょっとしてあたりを見回すと、カーテンのあたりに一人の男の人が立っていた。

男の人の髪は、まるで女性のようにカールしてたれさがっていて、服はどこか異国の民族衣裳のような前で合わせる形で、つやがあり、柔らかなドレープをえがいている。

誰なの、と尋ねようとすると男の人は
「《バロウズだ。キンバリーの娘が私に質問することは赦されないよ》」
鋭い視線で私をにらみ、それから寝台の脇へと歩いて行く。

「《マリア。可愛い私の夕陽の髪の乙女。起きるんだ、愛しい人》」
私を牽制したときとは5オクターブくらい声のトーンが違う。それから、懐から出したのはミルラのとそっくりな革袋だった。

「《あ!》」
私は思わず声をあげた。小さな革袋から出て来たのが、庭にあるもっとも大きな木立の薔薇ほどもある薔薇の枝だったからだ。バロウズはなぜかちょっと満足そうな表情でこちらをちらりと見てからニヤリと笑い、それをマリアの頭の横に突き刺した。

枕に突き刺さったように見えたそれは、どんどんと大きくなる。え、私のベッドに薔薇を植えたってこと?と混乱していると、薔薇は次々と蔓を伸ばし、やがて天蓋全体を覆い尽くすほどにそだった。
「《ほら、君にプレゼント。みえるかい?》」
パアッとバロウズの手から放たれた光がベッドを包み、私は眩しさに目を覆った。

すぐ横でチッと舌打ちが聞こえる。
「《キンバリーの娘の癖に勝手に目を閉じるな。ちゃんと見ておけ、私の凄いところを》」
見てほしいの?なんで?とおもいながら目を開けると、天蓋はまるで、ありとあらゆる薔薇の展覧会のようになっていた。

「《凄いわ、とても綺麗ね》」
私がつい声に出すと、
「《キンバリーなんかに見せるために出したんじゃないぜ、夕陽の髪の乙女に見せたかったんだ》」
はぁ、じゃあ何で目を開けさせたのよ、と聞きたかったけれど、バロウズの姿は何処にもなかった。
「《言っておくが花だけじゃない、1輪づつ香りも素晴らしいんだからな!ちゃんと嗅いでおけよ!》」
もう何がしたいのかわからないわ、とバロウズの姿を探していると、か細い声が聞こえた。

「なに…どこなの、ここ」

私ってこんな声なの?それとも、声はマリアなのかしら?
「…皇宮の…薔薇?」
いいえ、ここは公爵家よ、と答えてあげたいけれど声はとどかない。どうなってるの?さっきバロウズには届いたのに。

私の姿をしたマリアはベッドから直接伸びた薔薇に驚きながら、あたりを見回す。ちょうど薔薇の反対側に、ベルを鳴らす紐が垂れ下がっていた。
「こうかしら」
紐を引っ張ると、チリリ、と遠くで音がした。

まもなく、侍女たちが音もなく使用人口から4人入ってきた。
「お嬢様がお目覚めです、ロノイから侍従長へ伝言をお願いします」
落ち着いた声で一番ベテランの侍女が指示を出す。
「プリシーは御典医様をお呼びして。ジョスリンはお水を汲んでいらっしゃい」
久しぶりに見た公爵家の使用人は、ものすごく冷静にみえた。
「はい。ああ、ナンシー様はこちらでお待ちになりますか?」
最後に指名されたジョスリンは、ナンシーとよびかけられたベテラン侍女に尋ねた。
「え?いいえ?わたくしは……失神します」

冷静ではなかった。ナンシーが安堵の微笑みを浮かべてぶっ倒れ、ジョスリンが
「み、みず、み、水!」
とうわ言のようにいいながらかけてゆき、呆然とそれをマリアが見ている。天蓋には今にもベッドの柱をへし折りそうなほどの薔薇。

なんかもう、滅茶苦茶ね。私はマリアのあたりまでおりて行き、成り行きを見守ることにした。

◇◇◇◇◇◇◇

ドカンと音がして、グレー色の痩せ細った大きなネズミが転がり込んできた。
「父上、邪魔です。どいてください」
入り口で転んだグレー色を踏み越えて、後ろから白銀の甲冑を着こんだ騎士が入ってくる。

「お兄様は」
そうよねマリア。倒れた時に一緒にいたのはレイモンド様だものね。でも、残念なのだけど…

「ああ、すまない。騎士達を訓練していたからな」
そう言って、お義兄さまは兜を脱ぐ。マリアは完全に混乱したらしく、なにも言わずに目をみはっている。そうよね、怖い顔の知らない男がでてきたものね?ごめんなさい。

どうしよう、と迷っていると、転げたあと息子に踏まれていたお義父様が叫んだ。
「典医殿!こちら、こちらへ!」
あっ!侯爵様だわ、何かわかるかも。私は身を乗り出した。

入り口のところへ来たカーラントベルク侯爵は、ひえ、と声をあげた。そうよね、朝の診察のときなかった薔薇が咲いていたら、驚くことこの上ないわよね。

「おとうさま」
か細くすがるように、入り口にマリア(私の姿)が手をのばした。けれど、それで反応するのは侯爵ではなくて。
「アシュレイ!!私はここだ!」
やせ形だったお義父さまはこの一週間ほどでガリガリに痩せていたけれど、どこにそんな力があったのか、お義兄さまを押しのけてすすんでくる。

可哀想なマリアは、すっかり訳がわからなくなったらしい。がくん、と差しのべていた手をシーツに投げ出し、表情も虚ろだ。

え、なに?考えるの放棄したの?ここで?


「どうしたんだ、なにか言いなさい。どこが痛いんだ?」
お義父さま顔が怖いわ。

「安心しろ、あの皇宮のやつらはすぐに血祭りにあげてお前の前に首を並べてやるからな」
お義兄さま…怖いわ。

マリアはまるで彫像のようなアルカイックスマイルで固まっている。怖すぎたわよね、すぐ側にいた私も怖かったわ。

「!しゃべれないのか!!」
お義父様、声が大きいわ。鼓膜がどうかなりそうな程の音量でお義父様は叫び、侯爵にすがり付いた。
「ッヒッ!!」
カーラントベルク侯爵様はほぼネズミの妖怪みたいな形相のお義父様にすがり付かれて再び声をあげる。

こんなに酷いパニックを私は見たことがない。ホントにこれがキンバリー公爵家なの?それともミルラが私を妖精の森に連れ去るために見せた悪夢?

呆然としていると、あたりが少しずつまた白っぽく霞みはじめた。
「《まって、まだ…なにも!》」
私はマリアのほうへ手を差し出したけれど、その手はいつの間にか、いつもの質素なマリアのベッドのシーツを掴んでいた。

◇◇◇◇◇◇

私ががっかりして体を起こすと、すいーっとミルラが飛んで来た。
「マリアが起きたらすぐ知らせろって言ってたろ?どうだ?」
どうだっていわれても。そうだわ、と私はミルラの体を捕まえた。
「おい、その新しいもん見つけた子供みたいな顔やめてくれよ」

「マリアが目を覚ましたんだから、マリアのところに行って、自分たちは入れ替わっちゃったんだ、って前皆に言えばいいのよ。そうすればきっと解決策が…」
チッと舌打ちしてミルラは手を簡単にすり抜け、私の周りを飛び回った。
「バカだなアシュレイ、キンバリーなんかに戻ればまた不幸になるんだ、戻らないほうがいいんだよ。バロウズが末代まで呪いをかけたんだから」
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