どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや

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悪役令嬢が去ったあと

皇宮は大変なようです

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呪われてる?キンバリー公爵家が?私は周りを飛び回るミルラをみた。
「ミルラ、どういうことなの?」
混乱した頭をかかえて、私はミルラに尋ねる。
「キンバリー公爵家は、小国の王から帝国の貴族にはなったけれど領地も従えていた貴族もそのままよ?財産もあるし、呪われてるなんて…」

私が首をふると、ミルラは
「でもミルクを窓辺に出しておいてくれるだろ?庭はいつでもキレイにしておくし、ガラス玉もとっておいてくれる。ホントは妖精を怒らせないためだろ?俺は嬉しいけど、他の奴らは当たり前だと思ってるし、やってくれなかったら腹をたててイタズラする。バロウズがそう決めたからさ」

そういえばなぜか、そんな決まりごとがあった。え、これが呪いなの?呪いって、普通もっとおどろおどろしいものでは?しないと地味に嫌なこと(椅子の足が折れてたり、ドレスに盛大に謎の茶色い輪ジミがあったり)がおきるんだけど、そんなのが?

私がベッドに座って首をかしげていると、ミルラは私の膝の上にすわった。後ろ頭がふわり、ふわりと揺れている。

「バロウズは緑の精霊王だぜ?イタズラは得意でも、痛めつけるのは俺らの性には合わないんだ。そういうのは、亡霊の森の悪鬼ぐらいだろ」

亡霊の森、と私はつぶやいた。ルディ殿下とリュシリュー、ゴーウィンが一緒にこっそり忍び込んだことのある、帝都郊外の北側にある深い森。昼でも鬱蒼と木々が生い茂り、なんとなくあまり近寄りたくはないいっぽうで、男の子や若者たちが肝試しに入った話は珍しくない。

「痛めつけるような呪いでないなら、いいじゃない」
「アシュレイは嫌だろ?家のやつらが無表情なのも、婚約者に愛して貰えなかったときも、泣いてたじゃないか」

それもみんな呪いのせいなの?と私は首をかしげた。
「バロウズのやつは、キンバリーに惚れてフィヨールカを去った自分の妹が戻ってくるようにキンバリーの屋敷にそんな呪いをかけたのさ。好きな人に、好きだと伝わらないよう、笑顔や思いやりの言葉を封じる呪いだ」

なんて悪質な呪いをかけるのよ。だったら、何代にもわたって険しい表情がデフォルトなのも頷けるわ。威厳を示すための渋面かとおもっていたけど、単にそう動かないだけなのね。

「……待って、私は笑えるわよ」
ミルラに尋ねる。うん、子供のころから笑っていたし、庭に怪我をした子鹿が迷いこんだときは、手当てしても何の異変もなかった。思いやりの言葉だって普通にでるわ。
「ううーん、バロウズにとってアシュレイは、特別だからかな。あれだよ、夕陽の髪の乙女とおなじなんだ。一目惚れってやつ。案外あいつ惚れっぽいのかもな。だから、わざわざ体を入れ換えてまでフィヨールカに……あ、まずい」
ミルラはそう言って、くるんと回転して消えた。
「え、なに?なにか今言わなかった?」

私は慌ててミルラを探したけれど、ミルラはもう、影もかたちもみえなくなっていた。

◇◇◇◇◇◇◇◇

休息日だというのにマリアのお父様…侯爵はキンバリー公爵家へ出掛けていった。二人で上手く話せば入れ替わったことを説明できるかもしれないから、一緒に行きたいと伝えてみたけれど、侯爵は私をかわいそうなものを見るような目で見ただけだった。

そういえばマリアは私の追っかけだったのだっけ。
「もう少しアシュレイ嬢が元気になってきたら、お庭の隅から見せていただけるかもしれないよ」
レイモンド様が励ましてくださるけど、なんで隠れて観察するのが目的と思われちゃったんだろう…

ともかく、私にはやらなくてはならないことが沢山ある。今日は街へいって、ジェレミーに会ってリュシリューのお父様は無事か確認してこなくちゃならないし、私個人の手紙なんかを置いている私書箱を覗きにいかなくては。

「マリア、今日は僕と出掛けようか。僕が皇宮で検診している間、君は皇宮の庭園に行けるよ」

ああ、でも今日も一人ではでかけられなさそうね。
表情に出ていたのか、レイモンド様が首をかしげる。
「気がすすまないかい?」
いいえ、と私は首をふった。
「何も覚えていないので、皇宮でなにか失敗したらどうしようかと思っただけです」
レイモンド様はにこっと笑い、
「今日は両陛下も皇子様たちも検診日だから、誰にも会わないと思うよ」
と答えた。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇

確かにレイモンド様は誰にも会わないと言ったけれど、こうまでひと気がないなんて。私はキョロキョロしながら回廊を歩いていた。あ、ここからは皇子さまたちがいる宮殿だわ…引き返さないと。

以前私がお茶会や会談でここへ来ていたときは、皇子の宮殿にも沢山の使用人たちが働いていた。無礼もいろいろされたけれど、そもそも私が何者か知らない人たちもいて、たぶん数百人…もっと、いたと思う。

「……クモの巣だわ」
そこは、汚れて暗く、なんとなく陰気な場所になっていた。

「辞めたのは何人ですか?」
静かな宮殿のなかなので、誰かの話す声がとても響く。回廊のむこうの皇子宮のどこかの扉が開いているのかしら?
「しらないぞ、私がクビにしたわけではないのにどんどん辞めていくんだ」
「ミュシャ嬢の身柄を一度城下へ移しては?彼女はあまりにお金がかかりすぎます。身分は他の侍女より低いというのに、厚遇されすぎている」
あら、ルディ殿下の皇子宮にこんなことを言うかたがいたの?と側へ寄っていく。
「ミュシャはただの侍女じゃない、私の幼馴染みで私の婚約者なんだぞ!」
「婚約者は兄上が決められるわけではないでしょう…いまさら侍女に戻すこともできませんし、一旦愛妾として城下で囲っておけば、兄上の宮殿だけがこんな状態なのは解決しますよ」

兄上と呼んでいるということは、第二皇子殿下かしら?あまりお会いしたことはないけれど。
「うるっさい!貴様、私の皇太子としての地位だけでなくミュシャまで狙っているのだな!出ていけ、今すぐこの宮殿から出て行け!!」
ガラガラと何かがぶつかるような音がして、足音がしてきたので私は物陰にかくれた。頭を下げ、通りすぎるのを待っていると、
「申し訳ない、嫌な話を聞かせたね…兄上を頼む」
どうやら服装がシンプルすぎて宮仕えの侍女と間違えられたらしい。顔をあげるまでもなく、皇子殿下は立ち去っていった。
マリアが素朴な見た目の少女でよかった…

「《アシュレイ、庭に出て》」
足音が去ったのを確認していると、ポケットから顔を出して、ミルラがささやく。
「《何かあるの?》」
「《いいから、はやく!》」
急かされて、皇子宮から一番小さい近い階段から中庭へと降りていった。

「やっぱりここも荒れてるわ」
私が降り立ったのは、少し前までルディ殿下が友人やミュシャとお茶会を開いたりしていた中庭だ。
「《庭師もここにはよらなくなったからだよ》」
どうして?と思っているとミルラはポケットから出て胸元から例の革袋をだす。今日は金の粉ではなく、なにかブローチのようなものを取り出した。
「《これをそこの井戸に置いてきてよ》」
渡されたそれは、小鳥か宝石のついたさくらんぼを咥えているかたちに彫られていた。
「井戸?」

今はそこここに草が生えてなんとなくうら寂しい庭だけど、たしかにちょうど真ん中に、井戸というか、なにか石でできた筒のようなものが置いてあるのが見えた。
「《落ちないでよ》」
ミルラが言う。
「なんでそんなとこで見てるのよ、貴方がおけばいいじゃない」
「《俺は無理!怖いもん》」
何が怖いのよ、と井戸に近づいて、異変に気付いた。たしか、以前は子供が落ちたりしないようきちんと蓋がされていた。その蓋がないのだ。回りにあった筈の花壇もなくなり、かわりに梯子が井戸の脇にたてかけられていた。
「《そこ!そこに置いていって!》」
ミルラの指示するとおり、私はそのブローチを置いた。ブローチを井戸に置くとき、まるで井戸は息をするように生ぬるい風が底の方からふいてきた。

腐った肉のような、雨の日の下足のような、嫌な匂いがあがってきた。井戸の底から風だなんて、おかしいわ。
「《もういいから、早く行こうアシュレイ》」
ミルラが私の袖をひっぱった。

私はミルラに袖をひかれるがままに、皇宮の中の、レイモンド様のいるあたりへと急いでもどりはじめた。


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