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閑話 うちのおかしな妹について
テオドア・ゼクセン・キンバリー
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私がアシュレイと出会ったのは、私がまだ12、アシュレイは9歳のときだった。
アシュレイの父上が亡くなる直前、男やもめであった父上に、アシュレイとアシュレイの母君を頼むと遺言したからだったが、それは貴族としてはあまりに伝統的ではないやり方で、他の貴族たちからは不満の声も多かったらしい。
伝統的には、この場合、直系でなく嫁いできただけのキンバリー夫人は夫の死とともに爵位を娘に譲り、娘が結婚して夫とともに公爵を名乗る。それがいくつだろうと、直系しか爵位を名乗らないというのが、元王族たるキンバリーの伝統だった。
だから、私はアシュレイにはじめて会ったとき、ひとつの勘違いをしていた。
『この幼い高貴な姫君が、私の妻になるのだ』と。
いま思えばなんと思い上がった子供だったんだろう。だが、彼女の美しい所作や、優しくもどことなく寂しげな佇まいに私は強く心をうばわれた。
しかしそれも束の間、私の初恋は脆くも砕かれることになる。父の再婚によって。
「今日からはアシュレイ嬢がお前の義妹だ。護ってやるのだぞ」
父上の言葉に、私は一晩じゅう眠れなかった。なぜ?なぜ父上は伝統的なやり方をしてくれなかったんだ?私が未熟者だからか?それともアシュレイ姫が、私では嫌だと言ったのか?ぐるぐると頭のなかを疑問が渦巻いた。
いま思えばあれは幼い私と義妹を守るための、策だったのだとわかる。しかし、公爵が亡くなるまでアシュレイの母君と私の父上は、ほとんど面識すらなかった。それなのに再婚?あの夜の、まだ子供であった私には、到底理解できるものではなかったのだ。
翌早朝、稽古場へとむかった私は剣を一心不乱に振った。それから、身なりをととのえて父のもとへむかう。
「……おとうさま…いえ、父上、私はこれからアシュレイの、キンバリーの剣となります。騎士として、アシュレイを生涯守り抜きます」
そうか、と父上はうなづき、私が差し出した王立学園騎士科への入学願書へ、サインをいれてくれたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
バロウズがアシュレイを連れ去ったとき、私は何の策ももたなかった。燃え盛るバラの茂みのむこうにマリア嬢とレイモンドが消えたとき、私はとうとう片膝を地面についた。
護れなかった。約束したのに、連れ去られてしまった。この上は死んで、亡くなったキンバリー公爵にお詫びを…
「おいおいおい、止せ止せ!重いぞ!」
がちん、抜こうとしていた宝剣の鞘が元にもどった。こうした不思議な力は第二皇子殿下が持つものだ。
「まだアシュレイ嬢は生きてるだろ?そんなのよりカーラントベルク兄妹を追った方が良くないか?」
はあ、と顔をあげると、皇子殿下の顔がみえた。
「…魔法はどうした、ジェレミー」
ジェレミアス・デ・カロア・トレーレス。アシュレイの近くをうろうろしていた商売人のこの男が、皇室に縁のある人物だと知ったのは一年ほど前のことだ。
「止めてくださいよキンバリーの坊っちゃん、誰に聴かれるかわからないんだから」
とても第二皇子とはいえない砕けた口調でほほえみながらも、目は笑っていない。いかんな、怒らせたか?
「しっかりしろよ、テオドア卿!」
ぱしっ、とはたかれて、ぼんやりと霧がかかったようだった頭がきゅうに回り始める。どうやらさっきアシュレイの手をつかんだとき、精霊王におかしな術をかけられたらしい。私は立ち上がり、宝剣をにぎる両手にぐっと力をこめた。
「カーラントベルク兄妹はまだそんなに遠くには行っていない。後を追います」
はいはーい、とジェレミー皇子は私に手を振る。
「ちゃんと戻ってくるんだぞ、魔術師はいっぱいいるけど、私の護衛騎士はおまえ一人なんだからな!」
その言葉に、
「殿下に騎士はいらんでしょう」
と返して走り出した。
何かまだ言っていたけれど、それは燃え盛るつるバラの音にかき消されてしまった。
アシュレイの父上が亡くなる直前、男やもめであった父上に、アシュレイとアシュレイの母君を頼むと遺言したからだったが、それは貴族としてはあまりに伝統的ではないやり方で、他の貴族たちからは不満の声も多かったらしい。
伝統的には、この場合、直系でなく嫁いできただけのキンバリー夫人は夫の死とともに爵位を娘に譲り、娘が結婚して夫とともに公爵を名乗る。それがいくつだろうと、直系しか爵位を名乗らないというのが、元王族たるキンバリーの伝統だった。
だから、私はアシュレイにはじめて会ったとき、ひとつの勘違いをしていた。
『この幼い高貴な姫君が、私の妻になるのだ』と。
いま思えばなんと思い上がった子供だったんだろう。だが、彼女の美しい所作や、優しくもどことなく寂しげな佇まいに私は強く心をうばわれた。
しかしそれも束の間、私の初恋は脆くも砕かれることになる。父の再婚によって。
「今日からはアシュレイ嬢がお前の義妹だ。護ってやるのだぞ」
父上の言葉に、私は一晩じゅう眠れなかった。なぜ?なぜ父上は伝統的なやり方をしてくれなかったんだ?私が未熟者だからか?それともアシュレイ姫が、私では嫌だと言ったのか?ぐるぐると頭のなかを疑問が渦巻いた。
いま思えばあれは幼い私と義妹を守るための、策だったのだとわかる。しかし、公爵が亡くなるまでアシュレイの母君と私の父上は、ほとんど面識すらなかった。それなのに再婚?あの夜の、まだ子供であった私には、到底理解できるものではなかったのだ。
翌早朝、稽古場へとむかった私は剣を一心不乱に振った。それから、身なりをととのえて父のもとへむかう。
「……おとうさま…いえ、父上、私はこれからアシュレイの、キンバリーの剣となります。騎士として、アシュレイを生涯守り抜きます」
そうか、と父上はうなづき、私が差し出した王立学園騎士科への入学願書へ、サインをいれてくれたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
バロウズがアシュレイを連れ去ったとき、私は何の策ももたなかった。燃え盛るバラの茂みのむこうにマリア嬢とレイモンドが消えたとき、私はとうとう片膝を地面についた。
護れなかった。約束したのに、連れ去られてしまった。この上は死んで、亡くなったキンバリー公爵にお詫びを…
「おいおいおい、止せ止せ!重いぞ!」
がちん、抜こうとしていた宝剣の鞘が元にもどった。こうした不思議な力は第二皇子殿下が持つものだ。
「まだアシュレイ嬢は生きてるだろ?そんなのよりカーラントベルク兄妹を追った方が良くないか?」
はあ、と顔をあげると、皇子殿下の顔がみえた。
「…魔法はどうした、ジェレミー」
ジェレミアス・デ・カロア・トレーレス。アシュレイの近くをうろうろしていた商売人のこの男が、皇室に縁のある人物だと知ったのは一年ほど前のことだ。
「止めてくださいよキンバリーの坊っちゃん、誰に聴かれるかわからないんだから」
とても第二皇子とはいえない砕けた口調でほほえみながらも、目は笑っていない。いかんな、怒らせたか?
「しっかりしろよ、テオドア卿!」
ぱしっ、とはたかれて、ぼんやりと霧がかかったようだった頭がきゅうに回り始める。どうやらさっきアシュレイの手をつかんだとき、精霊王におかしな術をかけられたらしい。私は立ち上がり、宝剣をにぎる両手にぐっと力をこめた。
「カーラントベルク兄妹はまだそんなに遠くには行っていない。後を追います」
はいはーい、とジェレミー皇子は私に手を振る。
「ちゃんと戻ってくるんだぞ、魔術師はいっぱいいるけど、私の護衛騎士はおまえ一人なんだからな!」
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「殿下に騎士はいらんでしょう」
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