やり直し令嬢の備忘録

西藤島 みや

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レイノルズの悪魔 社交界をあるく

公爵令嬢と侯爵令嬢

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リールが終わり、喉も乾いたしちょっと疲れてきた私はトリスを目で探した。
大広間の柱のむこうに等間隔に並んで立つ、令嬢の侍女たちのなかにトリスの姿はない。別の部屋か、控え室かしら?
宮廷の使用人に頼んで連れてきてもらうべきか、一人で行動すべきかと悩んでいると
「失礼、レイノルズ公爵令嬢。ご挨拶しても?」
軽く肩をたたかれて、疲れているのだけど、と思いながら振り返った。
「ええ。アイリス・レイノルズですわ。祖父はレイノルズ公爵で間違いありません」
ひきつったまま、頷くと肩を叩いた男性は微笑んで、
「レイノルズ公爵には随分と世話になりました、王宮にはなくてはならない人物だ」
と頷いた。誰だろうと思っていると、脇からまた声を掛けられる。
「レイノルズ公爵令嬢、次の曲はワルツだそうですよ、ご一緒できますか?」
「令嬢、庭園のモッコウバラをご覧になりましたか?」
次々に声をかけられ、あっという間に男性たちに取り囲まれた。私の身長では、周りが見えなくなり、だんだん心細くなってきたとき、
「アイリス、ここにいたのね?探したわ!」
ケラケラと笑い声がして、腕を引かれた。
「エリザベス様!」
男性達がさっと道をあける中をやってきて、エリザベスは当たり前のように私の手をひいた。
「アイリス、子爵さまを紹介して頂戴?お友達になりたいの」
歩きながら楽しげに言う。
「ええ、あの、ありがとうございます、エリザベスさま」
「エルよ、そう呼んで?」
機嫌よく歩いて行く。
「あの方達も悪いひと達ではないのよ?でも、ちょっと焦りすぎだと思うわ」
立ち止まったエルが振り返った。
「貴方はクロードと上手くいってないって噂があるの。ご存知ね?」
「はい…あの、それは…」
こちらへ来てと引っ張られて行ったのは、カーテンで仕切られたバルコニーのひとつだった。



バルコニーにつけられた石づくりの欄干によしかかり、エルは中庭を見下ろした。
「…ねえ、あなた、レイノルズの悪魔って呼ばれているのよ、知ってた?」
エルは中庭を見下ろしたまま、言う。
「わたくしも私のお友達も、貴方はずいぶんとわがままで、身の程知らずでクロードを苦しめてるってきいていたのよ」

ぴりっとした緊張に背筋をのばした。ここ最近忘れていたけれど、こうして戻される以前は何度もこうした事があったのだ。
人前では味方、よき友人と見せかけて、魂を削るような嫌がらせや悪口を言う。
何も珍しくはない、私だってレミやクロード様に近づく貴族令嬢たちをそうして蹴落としていたのだから。

「随分色々聞いたのよ?貴方はよそのお茶会へもほとんど姿を見せないけれど、王城へは何度も出入りしていたし、わたくしが送ったお茶の招待にも来なかった」
そんな招待の話はおじいさまから聞いていない。レンブラントだわ、と思うがまさか招待状を使用人に棄てられています、等と言える筈もない。
「……だから、ここに来たら一度お話してみたいと思っていたの」
エルはこちらへ向いて、花のようなその美貌に美しく笑みをうかべた。
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