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探求者と失われた禁書
銀の小箱と近衛騎士
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愛妾であるリディアという女性。ちょっと私たちのような、一般的な令嬢ではなさそうだわ。と思いながらちらりとウィリアムを見ると、ウィリアムもリディアの方を見ていた。
「ねえ、あなた」
リディアが私を手招きした。私はできるだけ何気なく、リディアの手の届かない位置にたつ。
「なにか?」
私が尋ねると、極彩色に塗られた長い爪のある指先を、ゆうるりと入り口の扉へ向けた。
「さっきの小箱、私が出ていったら、あなたにあげるわ」
猫のようにリディアの目が弧を描いた。笑っているのに、震えが来るなんて、どちらが悪役令嬢かわかったものじゃないわね。
壊れて飛び散った銀のかけらが、入り口あたりに飛び散っている。
「なぜ私ですの?」
私が言うと、あらあ、とまたリディアがしなを作った。
「だってここはあなたのものになるんでしょう?イライザ・グレアム侯爵令嬢様?あなた散々あちこちで言いふらして居たときいたわ」
ああ、そうね。そうだったわ。なんだかとても昔のようだけど、確かに私は半年ほど前まで、ジークフリードの妻になるつもりでいたんだった。
そして、私が妻になるのだから、ジークフリードが王位につけるはずだと信じていた。ウィンスレッド大伯父が必ず私を王妃にしてくれるだろうとおもっていたのだ。なんという思い上がった女だったんだろう。
「そんなこともありましたわね。ご存知?ジークフリード様は…」
私が嫌い、と言いかけた口を、ウィリアムが塞いだ。
「イライザ、ここにはとくに怪しいものはない。ジークフリード、アリーナ、行くぞ」
そう言うと、ウィリアムは私を荷物のように小脇に抱えた。吊り下げられて、え?と思っているうちに部屋の外へ運ばれてしまう。
「離してもらえないかな、それではイライザが苦しいだろう」
後ろから来たジークフリードがウィリアムを呼び止めると、ああ、とウィリアムは私をおろした。
私はやせ形だけど、飾り立てたドレスをきているのだから、かなり重いはず。
「皇太子殿下は、随分と剛力でいらっしゃるのね…」
人に聞かせるつもりもないひとり言だったけれど、ウィリアムがそれに振り向いた。
「そうだろう?大陸に行ったら荷役でもしようかと思っている」
バシッと音をたてて、アリーナがウィリアムの肩を叩いた。まあ、そうよね、無茶苦茶だわ。
「一国の皇太子が迂闊にそういう事を口にしてはダメよ」
アリーナに睨まれて、ウィリアムは叩かれた腕を擦りながら歩き出す。そのままウィリアムは後宮をあとにして、庭園を横切り、ウィリアムの宮殿へ向かうようだった。
いつの間にかユリウスもマクシミリアンもいなくなって4人になっているし、ついて行くべきか迷っていると少し遅れてしまう。ふと、背後にひとの気配を感じて振り向いた。
青と銀の房飾りのある制服に身を包んだ、近衛隊の騎士が驚いたように立ち止まった。どうやら後宮から着いてきたらしい。
「なにか、御用?」
私が尋ねるといいえ、と彼は一瞬否定し、それからハイ、と頷いた。
腰に下げている小型の鞄から、花柄の封筒を取り出すと、
「これをアリーナ様に渡すようユリアに言われたのですが、タイミングがなくて」
と頬を掻いた。ユリア、と言われてああ、工房技士のユリア・マルセルのことね、と受け取ろうとすると、突然後ろへ引っ張られた。
「王子の婚約者に付け文とはいい度胸だな」
ジークフリードはどうしてしまったのだろう?これではだれも私のそばに寄れない。
「貴様、名前は?」
王子に睨まれては、いくら近衛騎士でも生きた気持ちはしないだろう。体をこわばらせ、敬礼をした。
「ディーゼルです!いえ!ディーゼル・クロフォードです!」
可哀想に、完全に固まってしまっている。
「プロップテニスの仲間からアリーナへの手紙を預かったそうよ」
そういってアリーナへ手紙を渡した。
「ねえ、あなた」
リディアが私を手招きした。私はできるだけ何気なく、リディアの手の届かない位置にたつ。
「なにか?」
私が尋ねると、極彩色に塗られた長い爪のある指先を、ゆうるりと入り口の扉へ向けた。
「さっきの小箱、私が出ていったら、あなたにあげるわ」
猫のようにリディアの目が弧を描いた。笑っているのに、震えが来るなんて、どちらが悪役令嬢かわかったものじゃないわね。
壊れて飛び散った銀のかけらが、入り口あたりに飛び散っている。
「なぜ私ですの?」
私が言うと、あらあ、とまたリディアがしなを作った。
「だってここはあなたのものになるんでしょう?イライザ・グレアム侯爵令嬢様?あなた散々あちこちで言いふらして居たときいたわ」
ああ、そうね。そうだったわ。なんだかとても昔のようだけど、確かに私は半年ほど前まで、ジークフリードの妻になるつもりでいたんだった。
そして、私が妻になるのだから、ジークフリードが王位につけるはずだと信じていた。ウィンスレッド大伯父が必ず私を王妃にしてくれるだろうとおもっていたのだ。なんという思い上がった女だったんだろう。
「そんなこともありましたわね。ご存知?ジークフリード様は…」
私が嫌い、と言いかけた口を、ウィリアムが塞いだ。
「イライザ、ここにはとくに怪しいものはない。ジークフリード、アリーナ、行くぞ」
そう言うと、ウィリアムは私を荷物のように小脇に抱えた。吊り下げられて、え?と思っているうちに部屋の外へ運ばれてしまう。
「離してもらえないかな、それではイライザが苦しいだろう」
後ろから来たジークフリードがウィリアムを呼び止めると、ああ、とウィリアムは私をおろした。
私はやせ形だけど、飾り立てたドレスをきているのだから、かなり重いはず。
「皇太子殿下は、随分と剛力でいらっしゃるのね…」
人に聞かせるつもりもないひとり言だったけれど、ウィリアムがそれに振り向いた。
「そうだろう?大陸に行ったら荷役でもしようかと思っている」
バシッと音をたてて、アリーナがウィリアムの肩を叩いた。まあ、そうよね、無茶苦茶だわ。
「一国の皇太子が迂闊にそういう事を口にしてはダメよ」
アリーナに睨まれて、ウィリアムは叩かれた腕を擦りながら歩き出す。そのままウィリアムは後宮をあとにして、庭園を横切り、ウィリアムの宮殿へ向かうようだった。
いつの間にかユリウスもマクシミリアンもいなくなって4人になっているし、ついて行くべきか迷っていると少し遅れてしまう。ふと、背後にひとの気配を感じて振り向いた。
青と銀の房飾りのある制服に身を包んだ、近衛隊の騎士が驚いたように立ち止まった。どうやら後宮から着いてきたらしい。
「なにか、御用?」
私が尋ねるといいえ、と彼は一瞬否定し、それからハイ、と頷いた。
腰に下げている小型の鞄から、花柄の封筒を取り出すと、
「これをアリーナ様に渡すようユリアに言われたのですが、タイミングがなくて」
と頬を掻いた。ユリア、と言われてああ、工房技士のユリア・マルセルのことね、と受け取ろうとすると、突然後ろへ引っ張られた。
「王子の婚約者に付け文とはいい度胸だな」
ジークフリードはどうしてしまったのだろう?これではだれも私のそばに寄れない。
「貴様、名前は?」
王子に睨まれては、いくら近衛騎士でも生きた気持ちはしないだろう。体をこわばらせ、敬礼をした。
「ディーゼルです!いえ!ディーゼル・クロフォードです!」
可哀想に、完全に固まってしまっている。
「プロップテニスの仲間からアリーナへの手紙を預かったそうよ」
そういってアリーナへ手紙を渡した。
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