孤児の俺と魔術学院生活~人生逆転計画~

神堂皐月

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入学編

プロローグ

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 ラザフォード王国――『アレスティア』



 この街の郊外にひっそりと建つ孤児院があった。



 そこでは男女合わせて十数人の子供達が、20代くらいの1人のシスターと共に貧しくも楽しい生活を送っていた。



 修道院ではなく孤児院なのにシスターなのは、この女性ももともとは孤児として修道院に拾われた歴史を持つ。そこでシスターとして育ち、自身も多くの孤児を救いたいという想いから、宗教など関係なく迎えるために修道院ではなく孤児院を選んだのだ。



 貧しい生活のせいもあり、流行り病などにかかってしまっては薬を買うことが出来ずに悲しい結末を迎える子供も過去に何度もいたが、それでも子供達はすくすくと育ってくれていた。



 シスターも魔法の才があり、病気など体内に原因があるものは治せないが、怪我などの外傷なら治癒魔法で治すことができた。



「シスター! 痛いててて……っ。あははっ、また怪我しちゃった……!」



 扉を開き鼻水を垂らしながら現れた1人の男の子が、リビング代わりの広間で椅子に腰掛け縫い物をしていたシスターのもとに駆け寄ってきた。



「また危ないことしてたのね、アルヴィス。ほら、治してあげるからこっちにおいで」



 アルヴィスと呼ばれた5歳くらいの男の子は、えへへと笑いながら、縫い物を机に置いたシスターの膝上に乗った。



 治してもらうときはこうしてシスターの膝上に乗って魔法をかけてもらうのが、いつものことのようだ。



「ねぇ、アルヴィス。お願いだから、もう危ない大人達に近付いちゃダメよ?」



 肘や膝、額にまで擦りむいた傷があるアルヴィスに魔法をかけてあげながら、優しく話し掛けるシスター。



「でもシスター、あいつら、せっかくみんなのために取ってきた林檎を奪うんだ!」



 アルヴィスは、街の近くの森に実っている果物を採取することが日課となっていた。



 子供ながらに、少しでもシスターの役に立ちたいがための行動なのだ。



 シスターもそれを解っているから強く言うことが出来ず、毎日こうして怪我を治してあげていた。



「しょうがないのよ。私たちより、任務やお仕事で採っている大人達に優先権があるもの。私たちは残り物を採れるだけでも感謝しなくちゃ」



「任務ぅ? よくわかんないよ! とにかくボクは大人達が大っ嫌いだ!」



「私も大人よ?」



「シスターのことは好きぃー!」



「あははっ、くすぐったいよアルヴィス」



 怪我を治してもらうと、シスターに抱きつくアルヴィス。



 怪我の絶えない生活だが、アルヴィスは幸せに暮らしていた。







 ――アルヴィス、10歳。



「シスター、今日は大量だァ」



 背中に担ぐ竹製の籠に、溢れるほどの果物の山。



 アルヴィスは籠を玄関横におろすと、さらに片手に持っていた1羽の野うさぎを自慢顔でシスターに見せつけた。



「どうだ! 今日はごちそうだろ? 俺はシチューがいいなぁ」



「もうっ、アルヴィスったらまた! 私たちのために余計な殺生はダメって言ってるじゃない」



 喜んでもらえると思っていたアルヴィスは、シュンと小さくなる。



「……で、でも、これならみんなも喜ぶだろ?」



 シスターは尚も機嫌を窺うように言ってくるアルヴィスに、小さく溜め息を吐くと観念したように「わかったわ、今日はシチューにします」と承諾した。



 アルヴィスは嬉しそうに野うさぎを持ったまま、シスターの横を走り抜けてみんながいるはずの広間へと向かった。



 けれど、ゆっくりとした歩みで、玄関の籠を移動させようとしていたシスターのもとへと戻ってきた。



「……シスター……またか?」



 アルヴィスの沈んだ声に、シスターは何を聞かれているのかそれだけで察した。



「……ええ、今日は……リンちゃんと……シオンちゃんよ……」



「そっか……」



 アルヴィスはシスターの返答にぽつりと返す。



 シスターの呼ぶリンとシオンとは、小さい頃からアルヴィスと共に育ってきた孤児院の女の子だ。



 どちらともアルヴィスは仲良く、まるで兄妹のように育ってきた大切な家族であった。



 その2人が今日、アルヴィスのいない間に貴族に買われていったのだ。それも、1日の食費にもなるかどうかという程の安い金額でだ。



 もちろんシスターだってそんなことはしたくはない。だが、自身も孤児だったため戸籍も無く権力もないシスターが、貴族に歯向かえるはずがなかった。



 自分が殺されてしまえば、残された子供達が生きていけないからだ。



 だから、シスターは大人しく地面に投げ落とされる金を見つめて、大事な家族を連れ去る貴族がいなくなるのを待っているしかできなかった。怒りで噛んだ唇から血を垂らしながら。



「シスター……俺が絶対なんとかしてやるから……。俺が、俺が絶対に……っ」



 アルヴィスは歯を食い縛りながら、唸るように話し掛ける。



「だからさ……そんな顔、しないでくれよ……?」



 アルヴィスが見たシスターの顔。



 それは、連れ去られた2人の別れ際の表情を思い出したのか、悔しさでボロボロと涙と鼻水を流したくしゃくしゃなものだった。
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