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新人戦編 ―前編―

第22話 真の代表者

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 ――5月8日。



 新人戦代表者発表から既に1週間以上が過ぎ、試合当日まで1週間と迫っていた。だがあの日、エリザベスとの食事を終えてから今日までの間、1度もアヒムから何か仕掛けてくることが無く、アルヴィスはその事が逆に気掛かりになっていた。



 エリザベスはあの日の約束通り、毎日放課後になると演習場で模擬戦の相手をしてくれた。本当に約束通りで、アルヴィスから何か質問しても教えてくれることはなく「君ならわかるはずだよ」としか応えてくれなかった。



 そして模擬戦後になると、アヒムを警戒するためアルヴィスの方から尾行する、というのがここ数日のパターンである。



 今日もいつもの様に食堂でアヒムが食事をしにやって来るのを待っていると、いつも独りでやってくるアヒムが今日は他の生徒2人を引き連れて入ってきた。



(どこかで見たことあるような顔だな……。どこだったっけかなぁ……?)



 アルヴィスはアヒムと一緒に食堂へとやってきた2人の生徒、1人は眼鏡をかけている細身の長身男と、もう1人の160cmそこそこの女性としては長身のボブヘアーがよく似合う女生徒の顔を思い出そうと思考を巡らせるが。



(どこだ……いったいどこなんだ……)



「やっほー、私も来ちゃった! ここいいかな?」



 そこへ模擬戦後のシャワーを終えたであろうエリザベスがトレイを持ってやってきた。



 アルヴィスが手で隣の席へ座ることを促すと、そこへ寝巻き姿のエリザベスが腰を下ろす。さすがに自室ではないためか初めて会ったときのようなベビードールではなく、シルク地の白いパジャマだがそれでも妙に色気を感じてしまう。



 アルヴィスは風呂上がりの女の子はこうもいい香りがするものなのかと鼻孔のむず痒さを感じながら、エリザベスにもアヒムと一緒に来た2人の生徒に見覚えがないかと聞いてみた。



「んー……――あっ!」



「何かわかったか!?」



「そういえばあの2人って、いつも演習場の観戦席にいたよね。あの2人で一緒にいたところはみたことがないけど、うん、確かに間違いないと思うよ?」



「さっすがエリザ! 頼りになるぜ!」



「えへん! お姉さんにまっかせなさーい!」



 胸を張り胸元を叩くエリザベスの胸が弾むのをアルヴィスは見逃さなかったが、今の光景は自分の中でこっそり留めておこうと密かに思い視線を逸らす。



「ちなみにエリザ、あの2人のことは知ってるか?」



「さすがにそこまでは。ただここの寮生ではないと思うし、上級生でもないと思うよ?」



「そうか……。だとしたら俺たち新入生か――」



(外部の関係者ってところか)



「あの2人がどうかしたの?」



「いや、エリザが気にするようなことじゃないさ」



「そう? 君がそう言うのなら深くは聞かないけど、でも、何かするなら気を付けてね? あの2人、一緒にいるあの1年生くんより強いと思うから」



「――!? そっか。サンキューエリザ、助かった」



「いやいやぁー、後輩くんを優しく導くのも先輩の務めですから」



 隣でまた胸を張るエリザベスの姿を予感したアルヴィスは、咄嗟に視線を逸らし胸元を見ないようにした。もちろんアルヴィスも思春期の男だ、こういうことに興味もあれば意識もするが、するがゆえに模擬戦中雑念が入ってしまう。その為に今は意識的に回避しているのだ。



 そうこうしてる間に食事を終えたのか、アヒム達は席を立ち始めた。食堂を出る際チラとこちらを見てきたのをアルヴィスは見逃さなかった。



「作戦は整ったみたいだな」



(だが思い通りにはさせないぜアヒム!)



「エリザ、悪いが野暮用ができた。俺は先に行くぜ」



「え? うん? わかった。またねー!」



 アルヴィスは食器を片付け食堂を出ると、急いでアヒムを追うため走り出した。



(いつもアヒムは食後に図書室へ行く。ならまだ玄関辺りにいるはずだ!)



 玄関へ向かうため食堂からロビーへ向かう最初の角を曲がると――



「アヒム!?」



「待っていましたよ、アルヴィス・レインズワース!」



 そこにはアヒムと先程の2人が待っていたかのようにロビー中央に立っていた。



(俺がアヒムを尾行していたように、あいつも2人に見張らせていたんだ。俺の尾行もバレていて当然か)



「君がいつものように後を付けて来てくれてよかったですよ。これで準備は整いました。――ここにいらっしゃる1寮の皆さま! 僕は学年序列10位、アヒム・バルドゥル! ここにいるアルヴィス・レインズワースと新人戦代表の座をかけて今から決闘を致します! どうか皆さま、その目でどちらが真の代表に相応しいかご覧下さい!」



 アヒムは身ぶり手振りを交え仰々しくロビーにいる1寮生達に向かって叫びだした。すると食後の生徒や騒ぎに気付いた生徒達がゾロゾロとロビーに集まりだし始める。



 みな何事かと興味津々だ。中には騒ぎを煽るような言葉を叫ぶ生徒もいる。



「へっ、ちょうどいいぜ! 俺も小細工を仕掛けられるよりこっちのほうがよっぽど解りやすくて助かる。それにこれだけのギャラリーがいるなんて俺からしてみれば願ったり叶ったりだ」



「いつまでその余裕を保っていられるか楽しみですよ。場所は演習場です」



 アヒムは付いて来いとばかりに先を歩き出した。すると集まっていた生徒達もゾロゾロと向かいだす。ちょっとしたお祭り騒ぎになっている。
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