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【48】おんぼろ宿
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「着いたぞ」
宿が並ぶ通りを歩き続けること十数分、ロックがようやく足を止めた。
目の前には、宿が一軒。それは見るからにボロボロだった。
「……まさかとは思うけど、ここに泊まるとか言わないわよね?」
「そのまさかだ」
わたしはガクッと肩を落とす。
「ここは俺の顔なじみの宿だからな。他よりも安く済む」
「たとえ安くても……」
下手したら野宿の方がいいのでは、と言いたかったけど、思い直す。ベッドがあれば野宿よりも断然いい。
でも、宿の入口に張り紙が貼ってあるのが目に留まった。
「……ねえ、女人禁制って書いてあるんだけど」
「気にするな」
「気にするでしょう」
「断られたら別を探すまでだ」
「……はぁ、強引なんだから」
仕方ない。
この国のことは右も左も分からないし、ロックだけが頼りだ。
このままついて行くことにしよう。
「こんばんはー……」
宿の中へと入るロックの背を追って、わたしもお邪魔してみる。
すると、奥の暗がりから声が聞こえてきた。
「おや、客が来るとは珍しい」
長杖を付いてわたしたちの傍へと近づいてくるのは、白髪の御老人だった。
「ボノ爺、まだ生きてたか」
「お前さんもな」
「足は失ったがな」
「なぁに、命あってのもんだ」
ロックと、ボノと呼ばれた老人は軽口を叩き合う。どうやら本当に顔見知りのようだ。
「……ふむ、さて」
ボノさんが、わたしと目を合わせる。
と同時に、白い歯を見せて笑った。
「この子は、お前さんのコレか」
「違う」「ち、違います!」
その質問に、わたしとロックが即座に否定する。
わたしはともかく、そんなに早く違うって言わなくてもいいのに。
「名前はメル。俺の弟子だ」
「ほうほう、お前さんが弟子を取るとはな」
時代も変わったもんだと呟き、ボノさんはわたしに手を差し出す。
「ボノだ。おんぼろ宿の置物と思ってもらえれば光栄だ」
「初めまして、わたしはメルと言います」
ボノさんと握手を交わし、お辞儀をする。
それにしても、この宿……名前がそのまますぎる。
「おんぼろ宿は素泊まりだが、フォルトナでは一番安い宿だ。……値上がりしていなければな」
「安心せい、お値段据え置きだ」
おんぼろ宿は、フォルトナ共和国で一番の安さを誇る宿らしい。
ここを拠点に冒険者として活動するとすれば、あっという間にお金が貯まりそうだ。
「メルちゃん、おんぼろ宿の隣に大きな建物があったろう? あそこは共同浴場になってるから、風呂はそこに行きなさい」
「あ、ありがとうございます……」
……メルちゃん。ちゃん付け。
両親と学友にはよくちゃん付けされていたのを思い出す。
それよりも、お風呂だ。
おんぼろ宿にお風呂は付いていないみたいだけど、隣が共同浴場になっているらしい。ボノさんの話によれば、おんぼろ宿と提携しているので、半額で利用できるとのことだ。
ロックとボノさんが宿泊代や共同浴場の利用代について話しているのを横から聞いていたけど、いまいちまだ分からない。金銭感覚に乏しいので、もっと勉強する必要がありそう。
とか考えていた矢先のことだった。
「……ボノ爺、この額で本当にいいのか? 経営が傾くぞ」
「お前さんの弟子へのサービスだと思え」
ロックとボノさんの台詞に、わたしは慌てる。
これも『溺愛』の影響を受けているはずだ。
「あ、あの! せめて宿泊代は正規のお値段でお願いします!」
「いや、しかしなあ……」
「ちゃんとお支払いしたいので!」
「……うむぅ。メルちゃんがそこまで言うのなら仕方あるまい」
ボノさんが渋々承諾し、折れてくれた。
結局、宿泊代は通常通りとなった。まあ、それでも安いらしいけど。
「……あぁ、一つ言ってなかったが」
ロックが宿泊代を前払いし、部屋の鍵を受け取った。
とここで、ボノさんが今思い出したように付け加える。
「あいにく、二部屋は用意できないのでな、今日のところは同じ部屋で頼むぞ」
「え、一部屋……」
「まあ、のう。その部屋もまだ掃除が終わってないから、二人で片付けてもいいぞ」
「遠慮する。ボノ爺が片付けてくれ」
「老人使いが荒い奴だなぁ」
ほっほ、と笑う。
おんぼろ宿はボノさん一人で経営しているので、これも平常運転なのかもしれない。
「先に風呂に行くか」
「う、……うん」
仕方がないので、部屋の掃除が終わる前に強毒浴場へと足を伸ばすことにした。
しかし、どうしよう。
二部屋取るものだとばかり思っていたから、油断していた。
部屋が一つしか空いていない。
まさか、一緒の部屋でロックと寝泊まりすることになるなんて……。
チラッと、ロックの姿を横目に確認してみる。
けど、全く動じていない。
……いや、そうだよね。うん。
そもそも一週間以上二人きりで野宿してきたのだから、ロックにとっては今更なことかもしれない。
でも、でも、なんだか悔しい。
ロックの顔を見たまま、わたしは一人で勝手にムッとするのだった。
宿が並ぶ通りを歩き続けること十数分、ロックがようやく足を止めた。
目の前には、宿が一軒。それは見るからにボロボロだった。
「……まさかとは思うけど、ここに泊まるとか言わないわよね?」
「そのまさかだ」
わたしはガクッと肩を落とす。
「ここは俺の顔なじみの宿だからな。他よりも安く済む」
「たとえ安くても……」
下手したら野宿の方がいいのでは、と言いたかったけど、思い直す。ベッドがあれば野宿よりも断然いい。
でも、宿の入口に張り紙が貼ってあるのが目に留まった。
「……ねえ、女人禁制って書いてあるんだけど」
「気にするな」
「気にするでしょう」
「断られたら別を探すまでだ」
「……はぁ、強引なんだから」
仕方ない。
この国のことは右も左も分からないし、ロックだけが頼りだ。
このままついて行くことにしよう。
「こんばんはー……」
宿の中へと入るロックの背を追って、わたしもお邪魔してみる。
すると、奥の暗がりから声が聞こえてきた。
「おや、客が来るとは珍しい」
長杖を付いてわたしたちの傍へと近づいてくるのは、白髪の御老人だった。
「ボノ爺、まだ生きてたか」
「お前さんもな」
「足は失ったがな」
「なぁに、命あってのもんだ」
ロックと、ボノと呼ばれた老人は軽口を叩き合う。どうやら本当に顔見知りのようだ。
「……ふむ、さて」
ボノさんが、わたしと目を合わせる。
と同時に、白い歯を見せて笑った。
「この子は、お前さんのコレか」
「違う」「ち、違います!」
その質問に、わたしとロックが即座に否定する。
わたしはともかく、そんなに早く違うって言わなくてもいいのに。
「名前はメル。俺の弟子だ」
「ほうほう、お前さんが弟子を取るとはな」
時代も変わったもんだと呟き、ボノさんはわたしに手を差し出す。
「ボノだ。おんぼろ宿の置物と思ってもらえれば光栄だ」
「初めまして、わたしはメルと言います」
ボノさんと握手を交わし、お辞儀をする。
それにしても、この宿……名前がそのまますぎる。
「おんぼろ宿は素泊まりだが、フォルトナでは一番安い宿だ。……値上がりしていなければな」
「安心せい、お値段据え置きだ」
おんぼろ宿は、フォルトナ共和国で一番の安さを誇る宿らしい。
ここを拠点に冒険者として活動するとすれば、あっという間にお金が貯まりそうだ。
「メルちゃん、おんぼろ宿の隣に大きな建物があったろう? あそこは共同浴場になってるから、風呂はそこに行きなさい」
「あ、ありがとうございます……」
……メルちゃん。ちゃん付け。
両親と学友にはよくちゃん付けされていたのを思い出す。
それよりも、お風呂だ。
おんぼろ宿にお風呂は付いていないみたいだけど、隣が共同浴場になっているらしい。ボノさんの話によれば、おんぼろ宿と提携しているので、半額で利用できるとのことだ。
ロックとボノさんが宿泊代や共同浴場の利用代について話しているのを横から聞いていたけど、いまいちまだ分からない。金銭感覚に乏しいので、もっと勉強する必要がありそう。
とか考えていた矢先のことだった。
「……ボノ爺、この額で本当にいいのか? 経営が傾くぞ」
「お前さんの弟子へのサービスだと思え」
ロックとボノさんの台詞に、わたしは慌てる。
これも『溺愛』の影響を受けているはずだ。
「あ、あの! せめて宿泊代は正規のお値段でお願いします!」
「いや、しかしなあ……」
「ちゃんとお支払いしたいので!」
「……うむぅ。メルちゃんがそこまで言うのなら仕方あるまい」
ボノさんが渋々承諾し、折れてくれた。
結局、宿泊代は通常通りとなった。まあ、それでも安いらしいけど。
「……あぁ、一つ言ってなかったが」
ロックが宿泊代を前払いし、部屋の鍵を受け取った。
とここで、ボノさんが今思い出したように付け加える。
「あいにく、二部屋は用意できないのでな、今日のところは同じ部屋で頼むぞ」
「え、一部屋……」
「まあ、のう。その部屋もまだ掃除が終わってないから、二人で片付けてもいいぞ」
「遠慮する。ボノ爺が片付けてくれ」
「老人使いが荒い奴だなぁ」
ほっほ、と笑う。
おんぼろ宿はボノさん一人で経営しているので、これも平常運転なのかもしれない。
「先に風呂に行くか」
「う、……うん」
仕方がないので、部屋の掃除が終わる前に強毒浴場へと足を伸ばすことにした。
しかし、どうしよう。
二部屋取るものだとばかり思っていたから、油断していた。
部屋が一つしか空いていない。
まさか、一緒の部屋でロックと寝泊まりすることになるなんて……。
チラッと、ロックの姿を横目に確認してみる。
けど、全く動じていない。
……いや、そうだよね。うん。
そもそも一週間以上二人きりで野宿してきたのだから、ロックにとっては今更なことかもしれない。
でも、でも、なんだか悔しい。
ロックの顔を見たまま、わたしは一人で勝手にムッとするのだった。
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