【完結】何故ですか? 彼にだけ『溺愛』スキルが効きません!

ひじり

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【68】ある意味凱旋?

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 ロックとわたしが魔人討伐を決めてから、更に一週間以上が過ぎた。

 フォルトナ共和国を発ったわたしたちが向かった先は、意外なことにヴァントレア帝国ではなく、モルドーラン王国だった。

 何故今、王国に向かうのか。
 それはわたしの案によるものだ。

「もうすぐ着くぞ」
「ええ。緊張するわね……」

 王都の外壁が見えるほどの距離に近づいた頃、どうやらあちらも気付いたのだろう。
 暫くすると、王国の兵士たちが大勢出てきて、わたしたちを取り囲んでしまった。

「メル」

 とここで、ロックがわたしの名前を口にする。
 わたしも待っていましたと言わんばかりの笑みを浮かべ、その期待に応えることにした。

「皆様、御機嫌よう」

 兵士たちの顔がしっかりと見えることを確認し、わたしは眼鏡を外した。
 そして優しく微笑みながら、挨拶を口にする。

「急なお願いで非常に申し訳ないのですが、国王に内密のお話がございます。……案内、していただけますか?」

 兵士一人一人の目を見て、漏れが無いのを確認した上で、お願いした。すると、

「「「喜んで!」」」

 実にあっさりと、期待通りの言葉を返してくれた。

 これがわたしの持つスキル『溺愛』の効果だ。『溺愛』の前では、屈強な王国の兵士たちも成す術がない。いとも簡単に従わせることができてしまう。

「さあ、行きましょう」
「……ああ」

 十八年間慣れ親しんだ感覚を懐かしむわたしと、若干引き気味のロックは、兵士たちの案内で王城へと歩を進める。

 その間、兵士たちから幾つかの情報を得ることができた。

 まず、わたしたち二人がお尋ね者になっているということ。
 第一王子のマルス様と第二王子のエリック様を誑かし、ロックと共謀して王国を混乱状態に陥らせたのが原因とのことだ。
 これに関しては、元々予想していたことなので、特に驚きはしなかった。

 大事なのは、二つ目だ。
 帝王とその一族が、王国へと亡命したとのことだ。

 魔人ギルデオルの策略に遭い、帝国が滅びた結果、亡命するのは理解できる。
 しかしその先が王国というのが……ロックには疑問でしかなかったようだ。

 王国と帝国は、犬猿の仲にある。
 故に、亡命先として選択するのは妙だとは思った。

 けれども、細かいことを考えている暇はない。

「貴様ら! 罪人を王城に招き入れるとはどういうことだ!」

 お尋ね者のわたしたちを、堂々と王城に案内する兵士たちの姿が見えたのだろう。
 わたしがよく知る人物が、声を荒げながら駆け寄ってきた。

「お久しぶりです、マルス様」

 久方ぶりの言葉を交わし、わたしは恭しく首を垂れる。
 隣に並び立つロックはというと、そのまま棒立ちだ。相手が王族であろうとも、自分の立ち位置は変わらない。

「貴様……! メル・メロール! このオレ様をコケにした女……ッ!!」

 頭を下げるわたしの姿を見て、マルス様は怒りの感情をあらわにする。
 しかしそれも当然のことだ。

 これも兵士たちに聞いた話だけど、わたしがロックと共に王都を飛び出したせいで、マルス様は婚約者に逃げられた可哀そうな人というレッテルを張られているらしい。
 王国民で、この噂を知らない者はいないとか。

 だからだろう。
 せめて、二度とこんな目に遭わないようにと、マルス様は状態異常を無効化する魔道具を常に身に着けるようになっていた。

 でもね、ごめんなさい。
 そんなものでわたしのスキルを無効化することはできないの。

「メル! この場で今すぐに貴様の首を刎ねて……は、刎ね……て……」

 下げていた頭をゆっくりと戻し、わたしはマルス様と目を合わせた。

「……め、メル」
「如何しましたか、マルス様?」
「い、いや……ああ、うむ。刎ねてしまうなど、以ての外だ!」

 言い直す。
 何故、そんな酷いことを言おうとしていたのかと、マルス様は疑問に思っているに違いない。それが正解なのだけど、残念ながら教えるつもりはない。

「メル・メロール、オレ様の婚約者よ……! いったい今の今までどこをほっつき歩いていたのだ! オレは心配していたのだぞ!」

 最愛の人との再会を喜ぶかのように頬を緩め、マルス様は安堵する。

「申し訳ございません。どうしても外せない用がありましたので……」
「オレとの婚約発表よりも大切な用とはなんだ?」
「それをお話ししたく、国王陛下への拝顔をお許しいただければ幸いです」
「国王? オレではなく親父と話すだと? 何故オレではダメなのだ? オレはお前の婚約者だぞ? 親父ではなくオレに話せばいいではないか」
「マルス様、お願いいたします」
「むぅ、……チッ、仕方あるまい。惚れた男の弱みを存分に利用するとは、さすがはメル・メロール、オレ様の婚約者だ」

 わたしとマルス様のやり取りを、ロックは肩を竦めつつも傍観している。
 敵意を向けていたはずの相手でさえも、虜にしてしまうわたしのスキル――『溺愛』の恐ろしさを目の当たりにしたことで、全てがわたしの手のひらの上だということを改めて理解したはずだ。

 どう? と目で合図を送る。
 すると、ロックはお手上げだと苦笑するのだった。
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