妹に婚約者を寝取られましたが、未練とか全くないので出奔します

ひじり

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【93】

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「ん~、いやいやどれもお美味しそうですね。さすがは商人の国のお店なことはあります。先ほど食べた串焼きも美味でしたし……っと、では私はこれとこれをお願いしますね」

 メニュー表をさらっと見て、キルファンは適当に注文をする。

「あ~、あと! お湯の入った急須と湯呑みを三つ追加しますが、できますか? はい、できますね」

 思い出したかのように店員を呼び止め、追加をお願いする。
 注文が一段落したあと、ふう、と息を吐いて口元を緩め、キルファンは飲み屋の店内を見渡す。

「……いやはや本当に、この国は最高ですね。どのお店を試しても食べ物が美味しいです」

 串焼きを食べるキルファンは、確かに幸せそうな表情をしているように見えた。
 異国の文化や食べ物に戸惑いを覚えつつも吸収し、それを思う存分楽しむ。そうやってキルファンはローマリアでの日々を過ごしていた。

「それになにより、皆さんが優しい。それに限りますね」

 ナーナルとエレンの顔を見ながら告げる。
 その意見には二人も異議なしだ。

 この国の人たちが、新参者のナーナルに協力してくれたから、今がある。
 もし、手を取り合ってもらえなければ、今頃どうなっていたことやら。

 しかしながら、キルファンは眉を潜める。

「……ただ、騙す人もいます。嘘を見抜く術を身に着ける必要があることも学びましたね」
「ティリスのことかしら」

 ナーナルが問う。それに対して返事をすることなく、キルファンは少し自嘲気味に笑うに留めた。

「お二人の目的は、これですね?」

 先に、急須と湯呑みが届く。
 手持ちの巾着から、キルファンが取り出したもの。それは茶葉の入った茶袋だ。
 それを実際に使ってみせるために、キルファンは急須を追加で頼んだのだ。

「どうして分かったの?」
「私、商売人だから分かります。二人とも商売人の顔をしていますね」

 一度、ティリスに騙されてはいるが、人を観察することにも長けているのだろう。ナーナルとエレンの目的をあっさりと見抜いた。

「実は、キルファンさんが茶葉を扱う商人との噂を耳にしまして」
「ははぁ、それで私を訊ねてくれたわけですか……。それはとても光栄ですね。ではその期待に応えるためにも、早速試しましょう」

 茶葉を急須の中に入れて、慣れた手つきで二人に茶を淹れる。
 ナーナルとエレンは、それに口をつけた。

「これは……」

 思わず声が漏れる。
 なんと落ち着く味わいだろうか。

「どうです? 我が国の茶には、心を安らげる効果がありますね」
「……エレン」
「ああ」

 互いに目を合わせ、頷く。二人とも同意見のようだ。
 この茶葉を、メインの一つに据えたい。

「満足しましたね?」
「ええ、とても」
「それはとてもよかったです。ではここまでは前座ということで……さて、次はお二人の話を聞かせてもらえますか?」

 楽しげに笑うキルファンは、商売人の顔つきになっていた。
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