白い女、黒い女

あらんすみし

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悪夢の出会い

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この日、僕は珍しく酒に酔い終電を逃してしまった。
始発が動き出すには、まだ何時間もある。
一緒に飲んでいた職場の人たちも、終電に駆け込んだり、近い人はタクシーで帰宅してしまい、僕だけが置いて行かれて1人ぼっち。
カラオケでもして時間を潰そうともしたが、どこの店も満室で空いておらず、1人で飲み直すのもつまらない、僕は当てもなくフラフラと歩き彷徨い、いつしか狭い路地裏に足を踏み入れていた。
東京の繁華街から一歩足を踏み入れるだけで、こんなに静寂が支配するものなんだな。
僕は、そんなことを考えながら、さらに路地裏を奥へと進んで行く。
その時、僕を背後から呼び止める女性の声が聞こえて、僕は声のした方を振り返った。
そこには、2人の女性が立っていた。全身白い服を着た大人しそうな女の子といった感じの女性と、こちらに背を向けてフラフラしている全身黒づくめの女性だった。
いったいいつの間にそこにいたのだろう?僕のあとを付いてきたのだろうか?それとも僕が気づかなかっただけなのか?
「あの…踏まれましたよ」
白い方の女が、勇気を振り絞ってやっと声を出したといった感じで、躊躇いがちに口を開いた。
「えっ?あっ、すいません、足を踏んでしまいましたか?気づかなくて申し訳ありません」
僕はてっきり自分が2人のどちらかの足を踏んでしまって、それで声をかけられたのかと思い、恐縮して頭を下げて詫びた。
「あ…いえ、そうではなくて…こちらの方が、あなたの足を」
白い服を着た大人しそうな女の子は、震えるような小声で僕の思っていたことを否定した。
「いいって!あいつ、気づいてないみたいだし、謝る必要なんて無いって!」
黒ずくめの女は、相変わらずフラフラとしながら大きな声で逆ギレした。
僕は、こんな酔っ払っているのかガラの悪い女とは関わりたくなくて、「大丈夫ですから」と一言だけ言って、その場を離れることにした。
こんな女と関わって、いいことなんて少しだってあるわけない。
「何だあいつ!女相手に逃げてやんの!」
そう言って、黒ずくめの女は周囲に響き渡るような大きな笑い声を上げて、腹を抱えて笑った。
さすがに僕も頭にきた。お酒が入っていたこともあるけど、こんな酔っ払いの下品な女に馬鹿にされて、内心とても腹が立った。
「なんだって!?もう一度言ってみろ!」
僕は大きな足音を立てながら、その黒ずくめの女へと近づいて行く。
「あはは!怒った怒った!女にしか強く出られない、バカ男が怒った!」
黒ずくめの女は、さらに大きな高笑いを上げて挑発してくる。
しかし、その女の言っていることは、あながち間違えてもいない。弱い女にしか強く出られない、それは図星で、それを見透かされたことを僕は苛立ちと、羞恥の怒りの矛先を、その女に対してぶつけることしかできないのだった。
「ふざけるな!クソビッチのくせに!」
僕は黒ずくめの女の肩を掴み、自分の方へ振り向かせた。
すると、そこには真っ黒な顔があった。ただ黒いだけではない。鼻も無ければ口も無い。普通の人間の顔のように起伏があるわけでもなく、まるで吸い込まれそうな黒くて暗い空間が見えた。
そして、その顔には、大きく白く光る2つの目が、妖しく光ってこちらを射抜くように見つめてきた。
僕は、あまりの恐怖に悲鳴をあげることさえ出来なかった。
そして、僕は目を覚ました。良かった、ただの夢だったか。
しかし、そこで安堵したのも束の間、僕の視界で、僕の部屋を白い得体の知れない影が駆け回っている。
それは、犬に似た獣のようであり、だが明らかに犬では無く、見たことのない獣の姿であった。 
その獣が僕に向かって飛びかかってきたところで、僕は咄嗟に蹴りを喰らわせて、瞼を強く閉じた。
見てはいけない、目を開いてはいけない。僕はひたすらそう自分に言い聞かせて、やがて気が遠のくのを感じた。
朝、目が覚めると、そこはいつもの散らかっている自室だった。
白い獣など駆け回っていたような痕跡もなく、やはり昨夜のことは夢だったのかと、ようやく僕は胸を撫で下ろした。
僕は寝汗で雨にでも打たれたかのように濡れた服を脱ぎ、シャワーを浴びることにした。
シャワーからは心地いい温かいお湯がほとばしり、汗で冷えた体を満たしてくれる。
その時、僕は背中が微かに痛むのを感じた。
何だろう?と思い、鏡に振り返って背中を見ると、そこには何かの動物の爪の跡のような、引っ掻き傷があった。
こんなところにどうして?いつの間に?
僕には全く心当たりが無かった。
ただ一つ、昨夜の白い影のこと以外は。


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