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浅い眠り
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川口青年の住んでいるアパートは、職場から自転車で10分くらいの場所にある。
俺の住んでいるアパートに負けず劣らずの古くてボロい物件だった。
「少し散らかってますけど、どうぞ」
途中のコンビニで酒とつまみを買ってから、俺は川口青年に連れられて部屋に招き入れられた。
川口青年の部屋は、家具はベッドとテレビと小さなチェストとテーブルくらいしか無く、なんとも殺風景だった。
独身の悲しい彼女無しの独り身だからか、部屋の真ん中に洗濯物が山になっていた。
「今、かたしますから」
そう言って、川口青年は洗濯物の山を部屋の隅に押しやって、2人が座るスペースを作った。
部屋の真ん中の小さなテーブルに、買ってきた酒とつまみを広げ、テレビを観ながら他愛も無い話をした。
学生の頃の話とか、ガキの頃のこととか、仕事のこと、くだらないテレビ番組についてとか、思いつくままに話題が途切れることは無かった。
10歳以上も歳が離れているのに、まだ知り合って1ヶ月ちょっとのはずなのに、俺たちは昔からの親友のように打ち解けて話していた。
そしていつしか、話題はやはり恋愛についてになっていた。
「お前、この部屋随分と色気が無いな」
「まぁ、恋人もいないんで」
「昔、風水で部屋に観葉植物を飾ると恋愛運が上がるって聞いたことあるぞ」
「そうなんですか」
また酔いがまわってきたのかな。酔って眠くなってきたのかな。川口青年の顔から表情が消えている気がする。
「福山さん。俺、最近気になる人がいるんです」
「へぇ、どんな子なんだ?」
「年上で、楽しくて、優しくて、頼り甲斐のある人」
「ほら言っただろ。お前はやっぱり甘えたがりだから、年上の甘えられる感じの女がいいって」
そうか、こいつが恋しているのか。先輩として、兄貴分としてそれは嬉しいことだ。
「それで、相手はお前のことをどう思っているんだ?」
「わかりません」
「何かあるだろ?相手もお前に好意を持ってるような仕草をするとか」
「たぶん、俺のこと嫌いでは無いと思います。でも、恋愛対象としては見てくれてないと思います」
「自信持てよ、お前、いい男なんだからさ」
俺の励ましに、川口青年は軽く微笑んだ。その微笑みには、少し寂しさや憂いも含まれているような気がした。
テレビから、午前1時のニュースが流れてくる。
「あっ、もうこんな時間か。そろそろ帰るかな」
「泊まっていきませんか?」
「えっ?」
お互いに時間が止まる。
「泊まって・・・」
「そうだなぁ。そうさせてもらおうかな」
川口青年の顔がパッと華やいだ。
「じゃあ、風呂の用意しますね」
「お気遣いなく~」
俺はテーブルの上に転がる空き缶や、つまみの空袋などを片付けた。
風呂をいただき、寝床に入る。
「やっぱり俺、床で寝ようか?」
「そんな、とんでもないです。大事なお客さんを床で寝かせるなんて!」
「でも、シングルベッドに、大の男2人は狭いな」
「すいません、客布団とか無くて」
「気にするなって、これはこれで楽しいじゃないか」
そう、毎日、職場と部屋の往復だけの退屈で単調な生活で、まさか男同士でシングルベッドで一緒に寝ることになるとは、明日、職場の皆んなに話したらどんな反応が返ってくるだろうか?
「福山さん、眠れますか?」
川口青年がそっと聞いてくる。
「いや、寝られない。枕が変わったせいかな」
いや、そんなことことはこれまで無かった。修学旅行でも家族旅行でも、恋人と寝ても、これまでこんなに昂って眠れないことなんて無かった。
どうしてだろう?何かこれまでと違うようなこと、あるだろうか?
部屋の中を沈黙が支配している。隣の川口青年はもう寝たのだろうか?
俺は、そっと川口青年の方を見てみる。
すると、川口青年も俺の方を見ていて、視線が絡んだ。
何となく気恥ずかしい。
「もう寝よう」
俺は、川口青年に言ったのか、それとも自分自身に言い聞かせるために言ったのか、独り言のように呟いてそれから目を開けることは無かった。
外を新聞配達のバイクが走り抜ける音が聞こえて、再び静けさが辺りを包み込む。
音の消えた部屋で、俺たちは互いに身じろぎもせず、夜が明けるのを待っていた。
俺の住んでいるアパートに負けず劣らずの古くてボロい物件だった。
「少し散らかってますけど、どうぞ」
途中のコンビニで酒とつまみを買ってから、俺は川口青年に連れられて部屋に招き入れられた。
川口青年の部屋は、家具はベッドとテレビと小さなチェストとテーブルくらいしか無く、なんとも殺風景だった。
独身の悲しい彼女無しの独り身だからか、部屋の真ん中に洗濯物が山になっていた。
「今、かたしますから」
そう言って、川口青年は洗濯物の山を部屋の隅に押しやって、2人が座るスペースを作った。
部屋の真ん中の小さなテーブルに、買ってきた酒とつまみを広げ、テレビを観ながら他愛も無い話をした。
学生の頃の話とか、ガキの頃のこととか、仕事のこと、くだらないテレビ番組についてとか、思いつくままに話題が途切れることは無かった。
10歳以上も歳が離れているのに、まだ知り合って1ヶ月ちょっとのはずなのに、俺たちは昔からの親友のように打ち解けて話していた。
そしていつしか、話題はやはり恋愛についてになっていた。
「お前、この部屋随分と色気が無いな」
「まぁ、恋人もいないんで」
「昔、風水で部屋に観葉植物を飾ると恋愛運が上がるって聞いたことあるぞ」
「そうなんですか」
また酔いがまわってきたのかな。酔って眠くなってきたのかな。川口青年の顔から表情が消えている気がする。
「福山さん。俺、最近気になる人がいるんです」
「へぇ、どんな子なんだ?」
「年上で、楽しくて、優しくて、頼り甲斐のある人」
「ほら言っただろ。お前はやっぱり甘えたがりだから、年上の甘えられる感じの女がいいって」
そうか、こいつが恋しているのか。先輩として、兄貴分としてそれは嬉しいことだ。
「それで、相手はお前のことをどう思っているんだ?」
「わかりません」
「何かあるだろ?相手もお前に好意を持ってるような仕草をするとか」
「たぶん、俺のこと嫌いでは無いと思います。でも、恋愛対象としては見てくれてないと思います」
「自信持てよ、お前、いい男なんだからさ」
俺の励ましに、川口青年は軽く微笑んだ。その微笑みには、少し寂しさや憂いも含まれているような気がした。
テレビから、午前1時のニュースが流れてくる。
「あっ、もうこんな時間か。そろそろ帰るかな」
「泊まっていきませんか?」
「えっ?」
お互いに時間が止まる。
「泊まって・・・」
「そうだなぁ。そうさせてもらおうかな」
川口青年の顔がパッと華やいだ。
「じゃあ、風呂の用意しますね」
「お気遣いなく~」
俺はテーブルの上に転がる空き缶や、つまみの空袋などを片付けた。
風呂をいただき、寝床に入る。
「やっぱり俺、床で寝ようか?」
「そんな、とんでもないです。大事なお客さんを床で寝かせるなんて!」
「でも、シングルベッドに、大の男2人は狭いな」
「すいません、客布団とか無くて」
「気にするなって、これはこれで楽しいじゃないか」
そう、毎日、職場と部屋の往復だけの退屈で単調な生活で、まさか男同士でシングルベッドで一緒に寝ることになるとは、明日、職場の皆んなに話したらどんな反応が返ってくるだろうか?
「福山さん、眠れますか?」
川口青年がそっと聞いてくる。
「いや、寝られない。枕が変わったせいかな」
いや、そんなことことはこれまで無かった。修学旅行でも家族旅行でも、恋人と寝ても、これまでこんなに昂って眠れないことなんて無かった。
どうしてだろう?何かこれまでと違うようなこと、あるだろうか?
部屋の中を沈黙が支配している。隣の川口青年はもう寝たのだろうか?
俺は、そっと川口青年の方を見てみる。
すると、川口青年も俺の方を見ていて、視線が絡んだ。
何となく気恥ずかしい。
「もう寝よう」
俺は、川口青年に言ったのか、それとも自分自身に言い聞かせるために言ったのか、独り言のように呟いてそれから目を開けることは無かった。
外を新聞配達のバイクが走り抜ける音が聞こえて、再び静けさが辺りを包み込む。
音の消えた部屋で、俺たちは互いに身じろぎもせず、夜が明けるのを待っていた。
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