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無邪気な悪意
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「ねぇ、ユミ。最近、あまり元気が無いみたいだけど、何か悩みでもあるの?私で良ければ話しくらい聞くよ?」
東海林美樹は、そう言って牧野ユミに話しを切り出した。
東海林美樹にとって、牧野ユミは恋敵でもあるが大切な友人の1人でもある。
そのユミが思い悩んでいる様子を見て、東海林美樹は心配と一緒に、いや、それ以上に好奇心をくすぐられて聞いてみた。
「うん・・・まぁね」
牧野ユミは、東海林美樹の問いかけに言葉を濁した。
その様子を見て、東海林美樹は追い討ちをかけるように、さらに一歩踏み込んだ質問をしてみた。
「もしかして、田中君とうまくいってないとか?」
東海林美樹は質問をしながら、内心はそうであってほしいと願った。もしそうならば、うまく立ち回れば田中政臣と牧野ユミが別れるように持っていけるかもしれない。そうすれば、自分が政臣と接近できるチャンスが生まれるかもしれない。
そんな打算が短い時間の間に、東海林美樹の頭の中で導き出された。
「うぅん、そんなんじゃないの。まーくんとは順調よ」
「じゃあ、何をそんなに浮かない顔しているの?」
東海林美樹は内心がっかりしたが、あからさまにそんな態度を見られないように、すぐさま立て直してみせた。
「まーくんには絶対に言わないって約束してくれる?」
「・・・約束する。私を信じて」
それは話しの内容しだいよ、と東海林美樹は思った。
「実はね・・・最近、誰かに見張られているようなの」
「えっ。それってまさかストーカー?」
「わからない・・・ただ、この数週間、ずっと誰かに見張られている気がするの」
牧野ユミの顔色が次第に曇り始める。
「何かされたの?」
「うぅん、そうではないの。でも、この間、夜に何気なく窓から外を見たら、物陰からこっちを見ている人影がいたりしたの」
「何か心当たりは無いの?」
『あなたには心当たりがありすぎなのよ』
と、東海林美樹は内心で悪態を吐きながら、牧野ユミに、いかにも自分が心配しているかのように質問を畳み掛ける。
「特に無いんだけど・・・」
「もしかして、里中君のことと関係があるんじゃないのかしら?」
「えっ!?どうして里中君のことを!」
牧野ユミの表情には、明らかに狼狽している色が浮かんだ。
「私、知ってるのよ。美樹と里中君が浮気しているってこと。先月、里中君が酔っ払って言ったのよ」
「お願い、そのことはまーくんには言わないで!」
「言わないわ。いえ、言えないわ、田中君にこんな酷いこと」
東海林美樹は、その言葉にありったけの牧野ユミに対する侮蔑の感情を込めた。
「でも、それで私の周りをうろつくなんてするのは誰なのかしら?・・・もしかして、あいつが?」
「あいつって、誰のこと?」
「うん?まだ確証は無いの。だから、もう少しハッキリしたことがわかったら教えるね」
牧野ユミは、そのことについてはそれ以上触れたがらなかった。
「田中君が調べているってことは考えられないの?」
東海林美樹は、まさか田中政臣がそんなことをする人間でないことはわかっていながら、牧野ユミが動揺するようなことを言ってみた。
「まーくんはそんなことする人じゃ無いと思うわ」
どこからその自信が湧いてくるのか、東海林美樹には不思議でならなかった。
「でも、結婚を意識している人のことを知りたいと思うことはあるかもしれないじゃない?田中君も、もしかしたらユミと里中君のことを薄々勘づいていたりしないかしら?」
「そんなこと・・・無いと思うわ。絶対にバレないように注意してるし」
「でも、私にバレてしまったように、何かの些細なことでもバレてしまうことはあり得なくは無いわよ」
「そう、ね。里中君とよく話し合っておかないと」
「あんたね・・・ユミは里中君と別れるつもりは無いの?」
「今のところは無いかな。だって、セックスの相性もいいし、結婚するまでは自由でいるつもり。結婚したらいい妻になるように努力するわ」
あんたね、私はユミのそういうところが大嫌いなのよ。外面は大人しそうな顔しているけど、裏では簡単に男と関係を持つ尻軽のくせに、それなのに田中君は何も知らずにあんたと結婚を考えている。こんなアバズレの何がいいのかしら?私の方が絶対に田中君を愛しているのに、絶対に田中君を幸せにできる自信があるのに、どうしてなのよ!?
あ~、この女、死なないかしら?
もし、人を殺しても罪に問われないなら、こんな女、とっくの昔に殺しているけど、こんなアバズレでも殺したら罪になるし、こんなアバズレ殺して人生を棒に降るのも勿体無いわ。
「ユミがどうしても里中君と別れないと言うなら、もう好きにすればいいわ。でも、どうなっても私は知らないから」
「美樹、もしかして美樹もまーくんのこと好きなの?」
さっきまでのストーカーの存在に怯えていた牧野ユミの顔に、悪戯っぽい少女のような色が浮かんだ。
「そんなことないわよ!私はただ、田中君が可愛そうだと思っているだけよ!」
「隠さなくてもいいわよ。へぇ~、そうだったんだ。」
牧野ユミの目の奥に、東海林美樹は純粋な悪意が湛えられていることに戦慄をおぼえた。
すっかり形勢が逆転してしまい、東海林美樹は劣勢に立たされた。
何て恐ろしい女なのかしら。こんな性悪女と田中君が結ばれるなんてこと、絶対に許せないわ。
何としてでも私がどうにかして、田中君をこの女の毒牙から守らないと。
こんな女に田中君の人生を脅かされるなんて、いっそのこと本気で殺してやろうかしら。
東海林美樹は、自分の心の奥底の牧野ユミを殺したい、という殺意を手懐けることが出来なかった。
東海林美樹は、そう言って牧野ユミに話しを切り出した。
東海林美樹にとって、牧野ユミは恋敵でもあるが大切な友人の1人でもある。
そのユミが思い悩んでいる様子を見て、東海林美樹は心配と一緒に、いや、それ以上に好奇心をくすぐられて聞いてみた。
「うん・・・まぁね」
牧野ユミは、東海林美樹の問いかけに言葉を濁した。
その様子を見て、東海林美樹は追い討ちをかけるように、さらに一歩踏み込んだ質問をしてみた。
「もしかして、田中君とうまくいってないとか?」
東海林美樹は質問をしながら、内心はそうであってほしいと願った。もしそうならば、うまく立ち回れば田中政臣と牧野ユミが別れるように持っていけるかもしれない。そうすれば、自分が政臣と接近できるチャンスが生まれるかもしれない。
そんな打算が短い時間の間に、東海林美樹の頭の中で導き出された。
「うぅん、そんなんじゃないの。まーくんとは順調よ」
「じゃあ、何をそんなに浮かない顔しているの?」
東海林美樹は内心がっかりしたが、あからさまにそんな態度を見られないように、すぐさま立て直してみせた。
「まーくんには絶対に言わないって約束してくれる?」
「・・・約束する。私を信じて」
それは話しの内容しだいよ、と東海林美樹は思った。
「実はね・・・最近、誰かに見張られているようなの」
「えっ。それってまさかストーカー?」
「わからない・・・ただ、この数週間、ずっと誰かに見張られている気がするの」
牧野ユミの顔色が次第に曇り始める。
「何かされたの?」
「うぅん、そうではないの。でも、この間、夜に何気なく窓から外を見たら、物陰からこっちを見ている人影がいたりしたの」
「何か心当たりは無いの?」
『あなたには心当たりがありすぎなのよ』
と、東海林美樹は内心で悪態を吐きながら、牧野ユミに、いかにも自分が心配しているかのように質問を畳み掛ける。
「特に無いんだけど・・・」
「もしかして、里中君のことと関係があるんじゃないのかしら?」
「えっ!?どうして里中君のことを!」
牧野ユミの表情には、明らかに狼狽している色が浮かんだ。
「私、知ってるのよ。美樹と里中君が浮気しているってこと。先月、里中君が酔っ払って言ったのよ」
「お願い、そのことはまーくんには言わないで!」
「言わないわ。いえ、言えないわ、田中君にこんな酷いこと」
東海林美樹は、その言葉にありったけの牧野ユミに対する侮蔑の感情を込めた。
「でも、それで私の周りをうろつくなんてするのは誰なのかしら?・・・もしかして、あいつが?」
「あいつって、誰のこと?」
「うん?まだ確証は無いの。だから、もう少しハッキリしたことがわかったら教えるね」
牧野ユミは、そのことについてはそれ以上触れたがらなかった。
「田中君が調べているってことは考えられないの?」
東海林美樹は、まさか田中政臣がそんなことをする人間でないことはわかっていながら、牧野ユミが動揺するようなことを言ってみた。
「まーくんはそんなことする人じゃ無いと思うわ」
どこからその自信が湧いてくるのか、東海林美樹には不思議でならなかった。
「でも、結婚を意識している人のことを知りたいと思うことはあるかもしれないじゃない?田中君も、もしかしたらユミと里中君のことを薄々勘づいていたりしないかしら?」
「そんなこと・・・無いと思うわ。絶対にバレないように注意してるし」
「でも、私にバレてしまったように、何かの些細なことでもバレてしまうことはあり得なくは無いわよ」
「そう、ね。里中君とよく話し合っておかないと」
「あんたね・・・ユミは里中君と別れるつもりは無いの?」
「今のところは無いかな。だって、セックスの相性もいいし、結婚するまでは自由でいるつもり。結婚したらいい妻になるように努力するわ」
あんたね、私はユミのそういうところが大嫌いなのよ。外面は大人しそうな顔しているけど、裏では簡単に男と関係を持つ尻軽のくせに、それなのに田中君は何も知らずにあんたと結婚を考えている。こんなアバズレの何がいいのかしら?私の方が絶対に田中君を愛しているのに、絶対に田中君を幸せにできる自信があるのに、どうしてなのよ!?
あ~、この女、死なないかしら?
もし、人を殺しても罪に問われないなら、こんな女、とっくの昔に殺しているけど、こんなアバズレでも殺したら罪になるし、こんなアバズレ殺して人生を棒に降るのも勿体無いわ。
「ユミがどうしても里中君と別れないと言うなら、もう好きにすればいいわ。でも、どうなっても私は知らないから」
「美樹、もしかして美樹もまーくんのこと好きなの?」
さっきまでのストーカーの存在に怯えていた牧野ユミの顔に、悪戯っぽい少女のような色が浮かんだ。
「そんなことないわよ!私はただ、田中君が可愛そうだと思っているだけよ!」
「隠さなくてもいいわよ。へぇ~、そうだったんだ。」
牧野ユミの目の奥に、東海林美樹は純粋な悪意が湛えられていることに戦慄をおぼえた。
すっかり形勢が逆転してしまい、東海林美樹は劣勢に立たされた。
何て恐ろしい女なのかしら。こんな性悪女と田中君が結ばれるなんてこと、絶対に許せないわ。
何としてでも私がどうにかして、田中君をこの女の毒牙から守らないと。
こんな女に田中君の人生を脅かされるなんて、いっそのこと本気で殺してやろうかしら。
東海林美樹は、自分の心の奥底の牧野ユミを殺したい、という殺意を手懐けることが出来なかった。
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