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守り人の言い伝え
しおりを挟む遠く、先の未来。
人々の繁栄と共に世界のマナは枯渇し、滅びの危機に晒されるであろう。
されど、世界が危うき兆しを見せる時、天は龍神の神子と、神子を導く導師たる者をこの地に召喚す。
起源の大樹、フォーチュンの封印を解くが為。
その使命が果たされた時、フォーチュンの力はマナで世界を満たすであろう。
これが、老人がクラン達に話した言い伝えだった。
「…なるほど。それで、僕が導師でこの子が龍神の神子…に、なるのかな?」
クランは、話を聞き終えて一呼吸ほどの間に、内容を咀嚼し、予想してみた。
「そうかも知れんし、逆かもしれん。ただ、その予想の方が可能性は高い様じゃがの」
老人の言葉には、何か根拠があるのだろうか。
しかし、その前に済ませておく事がまだだったのを思い出す。
「そう言えば、お爺さんの名前とか聞いてなかった。僕はクラン。クラン・エレスタニア。この子はさっきも話した通り、言葉が解らなくて名前も知らないから、紹介もできないのだけど、見ず知らずの僕達を家にまであげてもらって、ご迷惑おかけします…」
!?
なんだ!?
僕、こんな大人びた言葉を流暢に話せるヤツだったのか!?
自分で言っておいて、心の中では結構困惑していた。
「これはこれは、いやぁ丁寧なご挨拶とお心遣いじゃのう。その歳でそんな言葉使うったら、どっかのお偉いさんトコの子か?」
老人はニカッと笑う。
クランはまだ老人が名乗ってない事を冷静に見て、質問には応えず、笑顔を返した。
「お、おお、すまんすまん。ワシの名前がまだじゃったの。ワシはドラン。ドラン・マグニールじゃ。ワシは西の果ての守り人。ここで自給自足で暮らしておる。どうじゃ?話してくれる気になったかの?」
自らの身分まで明かすとは、僕にもそこまで話せと言うことか。
だけど、また知らない言葉が出てきた。
聞きたい事が幾つもあるのに、此方は僕自身の事さえ記憶喪失のせいで多くを話せない。
ギブアンドテイクが成り立たない状況で、どれだけ情報を得られるか。
一先ずは…。
「僕は、さっきも言った通り、ここまで来た覚えはなくて、気付いたらそこの草原に倒れてたので、どうやって来たかと言う問いには答えられません」
「そうじゃったな。であれば、じゃ。他の事でも…そうじゃ、それこそ、ここに付く前はどこで何しておったのじゃ?」
ドランは、クランへの興味が強くなってしまった様で、何でも良いから情報が欲しいらしい。
「それが…」
言葉を詰まらせるクラン。
「ふむ。記憶が無いんじゃな?」
…え?
情報が欲しいんじゃなくて、記憶喪失であることを確認したかった?
…まさか?
「…はい。仰る通りで、僕は名前以外、何も思い出せないんです」
「やはりな。…じゃが、知らない名前や言葉を発する事がある。…違うか?」
「ッ!?」
驚いた。
正に、これまでの短い時間で、既に何度かそんな事があった。
「確定じゃの。クラン、君はやはり導師じゃな」
ドランは、確信を得た様に、自信ありげに断言した。
「なっ!?なんでそんな事が―――!?」
「―――解るのか、と聞きたいんじゃろ?それも話してやるわい。じゃが、それにはちと待っとれ」
ドランは、少女のミルクティーが無くなったのを見て、ポットから紅茶を注ぎ、ミルクと砂糖を入れてやる。
そうしてから、自分のコーヒーをキッチンへ取りに行き、間も無く戻ってきた。
椅子に腰かけると、おもむろにカップを口に運び、一口啜ってはソーサーに戻す。
「そうじゃなぁ、何から話そうか…」
窓の外の遠くを見つめ、ドランはそんな前置きの後に続けた。
「ワシは、自慢じゃないが、これでも若い頃は腕利きの冒険者じゃった。そして、比較的強い魔物の多い、この西の果てまで冒険に来て、先代の守り人にスカウトされたんじゃ。そして今、こうして守り人をやっておるんじゃが、その先代から、守り人にだけ語り継がれる伝承の秘密を授かった。それにはこうあったのじゃ…」
―――よいか、ドラン。
これは、守り人として神子と導師に伝える為に引き継ぐ、我らだけの秘事じゃ。
もし、神子と導師が召喚される時代に当たった時には、寸分漏らさず伝える様、心せよ。
そして、決して他の人には、仮に一国の国王とて等しく、他言せぬ様、魂に刻むのじゃ。
まず、神子と導師は、同じ時、この西の果てに召喚される。
なぜなら、大樹を廻る旅の出発点が、この西の果てだからじゃ。
フォーチュンの封印を解く為には、大陸にある4つの大樹を全て訪れなければならん。
そして、大樹を廻るには順番があり、順番も前後してはならぬ決まりがあるのじゃ。
その為の、ここからの出発という訳じゃ。
して、伝承の神子は、龍神の化身であり、頭に黒い角が生えている。
そして導師は、異世界から召喚され、記憶を失くしてこの世界でお目覚めになる。
神子と導師は、ある種の一心同体であり、共になければならん。
離れれば離れる程、互いの力は弱まるらしいのでな。
特に最後のは、お二人にとってとても重要だから、必ず伝える様に。
他の事は、嫌でも導師様から聞かれる事じゃろう。
記憶も無い、右も左も解らないのでは、導くも何もない。
恐らくはワシら守り人から得た情報を基に、神子を導く手立て等を考えるのが導師の役目じゃとワシは踏んどるのじゃ。
―――と。
「…性別などは伝えられていないが、お嬢ちゃんが空から落ちている時、靡く髪の隙間から小さな角の様な、黒いものが見えた気がした。見間違いでなければ、嬢ちゃんは神子さまで間違い無いと思っておったのじゃ」
長い話を惜し気もなく語るドランを見ると、嘘を言っている様には思えなかった。
そして、さらにドランから思いもよらぬ提案があった。
「さて、今日はもう日が落ちる。2人はここに泊まると良い。外に出ると、夜は昼の何倍もの数のモンスターが活動を始め、さらに凶暴さも増すのでな。ここならワシの結界魔法があるから安心じゃ。見てくれは木造の小屋じゃが、こう見えて城壁にも劣らん強度を持つんじゃ。じゃから、ここなら夜でも安心して眠れる。この辺りの魔物は世界中を見ても特に凶暴で、東の果てと並んで、何処よりも極めて危険な所なんじゃよ」
カッカッカ!と笑い声をあげながら、クランと自分の空になったカップを、お盆へ乗せるドラン。
「今から夕食を作るでな。少々2人で遊んでおれ。じゃが、決して外には出るなよ?さっきも言ったが、外は魔物が凶暴になっとるからのぅ」
背中越しにクランへ伝えると、背中の曲がった老人はキッチンへ向かった。
間取りは、バス、トイレ、洗面所別の1LDK+納屋といった所か。
リビングダイニングキッチンで一間。
隣に寝室で一間と、LDKの奥に洗面所兼脱衣所、バス、トイレが別々にある。
そして、入り口の脇に納屋があって、大きめの農耕機械などはここに収まってる。
玄関前にウッドデッキがあって、様々な大きさの四角い積み木で正方形を組んだ様な、外見はしっかり四角く収まった間取りだ。
そして、風呂を沸かせたり、火を使うコンロのような道具は、天然ガスと魔力の併用で稼働する魔道機なる製品が役立たれている。
この世界の生活事情は、ドランの生活ぶりで何となく解ってきた。
と、そんな時、僕はとんでもない事を閃いてしまった。
それは、龍神の神子らしい少女の事。
「名前が解らないなら、とりあえずは僕がつけちゃえば良いんじゃないの!?ねえ!?」
クランは、我ながら名案とばかりに目を輝かせて、少女を見る。
少女は、当然の事ながら何の事か解らず、『は?』な顔をしていたのだった。
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