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19話 鍵部屋の選挙
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――アルカナ王国、王太子宮。
「聖女アンジェリクが本当に現れたの?!」
王太子妃マリスは驚きの声を上げると、王太子エルネストに問い返した。
「本当に?!」
「特徴は一致してる」
エルネストが聖都テネブラエへ送っている部下からの報告によれば。
聖女アンジェリクは十六歳。
ピンク髪に金色の瞳、天使のように愛らしい容姿。
リオネル枢機卿の推薦で『神の審判』を受け、聖女に認定された。
飛びぬけた魔力量ゆえ、筆頭聖女の肩書を得て、教皇騎士団への入団も許されたという。
「ピンク髪に金色の瞳は、他人の空似だとしても凄い確率ですね」
ピンク髪はかなり珍しく、金色の瞳もそこそこ珍しい色だ。
この二つの希少な色の組み合わせを持つ者となると、大陸全土を探したとしてもそうは居ないだろう。
「リオネル様にだけ見える霊魂のアンジェリクとは別人だったとしても、似ているなら……心配ですね」
「兄上が結婚するって言いださないか心配だよね」
「ええ……」
「聖職者は結婚できないってことくらい兄上も知っていると思うけれど。心配だから手紙を出して念を押しておこうか」
「リオネル様は意外なことをご存知なかったりしますものね」
「愛の伝道師だの何だのと、以前に変な事を言っていたから、心配だ」
マリスとエルネストはこの件を検討し、打てる手を打つことにした。
なるべく早めに予定を調整してテネブラエへ行き、直接リオネルと話し合い、最悪の場合にはリオネルを強引に連れ帰る算段をした。
アルカナ王国からの二人目の枢機卿はもともと歓迎されていないはずで、ゆえにリオネルが急病により枢機卿の位を辞退をしたら、教皇庁はむしろ喜ぶだろうとマリスとエルネストは考えた。
その考えが間違いだったとマリスとエルネストが知るのは、それからまもなくの事だ。
そして二人がそれを知るより前に、事態はすでに手に負えない状態に発展していた。
「教皇ドナシアン五世聖下が退位?!」
聖女アンジェリク登場の報をマリスとエルネストが受けてから、半月ほど後。
教皇ドナシアン五世の退位の報が、大陸全土を駆け巡った。
王宮でその知らせを受けたエルネストは、仕事を終えて王太子宮の居住区に戻るやいなや、すぐにマリスにそれを知らせた。
「聖下はご高齢ゆえ、健康上の理由で退位なさるとのことだ。問題は、このあとの『鍵部屋の選挙』だ」
枢機卿たちの投票により、枢機卿の中から新教皇が選ばれる。
その新教皇を決める選挙は、教皇庁の鍵が掛けられた密室で行われるため『鍵部屋の選挙』の通称で呼ばれていた。
「リオネル様には、ルクソリア王国出身のマリウス枢機卿に投票してもらわねばなりませんものね」
「そうなんだ。関税の優遇を継続してもらうためにも、ルクソリアを裏切るわけにはいかない。とり急ぎ兄上とシャミナード枢機卿に使者を送ったよ」
ニール教信者に絶大な影響力のある教皇の座を巡って、水面下では国家間の駆け引きが行われる。
選挙に協力する代わりに交換条件を飲んでもらうなどの密約が交わされるのだ。
水面下での国家間の取引が常態化しているため、次の教皇は『鍵部屋の選挙』が始まる前に大体決まっていた。
「いくら兄上でも、さすがに、投票用紙に自分の名前を書くようなバカな真似はしないと思うけれど……。心配だ……」
自信家のリオネルは『鍵部屋の選挙』で投票用紙に自分の名前を書くかもしれないという、エルネストのその悪い予感は的中することになる。
だが状況はエルネストの予想とは大分違い、想像を絶するものとなるのだが。
「リオネル様がご自分に投票なさっても死票となるだけですから、むしろ安心かもしれません。敵側に投票するよりは……」
「今回の選挙は五分五分らしい。ルクソリア王国は、アルカナ王国が持つ二票を期待している。兄上の一票を無駄にはできない」
聖都テネブラエの教皇庁で、教皇を選出する『鍵部屋の選挙』が行われた。
――カラン、カラーン。
枢機卿たちによる『鍵部屋の選挙』が始まって、数時間後。
大聖堂の鐘塔が高らかに鐘を鳴らした。
新教皇の決定を知らせる鐘の音だ。
――カラン、コローン。
「おお!」
「新教皇のお出ましだ!」
選挙が終わると、新教皇が大聖堂のバルコニーに姿を現す。
そのため大聖堂の前の広場には、新教皇の尊顔を拝謁しようと大勢の聖職者たちが集まり、バルコニーを見上げて待ち構えていた。
「あれは……っ!」
「あのお方は!!」
教皇の白の衣をまとい、颯爽とバルコニーに現れたのは……。
白髪紅目の美貌の若者。
「教皇リオネル聖下!」
「神よ! リオネル聖下に祝福を!」
「祝福を!」
広場に集まった聖職者たちは、まるで神の降臨を拝むかのように、新教皇となったリオネルを称えた。
史上最年少の若き美貌の教皇リオネル一世の誕生であった。
「聖女アンジェリクが本当に現れたの?!」
王太子妃マリスは驚きの声を上げると、王太子エルネストに問い返した。
「本当に?!」
「特徴は一致してる」
エルネストが聖都テネブラエへ送っている部下からの報告によれば。
聖女アンジェリクは十六歳。
ピンク髪に金色の瞳、天使のように愛らしい容姿。
リオネル枢機卿の推薦で『神の審判』を受け、聖女に認定された。
飛びぬけた魔力量ゆえ、筆頭聖女の肩書を得て、教皇騎士団への入団も許されたという。
「ピンク髪に金色の瞳は、他人の空似だとしても凄い確率ですね」
ピンク髪はかなり珍しく、金色の瞳もそこそこ珍しい色だ。
この二つの希少な色の組み合わせを持つ者となると、大陸全土を探したとしてもそうは居ないだろう。
「リオネル様にだけ見える霊魂のアンジェリクとは別人だったとしても、似ているなら……心配ですね」
「兄上が結婚するって言いださないか心配だよね」
「ええ……」
「聖職者は結婚できないってことくらい兄上も知っていると思うけれど。心配だから手紙を出して念を押しておこうか」
「リオネル様は意外なことをご存知なかったりしますものね」
「愛の伝道師だの何だのと、以前に変な事を言っていたから、心配だ」
マリスとエルネストはこの件を検討し、打てる手を打つことにした。
なるべく早めに予定を調整してテネブラエへ行き、直接リオネルと話し合い、最悪の場合にはリオネルを強引に連れ帰る算段をした。
アルカナ王国からの二人目の枢機卿はもともと歓迎されていないはずで、ゆえにリオネルが急病により枢機卿の位を辞退をしたら、教皇庁はむしろ喜ぶだろうとマリスとエルネストは考えた。
その考えが間違いだったとマリスとエルネストが知るのは、それからまもなくの事だ。
そして二人がそれを知るより前に、事態はすでに手に負えない状態に発展していた。
「教皇ドナシアン五世聖下が退位?!」
聖女アンジェリク登場の報をマリスとエルネストが受けてから、半月ほど後。
教皇ドナシアン五世の退位の報が、大陸全土を駆け巡った。
王宮でその知らせを受けたエルネストは、仕事を終えて王太子宮の居住区に戻るやいなや、すぐにマリスにそれを知らせた。
「聖下はご高齢ゆえ、健康上の理由で退位なさるとのことだ。問題は、このあとの『鍵部屋の選挙』だ」
枢機卿たちの投票により、枢機卿の中から新教皇が選ばれる。
その新教皇を決める選挙は、教皇庁の鍵が掛けられた密室で行われるため『鍵部屋の選挙』の通称で呼ばれていた。
「リオネル様には、ルクソリア王国出身のマリウス枢機卿に投票してもらわねばなりませんものね」
「そうなんだ。関税の優遇を継続してもらうためにも、ルクソリアを裏切るわけにはいかない。とり急ぎ兄上とシャミナード枢機卿に使者を送ったよ」
ニール教信者に絶大な影響力のある教皇の座を巡って、水面下では国家間の駆け引きが行われる。
選挙に協力する代わりに交換条件を飲んでもらうなどの密約が交わされるのだ。
水面下での国家間の取引が常態化しているため、次の教皇は『鍵部屋の選挙』が始まる前に大体決まっていた。
「いくら兄上でも、さすがに、投票用紙に自分の名前を書くようなバカな真似はしないと思うけれど……。心配だ……」
自信家のリオネルは『鍵部屋の選挙』で投票用紙に自分の名前を書くかもしれないという、エルネストのその悪い予感は的中することになる。
だが状況はエルネストの予想とは大分違い、想像を絶するものとなるのだが。
「リオネル様がご自分に投票なさっても死票となるだけですから、むしろ安心かもしれません。敵側に投票するよりは……」
「今回の選挙は五分五分らしい。ルクソリア王国は、アルカナ王国が持つ二票を期待している。兄上の一票を無駄にはできない」
聖都テネブラエの教皇庁で、教皇を選出する『鍵部屋の選挙』が行われた。
――カラン、カラーン。
枢機卿たちによる『鍵部屋の選挙』が始まって、数時間後。
大聖堂の鐘塔が高らかに鐘を鳴らした。
新教皇の決定を知らせる鐘の音だ。
――カラン、コローン。
「おお!」
「新教皇のお出ましだ!」
選挙が終わると、新教皇が大聖堂のバルコニーに姿を現す。
そのため大聖堂の前の広場には、新教皇の尊顔を拝謁しようと大勢の聖職者たちが集まり、バルコニーを見上げて待ち構えていた。
「あれは……っ!」
「あのお方は!!」
教皇の白の衣をまとい、颯爽とバルコニーに現れたのは……。
白髪紅目の美貌の若者。
「教皇リオネル聖下!」
「神よ! リオネル聖下に祝福を!」
「祝福を!」
広場に集まった聖職者たちは、まるで神の降臨を拝むかのように、新教皇となったリオネルを称えた。
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