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02話 目覚めの日
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(ルシアン殿下は百十五位……。危ない。ギリギリだわ)
その日。
私は王立貴族学院の廊下で、ドキドキしながら成績の順位表を確認していました。
先日の試験結果の順位表です。
私の婚約者である王太子ルシアン殿下の順位は百十五位。
私は百十九位でした。
(やっぱりルシアン殿下の成績はまた落ちていたわ。念のために低めの点数を想定して良かった。あの一問を正解していたら、ルシアン殿下の順位を追い抜いてしまっていたわね)
王妃様の命令である『ルシアン王子の成績を超えてはいけない』という条件をギリギリでクリアすることができて、私はほっと息を吐きました。
私がルシアン殿下より良い成績を取ると、王妃様が……。
「自分の能力をこれみよがしにひけらかすなんて浅ましいわ。夫となる王子を立てることが妃の役目です。分をわきまえなさい」
……と怒ります。
だから私は学校でルシアン殿下より良い成績を取ってはいけないのです。
(全教科を白紙で提出して零点を取った方が、ルシアン殿下を超えてしまうのではないかって毎回ヒヤヒヤすることもなくて良いのだけれど……)
それが出来たらラクなのですが。
学院での成績が悪いと、両親が私を叱るのです。
だから最低限、取れる点数は取っています。
ルシアン殿下の順位を超えないように配慮しながら。
ですが前回より成績が落ちているので、また私は父に叱られることでしょう。
もちろん私は両親に説明しました。
ルシアン殿下より良い成績を取ってはいけないと王妃教育で指導されたので、私は成績を上げられないのだ、と。
しかし両親は「聡明な王妃様がそんなことを言うわけがない」と信じてくれませんでした。
私は「王妃様に確認してください」と両親に頼みました。
両親は王妃様に確認してくれました。
ですが王妃様は「そのような指導はしていない」と答えたそうです。
私の両親に対して何故そのような嘘を言ったのか、王妃教育の時間に王妃様に問うと、「いずれ国王となる王太子に恥をかかせるつもりですか。国王を守るのが王妃の役目です。弁えなさい」と返されました。
そういうわけで、ルシアン殿下の成績が下がれば下がるほど、私が叱られています。
(どうせ叱られるのだから零点をとるのも良いかもしれないわね……)
私は投げやりに、そう思いました。
この一年間、私は、学院の勉強と、王妃教育で必要な国内の貴族とその領地についての勉強とを両立して、週に六日、ときには週に七日を勉強に費やしていました。
大分、疲労が溜まっていました。
疲労のせいだと思いますが、最近、ぼうっとしてしまうことがあります。
(……あっ!)
ぼんやりと成績順位表を眺めていた私の頭に、まるで天啓のように、一つの考えが閃きました。
(全教科で零点を取れば、学年最下位は確実。そんな不出来な娘は、未来の王妃にふさわしくないということになって婚約解消できるんじゃないかしら?!)
ええ、そうです。
私はルシアン王子殿下との婚約を、解消したくなっていました。
だって。
王妃教育は辛く、王妃教育を頑張るほど家では叱られるようになりました。
毎日ゆっくり休む間もなく勉強しているのに、叱られるばかりです。
王妃教育の成果も終わりも全く見えません。
王立貴族学院の勉強は、王妃教育よりはレベルが低いのでラクですが。
ルシアン殿下より良い成績を取ってはいけないので、試験で実力を発揮することが出来ないので鬱憤が溜まります。
私よりよほど出来ない人たちに、下に見られて蔑まれることは、地味に精神的損害です。
そして。
婚約者であるルシアン殿下が私を大切にしてくれることもありません。
そもそも私には時間がありませんから、ルシアン殿下と交流している時間などないのです。
ルシアン殿下と婚約してから、私は時間が無くなり、嫌なことばかりに時間を取られています。
王太子の婚約者なんて、とんだ貧乏クジです!
ルシアン殿下には、私以外に、学院で特別に親しい令嬢がいるという、何やら色めいた、わくわくする噂を耳にしましたが。
(本当にそんな篤志家のご令嬢が存在していらっしゃるのであれば、ぜひルシアン殿下を略奪していただきたいですわ! どこかのご令嬢! 略奪、お頑張りあそばせぇ! ルシアン殿下を喜んで捧げますわよぉ!)
しかし私の願い虚しく、いまだにルシアン殿下を略奪してくださる篤志家のご令嬢は現れません……。
(お父様にはどうせ叱られるのだもの。零点を取って叱られても今更どうということもないわ。頑張ったのに叱られるのは納得できないけれど。頑張らなくて叱られるなら納得よ。怠けて叱られたほうがスッキリね!)
この鬱屈した暗い世界で。
私は、全教科で零点を取るという一筋の光明を見出してしまいました。
(よし、次は零点を取ろう!)
希望の光が見えて視野が広がったせいでしょうか。
私の頭に、更なる名案が閃いてしまいました。
(あら? 王妃教育もやめても良いのではないかしら?)
その日。
私は王立貴族学院の廊下で、ドキドキしながら成績の順位表を確認していました。
先日の試験結果の順位表です。
私の婚約者である王太子ルシアン殿下の順位は百十五位。
私は百十九位でした。
(やっぱりルシアン殿下の成績はまた落ちていたわ。念のために低めの点数を想定して良かった。あの一問を正解していたら、ルシアン殿下の順位を追い抜いてしまっていたわね)
王妃様の命令である『ルシアン王子の成績を超えてはいけない』という条件をギリギリでクリアすることができて、私はほっと息を吐きました。
私がルシアン殿下より良い成績を取ると、王妃様が……。
「自分の能力をこれみよがしにひけらかすなんて浅ましいわ。夫となる王子を立てることが妃の役目です。分をわきまえなさい」
……と怒ります。
だから私は学校でルシアン殿下より良い成績を取ってはいけないのです。
(全教科を白紙で提出して零点を取った方が、ルシアン殿下を超えてしまうのではないかって毎回ヒヤヒヤすることもなくて良いのだけれど……)
それが出来たらラクなのですが。
学院での成績が悪いと、両親が私を叱るのです。
だから最低限、取れる点数は取っています。
ルシアン殿下の順位を超えないように配慮しながら。
ですが前回より成績が落ちているので、また私は父に叱られることでしょう。
もちろん私は両親に説明しました。
ルシアン殿下より良い成績を取ってはいけないと王妃教育で指導されたので、私は成績を上げられないのだ、と。
しかし両親は「聡明な王妃様がそんなことを言うわけがない」と信じてくれませんでした。
私は「王妃様に確認してください」と両親に頼みました。
両親は王妃様に確認してくれました。
ですが王妃様は「そのような指導はしていない」と答えたそうです。
私の両親に対して何故そのような嘘を言ったのか、王妃教育の時間に王妃様に問うと、「いずれ国王となる王太子に恥をかかせるつもりですか。国王を守るのが王妃の役目です。弁えなさい」と返されました。
そういうわけで、ルシアン殿下の成績が下がれば下がるほど、私が叱られています。
(どうせ叱られるのだから零点をとるのも良いかもしれないわね……)
私は投げやりに、そう思いました。
この一年間、私は、学院の勉強と、王妃教育で必要な国内の貴族とその領地についての勉強とを両立して、週に六日、ときには週に七日を勉強に費やしていました。
大分、疲労が溜まっていました。
疲労のせいだと思いますが、最近、ぼうっとしてしまうことがあります。
(……あっ!)
ぼんやりと成績順位表を眺めていた私の頭に、まるで天啓のように、一つの考えが閃きました。
(全教科で零点を取れば、学年最下位は確実。そんな不出来な娘は、未来の王妃にふさわしくないということになって婚約解消できるんじゃないかしら?!)
ええ、そうです。
私はルシアン王子殿下との婚約を、解消したくなっていました。
だって。
王妃教育は辛く、王妃教育を頑張るほど家では叱られるようになりました。
毎日ゆっくり休む間もなく勉強しているのに、叱られるばかりです。
王妃教育の成果も終わりも全く見えません。
王立貴族学院の勉強は、王妃教育よりはレベルが低いのでラクですが。
ルシアン殿下より良い成績を取ってはいけないので、試験で実力を発揮することが出来ないので鬱憤が溜まります。
私よりよほど出来ない人たちに、下に見られて蔑まれることは、地味に精神的損害です。
そして。
婚約者であるルシアン殿下が私を大切にしてくれることもありません。
そもそも私には時間がありませんから、ルシアン殿下と交流している時間などないのです。
ルシアン殿下と婚約してから、私は時間が無くなり、嫌なことばかりに時間を取られています。
王太子の婚約者なんて、とんだ貧乏クジです!
ルシアン殿下には、私以外に、学院で特別に親しい令嬢がいるという、何やら色めいた、わくわくする噂を耳にしましたが。
(本当にそんな篤志家のご令嬢が存在していらっしゃるのであれば、ぜひルシアン殿下を略奪していただきたいですわ! どこかのご令嬢! 略奪、お頑張りあそばせぇ! ルシアン殿下を喜んで捧げますわよぉ!)
しかし私の願い虚しく、いまだにルシアン殿下を略奪してくださる篤志家のご令嬢は現れません……。
(お父様にはどうせ叱られるのだもの。零点を取って叱られても今更どうということもないわ。頑張ったのに叱られるのは納得できないけれど。頑張らなくて叱られるなら納得よ。怠けて叱られたほうがスッキリね!)
この鬱屈した暗い世界で。
私は、全教科で零点を取るという一筋の光明を見出してしまいました。
(よし、次は零点を取ろう!)
希望の光が見えて視野が広がったせいでしょうか。
私の頭に、更なる名案が閃いてしまいました。
(あら? 王妃教育もやめても良いのではないかしら?)
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