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03話 絶望からの決断
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(……クリストフがイルザと結婚するだなんて……)
屋根裏部屋に戻ったアンネマリーは、ベッドに倒れ込んだ。
作業机の上には、今日の分の繕い物の山がある。
今日中に仕上げなければ家政婦長にまた鞭で打たれるかもしれないが、もうどうでも良いような気分になった。
頼りにしていた婚約者のクリストフにも裏切られ、アンネマリーはたった一つだけ残っていた希望すら失った。
(ベルクヴァイン侯爵家の血筋の私の婿養子になるより、平民のイルザとの結婚を望むなんて……。イルザは本当はお父様の子かもしれないけれど、正式にはイルザはお継母様の連れ子でしかないから、ただの平民なのに……)
クリストフは何故アンネマリーを捨ててイルザを選んだのか?
アンネマリーはぼんやりと考えた。
(もしイルザがお父様の正式な養女になっていたとしても、イルザはベルクヴァイン侯爵家は継げないわ。だってベルクヴァイン侯爵家を継ぐのは長女の私だもの。それなのにどうしてクリストフはエルザを選んだの……?)
クリストフはライナー伯爵家の三男なので爵位は継げない。
爵位を継げる令嬢と結婚しなければ、クリストフは平民になって仕事をして生計を立てていくことになる。
イルザはベルクヴァイン侯爵家の養女になっていたとしても、爵位はアンネマリーが継ぐので、イルザも貴族と結婚しなければ平民になる。
もともと平民だったイルザは平民になることを厭わないかもしれないが。
イルザが平民になるということは、イルザと結婚するクリストフも平民になるということだ。
(貴族の身分を捨てても良いほど、クリストフはイルザを愛しているの?)
アンネマリーが知らないうちに、クリストフはイルザと親密になっていた。
クリストフはアンネマリーの言葉は一切聞かず、イルザの嘘を全て信じていた。
(地味な私と違ってイルザが美人だから? もし私が美人だったらクリストフは私を裏切らなかったかしら?)
この三か月でアンネマリーはイルザに何もかも奪われてしまった。
アンネマリーは部屋もドレスも、ついには婚約者すらもイルザに奪われた。
(ベルクヴァイン侯爵家の血筋なんて意味ないのかもしれない)
アンネマリーの母は女侯爵だったが、平民の美女マヌエラに夫を奪わた。
アンネマリーは侯爵家の長女だったが、婚約者を平民の美少女イルザに奪われた。
(爵位より、美しさのほうが強いのね……)
アンネマリーがベッドに突っ伏して思考の海に沈んでいると、ふいに、ドアがノックされた。
――コンコン。
「アンネマリー様、レナです」
それは昔からいるメイドのレナの声だった。
アンネマリーが侯爵令嬢として過ごしていたときに、アンネマリーの部屋付きだったメイドだ。
レナは家政婦長の目を盗んで、たまにアンネマリーの屋根裏部屋に忍んで来ては、食べ物や日用品などを差し入れてくれ、何かと手助けしてくれていた。
「レナ……。どうぞ、入って」
アンネマリーはそう返事をしながら、のろのろとベッドから起き上がった。
「アンネマリー様、時間がありませんので手短に言います」
レナはアンネマリーの部屋に入ると、小声で言った。
「アンネマリー様、ここから逃げましょう」
「え?!」
「ハンス氏がルドヴィカ・ベルツ夫人とアーベル・アルトナー氏に連絡をとってくださいました」
「叔母様と大叔父様に?!」
ハンスは後妻マヌエラに解雇された元家令、ルドヴィカ・ベルツはアンネマリーの叔母、アーベル・アルトナーはアンネマリーの大叔父だ。
「お二人が助力してくださいます。お嬢様、ここから逃げましょう」
「叔母様や大叔父様にご迷惑ではないかしら……?」
叔母はアンネマリーの母の妹だが、平民の実業家と結婚した人で貴族社会からは身を引いていて、年に数回顔を合わせる程度だった。
大叔父はアンネマリーの祖父の弟で、こちらも平民となった人で、祖父が他界してからは滅多に顔を合わせることがなくなった人だ。
どちらも母方の親族だがそれほど親しいというわけではない。
「大丈夫です」
レナは明るい笑顔で言った。
「ハンス氏が話をつけてくれています。お嬢様の今の生活を知ったベルツ夫人が、アルトナー氏に協力を仰いでくださって、お二人とも何としてもお嬢様を救出したいとお望みです」
「ここから、逃げ出せるの?!」
「はい。急ですが、今夜、消灯の後にお迎えにあがります。外套は私が用意しておきます。お嬢様は着の身着のままで結構です」
「解ったわ」
(もう、どうにでもなれだわ!)
望みを全て断たれて絶望していたアンネマリーは、やけっぱちな気分で即座に決断した。
「屋敷を出て、叔母様と大叔父様のお世話になるわ。レナ、お願いね」
「はい、お嬢様。お任せください」
(叔母様や大叔父様にご迷惑をかけるのは気が引けるけれど。ここにこのまま居ても私にはどうにもできない)
――嫌なら屋敷を出て行けば良いじゃない。
――さっさと出て行きなさい!
義妹イルザに何度も言われたその言葉に、アンネマリーは心の中で返答した。
(行くあてが出来たから、出て行くわね)
屋根裏部屋に戻ったアンネマリーは、ベッドに倒れ込んだ。
作業机の上には、今日の分の繕い物の山がある。
今日中に仕上げなければ家政婦長にまた鞭で打たれるかもしれないが、もうどうでも良いような気分になった。
頼りにしていた婚約者のクリストフにも裏切られ、アンネマリーはたった一つだけ残っていた希望すら失った。
(ベルクヴァイン侯爵家の血筋の私の婿養子になるより、平民のイルザとの結婚を望むなんて……。イルザは本当はお父様の子かもしれないけれど、正式にはイルザはお継母様の連れ子でしかないから、ただの平民なのに……)
クリストフは何故アンネマリーを捨ててイルザを選んだのか?
アンネマリーはぼんやりと考えた。
(もしイルザがお父様の正式な養女になっていたとしても、イルザはベルクヴァイン侯爵家は継げないわ。だってベルクヴァイン侯爵家を継ぐのは長女の私だもの。それなのにどうしてクリストフはエルザを選んだの……?)
クリストフはライナー伯爵家の三男なので爵位は継げない。
爵位を継げる令嬢と結婚しなければ、クリストフは平民になって仕事をして生計を立てていくことになる。
イルザはベルクヴァイン侯爵家の養女になっていたとしても、爵位はアンネマリーが継ぐので、イルザも貴族と結婚しなければ平民になる。
もともと平民だったイルザは平民になることを厭わないかもしれないが。
イルザが平民になるということは、イルザと結婚するクリストフも平民になるということだ。
(貴族の身分を捨てても良いほど、クリストフはイルザを愛しているの?)
アンネマリーが知らないうちに、クリストフはイルザと親密になっていた。
クリストフはアンネマリーの言葉は一切聞かず、イルザの嘘を全て信じていた。
(地味な私と違ってイルザが美人だから? もし私が美人だったらクリストフは私を裏切らなかったかしら?)
この三か月でアンネマリーはイルザに何もかも奪われてしまった。
アンネマリーは部屋もドレスも、ついには婚約者すらもイルザに奪われた。
(ベルクヴァイン侯爵家の血筋なんて意味ないのかもしれない)
アンネマリーの母は女侯爵だったが、平民の美女マヌエラに夫を奪わた。
アンネマリーは侯爵家の長女だったが、婚約者を平民の美少女イルザに奪われた。
(爵位より、美しさのほうが強いのね……)
アンネマリーがベッドに突っ伏して思考の海に沈んでいると、ふいに、ドアがノックされた。
――コンコン。
「アンネマリー様、レナです」
それは昔からいるメイドのレナの声だった。
アンネマリーが侯爵令嬢として過ごしていたときに、アンネマリーの部屋付きだったメイドだ。
レナは家政婦長の目を盗んで、たまにアンネマリーの屋根裏部屋に忍んで来ては、食べ物や日用品などを差し入れてくれ、何かと手助けしてくれていた。
「レナ……。どうぞ、入って」
アンネマリーはそう返事をしながら、のろのろとベッドから起き上がった。
「アンネマリー様、時間がありませんので手短に言います」
レナはアンネマリーの部屋に入ると、小声で言った。
「アンネマリー様、ここから逃げましょう」
「え?!」
「ハンス氏がルドヴィカ・ベルツ夫人とアーベル・アルトナー氏に連絡をとってくださいました」
「叔母様と大叔父様に?!」
ハンスは後妻マヌエラに解雇された元家令、ルドヴィカ・ベルツはアンネマリーの叔母、アーベル・アルトナーはアンネマリーの大叔父だ。
「お二人が助力してくださいます。お嬢様、ここから逃げましょう」
「叔母様や大叔父様にご迷惑ではないかしら……?」
叔母はアンネマリーの母の妹だが、平民の実業家と結婚した人で貴族社会からは身を引いていて、年に数回顔を合わせる程度だった。
大叔父はアンネマリーの祖父の弟で、こちらも平民となった人で、祖父が他界してからは滅多に顔を合わせることがなくなった人だ。
どちらも母方の親族だがそれほど親しいというわけではない。
「大丈夫です」
レナは明るい笑顔で言った。
「ハンス氏が話をつけてくれています。お嬢様の今の生活を知ったベルツ夫人が、アルトナー氏に協力を仰いでくださって、お二人とも何としてもお嬢様を救出したいとお望みです」
「ここから、逃げ出せるの?!」
「はい。急ですが、今夜、消灯の後にお迎えにあがります。外套は私が用意しておきます。お嬢様は着の身着のままで結構です」
「解ったわ」
(もう、どうにでもなれだわ!)
望みを全て断たれて絶望していたアンネマリーは、やけっぱちな気分で即座に決断した。
「屋敷を出て、叔母様と大叔父様のお世話になるわ。レナ、お願いね」
「はい、お嬢様。お任せください」
(叔母様や大叔父様にご迷惑をかけるのは気が引けるけれど。ここにこのまま居ても私にはどうにもできない)
――嫌なら屋敷を出て行けば良いじゃない。
――さっさと出て行きなさい!
義妹イルザに何度も言われたその言葉に、アンネマリーは心の中で返答した。
(行くあてが出来たから、出て行くわね)
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