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04話 脱出
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「見つからないかしら……」
「大丈夫です。従僕や門番たちも協力してくれています」
アンネマリーはメイドのレナの手引きで、夜陰に紛れて屋敷を抜け出した。
レナの言う通り、昔からいる従僕が協力してくれて、アンネマリーとレナは使用人用の出入り口から外へ出ることが出来た。
門番も協力者で、通用口を使わせてくれた。
屋敷の外には馬車が待っていた。
「ハンス氏!」
馬車には、後妻マヌエラに解雇された元家令ハンスがいて、アンネマリーを迎えた。
「お嬢様、よくぞご無事で!」
メイドのレナに見送られて、アンネマリーは元家令ハンスと共に馬車に乗り、住み慣れたベルクヴァイン家の屋敷を後にした。
「あの後妻、マヌエラがお嬢様を虐待しようとしていたことを、ルドヴィカ・ベルツ夫人にご相談させていただきました」
馬車の中で、アンネマリーは元家令ハンスから事の経緯を聞いた。
「ベルツ夫人はアンネマリー様との面会を何度も希望したのです。しかし、ベルクヴァイン氏からの返答は、お嬢様は母君を亡くされた失望から体調を崩されており『誰にも会いたくない』と言っている、とのことで……」
ベルクヴァイン氏というのはアンネマリーの父だ。
「そこでベルツ夫人はアーベル・アルトナー氏に協力を仰いでくださいました。アルトナー氏もアンネマリー様との面会を一度希望しましたが、同じように断られました。そこでアルトナー氏の提案で、お嬢様を密かに救出することにしたのです」
◆
「アンネマリー、大変な目にあったわね。可哀想にこんなに痩せて……。もう大丈夫よ」
アンネマリーは、王都にある叔母ルドヴィカ・ベルツの家に送り届けられた。
正確には、叔母の夫である実業家ベルツ氏が所有する屋敷の一つだ。
叔母ルドヴィカは、アンネマリーを温かく迎え入れてくれた。
アンネマリーの母の妹である叔母ルドヴィカは明るく快活で、慎ましく物静かだったアンネマリーの母とは性格は全く違っていたが、顔立ちは似ていた。
母に似た面差しのルドヴィカに優しい笑顔を向けられて、アンネマリーは懐かしいような、ほっとするような安堵を覚えた。
「すみません、叔母様。お世話になります」
「水臭いこと言わないの。困ったときはお互い様よ」
「ありがとうございます。でも……すみません」
着の身着のままでベルクヴァイン侯爵家から逃げて来たアンネマリーは、全てを失ったので、叔母の親切に報いることができない。
自分の身すら養えないのだから。
「私は、ご恩をお返しすることができそうになくて……」
「あら、返してもらうわよ?」
叔母ルドヴィカは少し面白そうに笑った。
「ベルクヴァイン侯爵家が後ろ盾なら心強いもの。貴族絡みで私たちに何かあったときは、アンネマリーが私たちを助けてね」
「ごめんなさい、叔母様。お父様は私の言うことを聞いてくださいませんから、私ではお力になれそうもなくて……」
「何を言っているの?」
叔母ルドヴィカは首を傾げた。
「まさか貴女、知らないの? 自分がベルクヴァイン女侯爵だってこと」
「……え?」
「アンネマリーがベルクヴァイン女侯爵なのよ」
「お母様の爵位は、お父様が継いだのではなかったのですか?」
「ベルクヴァイン侯爵家の血が一滴も入っていない婿養子にはベルクヴァイン侯爵家は継げないわ。爵位を継いだのはアンネマリーよ。トビアス・ベルクヴァインはただの代理人」
トビアス・ベルクヴァインはアンネマリーの父だ。
「貴女がまだ子供だったから、貴女の父親が侯爵を代行しているの。でも、それももう、終わりよ……」
すっと冷たい微笑を浮かべて叔母ルドヴィカは言った。
「たかが婿養子の分際でベルクヴァイン侯爵家を乗っ取ろうなんて。よくもやってくれたものね。きっちり報いを受けてもらうわ」
「大丈夫です。従僕や門番たちも協力してくれています」
アンネマリーはメイドのレナの手引きで、夜陰に紛れて屋敷を抜け出した。
レナの言う通り、昔からいる従僕が協力してくれて、アンネマリーとレナは使用人用の出入り口から外へ出ることが出来た。
門番も協力者で、通用口を使わせてくれた。
屋敷の外には馬車が待っていた。
「ハンス氏!」
馬車には、後妻マヌエラに解雇された元家令ハンスがいて、アンネマリーを迎えた。
「お嬢様、よくぞご無事で!」
メイドのレナに見送られて、アンネマリーは元家令ハンスと共に馬車に乗り、住み慣れたベルクヴァイン家の屋敷を後にした。
「あの後妻、マヌエラがお嬢様を虐待しようとしていたことを、ルドヴィカ・ベルツ夫人にご相談させていただきました」
馬車の中で、アンネマリーは元家令ハンスから事の経緯を聞いた。
「ベルツ夫人はアンネマリー様との面会を何度も希望したのです。しかし、ベルクヴァイン氏からの返答は、お嬢様は母君を亡くされた失望から体調を崩されており『誰にも会いたくない』と言っている、とのことで……」
ベルクヴァイン氏というのはアンネマリーの父だ。
「そこでベルツ夫人はアーベル・アルトナー氏に協力を仰いでくださいました。アルトナー氏もアンネマリー様との面会を一度希望しましたが、同じように断られました。そこでアルトナー氏の提案で、お嬢様を密かに救出することにしたのです」
◆
「アンネマリー、大変な目にあったわね。可哀想にこんなに痩せて……。もう大丈夫よ」
アンネマリーは、王都にある叔母ルドヴィカ・ベルツの家に送り届けられた。
正確には、叔母の夫である実業家ベルツ氏が所有する屋敷の一つだ。
叔母ルドヴィカは、アンネマリーを温かく迎え入れてくれた。
アンネマリーの母の妹である叔母ルドヴィカは明るく快活で、慎ましく物静かだったアンネマリーの母とは性格は全く違っていたが、顔立ちは似ていた。
母に似た面差しのルドヴィカに優しい笑顔を向けられて、アンネマリーは懐かしいような、ほっとするような安堵を覚えた。
「すみません、叔母様。お世話になります」
「水臭いこと言わないの。困ったときはお互い様よ」
「ありがとうございます。でも……すみません」
着の身着のままでベルクヴァイン侯爵家から逃げて来たアンネマリーは、全てを失ったので、叔母の親切に報いることができない。
自分の身すら養えないのだから。
「私は、ご恩をお返しすることができそうになくて……」
「あら、返してもらうわよ?」
叔母ルドヴィカは少し面白そうに笑った。
「ベルクヴァイン侯爵家が後ろ盾なら心強いもの。貴族絡みで私たちに何かあったときは、アンネマリーが私たちを助けてね」
「ごめんなさい、叔母様。お父様は私の言うことを聞いてくださいませんから、私ではお力になれそうもなくて……」
「何を言っているの?」
叔母ルドヴィカは首を傾げた。
「まさか貴女、知らないの? 自分がベルクヴァイン女侯爵だってこと」
「……え?」
「アンネマリーがベルクヴァイン女侯爵なのよ」
「お母様の爵位は、お父様が継いだのではなかったのですか?」
「ベルクヴァイン侯爵家の血が一滴も入っていない婿養子にはベルクヴァイン侯爵家は継げないわ。爵位を継いだのはアンネマリーよ。トビアス・ベルクヴァインはただの代理人」
トビアス・ベルクヴァインはアンネマリーの父だ。
「貴女がまだ子供だったから、貴女の父親が侯爵を代行しているの。でも、それももう、終わりよ……」
すっと冷たい微笑を浮かべて叔母ルドヴィカは言った。
「たかが婿養子の分際でベルクヴァイン侯爵家を乗っ取ろうなんて。よくもやってくれたものね。きっちり報いを受けてもらうわ」
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