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閑話・『声の主』との邂逅再び

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………………………………

………………

………んぁ?

 目が覚めるとそこは見慣れた俺の部屋ではなく、真っ黒な空間だった。
一瞬、テンパりはしたが思い返してみると、つい先日も似たような事があったと思いだした。

 まぁ、夢なんだろうけども。

 試しに身体を動かそうと試みるが、やはり動かない――というか、身体の感覚すらない。
前回も確認はしたが、やはり身体はおろか、五感全てに何も感じない状態のようだ。
故に、真っ黒な空間という表現は間違っていたようだ。視覚がないため、そう感じているだけだった。

 空間とするのも怪しいが意識だけがこの場に存在していて、浮遊しているようだった。

 前回といい、今回といい……全くぞっとしない夢だねぇ。
かなりの高確率で病んだ夢だろう。
俺何かストレスでも感じているのだろうか?
 うーむ……各方面から虐げられてるからそのストレスでこんな夢を見ているんでしょうかねぇ?
夢占いとか、心理学の本でも読んでみようかなぁ。

 くわばらくわばら、と意識の中で一人笑ってみる。
夢だと分かれば案外余裕が出来るものだ。今のところ意識のみがある状態で、寒さ暑さも感じなければ、特に不快なこともない。

 この状態でずっと苦痛を味わっている、なんてことになったらものの数分で発狂する自信があるが、幸いなことに現状は何ともないのだ。
 それに……


『……………………』

 知覚することはできないが、近くに居ることを何となく理解していた。
そう、セリフ付きにすると三点リーダ8つ分という感じ。この8つ分に色々な感情が籠っているのだろうか。

『…………流石だな媒介者。2度目とはいえ瞬時に順応するとは』

 俺が様子を伺っていると、そんな言葉が俺の意識の中に語りかけてきた。間違いない、これは前回の続きだ。

 いや、夢だと分かったもんで。2、3日振りですかね? そちらはお変わりなく?

『……………………』

 俺の軽口に対して返答はない。自分の夢に無視される俺って……。

『……お前にはこの先遠くない未来において成すべきことがる。成すべきことを成せ』

 軽口に対する返答はなかったが、前回と一言一句同様な台詞が返ってきた。
前回も思ったことだが、何を成すのか成さねばならぬのかさっぱりだ。

『……成り行きに任せろ。決して、お前は手を出すな。成り行きに身を任せ、時が来れば自ずと分かる』

 時が来れば、って。あぁ、全然説明する気ないのね。

『……余計な知識は先入観になり、成すべきことが見えなくなる。それでは駄目なのだ媒介者。成すべきことが見えなくなれば成すべきことが成せなくなる。心配するな……いずれ分かる。今は、成り行きに任せろ』

 成すだの、成さぬだの、成すべきことだの、ごちゃごちゃ言い寄ってからに……一瞬でゲシュタルト崩壊ですわ。
 成り行きに任せろっていうなら、何で俺の夢に…………まぁ、夢にいちゃもんつけてもしょうがないんですがね。

『……必要なことなのだ、媒介者よ』

 最後の俺の問いに応えたのか、はたまた別の意味なのか、『声の主』はそれだけ言うとその存在感を薄れさせていった…………ように感じた。

 さて、全く意味の分からない夢ではあったが、それも致し方ない。
日々のストレスはこのような形で緩和されているのかもしれないしな。そう考えると、この意味不明な夢にも付き合ってやるかという気持ちが湧いてくる。

 さ、明日も学校だし、今度は違う夢を見たいなぁ……出来ればハーレムとか。
なんて下らないことを意識の中で考えていると、次第に意識が遠のいてくる。





 夜が明けて目が覚めれば、また変わらない平穏な毎日を過ごすのだろう、この時点で俺はそう考えていた。
俺でなくてもそう考えるだろう。この平和な世界で何を憂うことがあるのだろうか。


 だが、巻坂浩之の平穏な毎日は、この日唐突に、終わりを告げた。

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