純情将軍の婚活戦線、異常アリ⁉︎

葦原とよ

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第4話 訂正。侍女、大いに異常アリ ☆

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 私の部屋の壁にはめ込まれた寝台が、ぎしぎしと軋む音を立てる。

 だがそれは断じて淫らな状況が立てる音ではない。
 筋肉だらけの大男が身悶えてごろごろと転がっているからに他ならない。

 浴室で英凛えいりんに一発抜かれてしまった後。
 賢者か聖人かとでも言うような状態になった私は、無言で英凛の汚れた手を洗い、英凛に布を一枚羽織らせると問答無用で浴室から追い出した。
 そしてまるで戦場にいた頃のように機械的に体を洗い流して拭くと衣服をまとい、無意識のうちに自室に戻った。

 そうして部屋に戻ってきて寝台に座って初めて、様々な状況が一気に現実のものとなって私を襲い、羞恥と後悔とがないまぜになった叫び出したいような気持ちに駆られて寝台の上を転げ回っている次第である。

 穴があるなら入りたい。いやもう誰かに撲殺されて穴に埋められたい。
 なんてことをしてしまったのだろう。

 気持ち良いか気持ち良くないかで言えば、断然気持ち良かった。
 色々な問題はさておき、ほとんど自分の手しか知らないような私のものは、英凛の慣れた手つきの前には赤子の手をひねるより容易く陥落した。

 それと、あの場で告げられた英凛の想いも嬉しくないわけではない。
 いかに私が鈍かろうと、あの状況で言われた言葉が恋愛感情からくるものだろうということぐらいは分かる。

 姿形も美しく、若いがしっかりもので、料理の腕も家を切り盛りするのも得意で、そしてちょっぴりその手のことに積極的な女性に言い寄られているだなんて、普通は一も二もなくはいと頷くような状況だろう。

 だがそれは、英凛が英凛でなかった場合のことだ。そして私もまた、黄牙燎こうがりょうでなければどれほど良かったことか。

 私にとっての英凛は、あくまで大切な親友の残した一人娘だ。幼い頃からその成長を見守ってきた。しばらく離れている間に凄まじい変貌を遂げてはいたが、英凛は英凛だ。

 保護者として守るべき存在であり、嫁ぎ先を探してやらねばならないと思っているほどには『娘』という扱いだ。まさか英凛の嫁ぎたい相手が自分だとは夢にも思わなかったが。

 一体全体、こんな四十を目前に控えた筋肉質なむさ苦しい大男、しかも甲斐性なしで妻に逃げられるような男の何がいいのか全く理解できない。

 英凛の気持ちは嬉しいし、英凛のような女性が妻になってくれたら私もどれほど幸せか分からないが、これからが花の盛りの英凛の輝かしい人生を、私のような中年男が浪費していいわけがない。

 それをどうやって英凛に伝えて諦めさせるべきか、私は考えあぐねていた。
 馬鹿正直に告げたところで、あの大きな瞳が悲しみに染まることは間違いないし――ちらりちらりと英凛の中に伺える奉直ほうちょくの血筋の気配が、あれは絶対に諦めないと訴えてきている。

 奉直は昔から諦めが悪かった。欲しいと思ったものは必ず手に入れるし、どんな勝ち目のない戦もぎりぎりまで諦めなかった。劉夫人との結婚も、本人にも拒否されたし親にも断られたのに結局あの手この手を駆使して漕ぎ着けた。

 なんとなく英凛にも似た匂いを感じる。
 私はぶるりと身を震わせた。

 折角久し振りに湯に浸かって温まったのに、なにかうすら寒い予感がする。

 けれども何年かぶりに戻った自宅の寝台はやはり落ち着くもので、どうしたものか考えているうちに私はうとうとと眠りに誘われた。



   ***



 戦の気配に怯えることなくゆっくりと眠りにつけるというのはいいものだ。私はぼんやりとした意識の中でそう思った。

 むさ苦しい男たちのいびきの代わりに聞こえるのは微かな水音だけ。汗と血と埃ともう何かよく分からないものが混じったような臭いは消え失せ、花のような甘い香りが漂っている。幕舎に吹き込んでくる寒風に震えることもなく、下半身は温かく包まれるような気だるいとも言える気持ち良さに浸されていた。

「んっ…………っ…………」

 鼻にかかるような悩ましい女性の吐息が漏れ聞こえてきて、ああ、そうかここは娼館なのだな、と思った。

 ……いや、国境の娼館はこんな夢のような居心地ではない。もっと悲惨で、飾り気がなく、即物的な場所だった。ではこの状態は、と考えたところで頭と体が同時に覚醒して、傍らの剣を掴んでがばりと身を起こす。

「…………?」

 妙に股の間が膨らんでいる。興奮したとかそういう問題ではなく、もっとこう、人が一人くらいいそうな……。

 その瞬間、布団の塊がもぞりと動いて、妙な温かさに包まれていた私のあれ・・がねっとりとした感触を受けて腰に痺れが走った。私は瞬時にその正体に思い当たり、掛布を思い切りめくり上げる。

「英凛!」

 跳ね上げた布団の下、私の脚の間には、薄い寝衣しんい一枚だけを羽織ってむっちりとした谷間を見せる英凛が四つん這いになって、下衣から取り出したすっかりと上を向く私のものを根元までずっぽりと咥えていた。

 髪も全て下ろした英凛は昼間とは打って変わって妖艶な雰囲気すら漂わせている。対する私は、着ていたはずの寝衣ははだけられて何だか乳首の辺りに冷んやりとした感触がある。下衣も前はすっかり寛げられていて、ずらした下帯から天を衝く、そこにあるはずのものが英凛に飲み込まれている。

 ちゅぽん、と音をさせて英凛がそれを口から離すと、にっこりと笑って言った。

「いただいてます」
「そんなもの食べるんじゃない!」

 絶叫した私に構わず、英凛はうっとりとした表情で私の分身に頬ずりし愛おしそうに手で包む。

「だって、さっきのだけじゃ旦那様も足りないでしょう?」
「…………?」

「うふふ、私も早くこのおっきいの食べてみたかったんです」

 あーん、と大きく真っ赤な口を開けた英凛が、ぱくりと私の亀頭を食んだ。

「や、めっ……英凛!」
ほいひいおいしい……」
「口にものを入れたまま喋るんじゃありません!」

 もごもごと口の中で舌が蠢いて、張り出したところをなぞり上げていく。血管の浮き出た竿は既に英凛の唾液でどろどろになっていて、てらてらと濡れて光っていた。

 この分だと一体いつから咥えられていたのか。いや、いくら疲れていたからと言って、常に戦場に身を置いていた私がこんな状態になるまで寝こけているなんてあり得ない。

「英、凛……なに、を……した……っ」

「旦那様美味しかったでしょう?」

 一度口を離した英凛が蠱惑的に囁いて、ばきばきに硬くなった幹を味わうように舐め上げる。ゾクゾクと背骨を駆け上がる快感の中で、一つの可能性に気づいて違う意味で震えた。

「……夕食、か……っ」
「少ぉし眠くなって、気持ち良くなるだけですよ」

 睡眠薬だけでなく媚薬の類まで盛られていたと知って、こんな子に育てた覚えはありません!親の顔が見たい!と言いたくなったが、腐れ親の顔は嫌という程知っているし、あの奉直の娘ならばさもあらん、と思い直した。

 奉直という奴は目的を達成するためならば、どんな汚い手も卑劣な手も辞さないところがあった。それで他人に謗られようとどこ吹く風。私も何度騙されたりハメられたことか。

 まさか親娘揃ってハメられることになるとは思わなかった。
 と言うか、このままいくと娘には物理的にハメさせられること間違いなしな訳だが。

 なけなしの理性でもって英凛を引き剥がそうと試みたが、薬を盛られてだるい上に、体は全力でこの快楽を歓迎していて、手が思うように動いてくれない。

「でも流石旦那様さまですね。もう少し眠っていて下さるかと思いましたのに、やっぱり体が大きいと薬の効きも悪いのかしら」

 次からはもう少し量を調節しなくちゃ、などと言いながらぐりぐりと人差し指で鈴口を抉る英凛は、もはや小悪魔を通り越して空恐ろしい。次ってなんだ、次って。

「……っ、ぐ……や、め……っ」

「旦那様がもう少し眠っていて下さったら、こっちで食べて、明日の朝には妻になれましたのに」
「な……っ!」

 じっとりと自分の指を腹部に這わせた英凛に戦慄を覚える。つまり何だ、あのまま私が眠っていて目覚めなかったら、寝ている間に中出しさせられて、朝起きたら既成事実で「責任取ってください」とか言われる羽目になっていたと⁉︎

「冗談、じゃ、ない……っ」
「だって旦那様、約束して下さったじゃないですか」
「え……?」

「あと十歳くらい大きくなって美人になったら、お嫁さんにしてくれるって」

 英凛の言葉に、さーっと顔から血の気が引いた。
 確かにその言葉には覚えがある。英凛が十歳頃だっただろうか。「おじさま、好きー! お嫁さんにしてー!」と無邪気に抱き着いてきたので、そう返した記憶がある。だがそれは当然、幼い子供のたわいもない戯れだと思っていて……



「……旦那様、好き。好きです。ずっとお慕いしてます」

 熱っぽく告げられた英凛の言葉に、思わず胸がぐっと詰まって、代わりにいきり立ったそこにどっと血流が集まった。

「っ……こん、な、甲斐性なしの、中年男の、どこがいいんだ……っ」

「全部、全部です。大きくて逞しい体も、ずっと前線で戦い続けた果敢さも、バカがつくほど真面目で、不器用で……でもすごく優しいところも」

 不意に目頭が熱くなった。どうも年を取ると涙腺が緩くなっていけない。この年になれば誰かからこんな風に手放しで褒められ、慕われることなどそうあるものではない。

 意外なほど真摯な英凛の想いに少し心が揺らいだが、真剣な英凛の眼差しが逆に私に一人の人物を思い出させた。

 その眼差しは、今は亡き奉直を写し取ったかのようだった。

 普段の奉直はいつもヘラヘラふらふらとしていて、真面目になることなどほとんどない。けれども一度戦場に立って敵を見据えた時、その細い体には生命力が漲り、私には想像もつかないほど複雑な脳が演算装置として最大出力を放つ。

 あの緊張感溢れる空気の中に置かれた時、私と奉直は言葉を交わさずとも分かり合えた。眼差しが奉直の戦略を全て映し出し、私は奉直の描いた戦場を実現させるための物言わぬ手足となって前へ前へと進んだ。

 英凛の眼差しも、それと全く同じだった。
 言葉にせずとも、全身全霊の想いが伝わってくる。

 だからこそ、それを受け止めることはできなかった。
 英凛は、奉直が残したたった一人の愛娘なのだ。私のような未来のない男ではなく、若く真面目な青年に嫁いで、奉直の血筋を伝えていかなくてはならない。

 そう思うと、心も体も冷や水を浴びせられたように静まりそうになった――かのように思えたが、そうは問屋が卸さなかった。

「……旦那様のお気持ちは、言葉にせずとも分かっています」

 俯いた英凛がぽつりと零した。
 諦めてくれるのか、と私がホッとしたのもつかの間だった。

「でも! いついかなる時も最後まで諦めるなと、父様が教えてくれましたから!」

 あああああ…………!
 奉直、間違いなく英凛はお前の子だよ!

「絶対に振り向かせてみせます!」
「決意しなくていい!」

 普通だったらそこで拳を握り締めるのだろうが、英凛が笑顔でぎゅっと握ったのは未だ衰えない私のものだった。なんて嫌な決意表明なんだ。

「英凛! 離しなさい……!」

 私が止める間もなく、英凛はそれを再び咥え込んだ。

 そこからの英凛は……もう凄まじかった。私は生まれて初めて、喉とは性器に成り得るのだと知った。英凛の舌はそれ自体が生き物ではないのかと思うほどに変幻自在に蠢き、的確に私を責め苛む。

「英、凛……っ!」
「ん、んっ……ん……っふ……」

 無意識のうちに無様に腰が揺れてしまう。英凛の赤い唇がぴったりと竿に貼り付き、滲み出た先走りはすかさず舐め取られ、その度に英凛が嬉しそうに目を細めてこちらを見やる。

 英凛が顔を上下させるたびに、はだけかけた寝衣の奥で重たそうな胸がたぷんたぷんと揺れているのが見えた。慌てて視線を逸らせば、細くくびれた腰から続く柔らかそうな臀部がふるふると揺らめいていて、もうどこを見ればいいのか分からなくなってぎゅっと目を瞑った。

 だがそれは、奉直風に言うならば「下の下の愚策」だった。
 目を閉じたことによって血の集まるそこに感覚までも集中してしまい、より一層熱が放出を求めて体の中を暴れ回る。

「えっ……り、ん……っ、だ、めだ……っ!」

 英凛の顔を引き剥がそうと頭に手をかけるが、痺れたような手はそのさらさらとした黒髪を梳くことしか出来ず、ただ頭を撫でただけのような格好になってしまった。

「離っ……し、なさっ……で、る……っ」

 咥え込んで上下する速度が上がった。口の中ではどこかしこにも絡みついているのではないかと思うほどに舌が這いずり回る。英凛の目が幸せそうにとろんと溶けて、思い切り吸い上げた後、先端に小さく、ちゅ、と口付けられた。

「……っ! ぐっ……あ、あ…………っ!」

 本当に愛おしそうに英凛が口付けるものだから、思わず暴発した。そして英凛の顔に思いっ切りぶっかける形になる。

 荒い呼吸をする私の上で、英凛は至福の笑みを浮かべて白濁を浴びている。そうして顔についた精液を細い指で掬い取ると、口元に運び――白い喉がごくりと動いて嚥下した。

「…………ご馳走様でした」
「っ……! 英凛! そんなものペッてしなさい! ペッて!」
「嫌です。旦那様の精液、熱くて、濃くて……美味しい。このまま妊娠しちゃいそうです」
「~~~~っ!」

 あまりの英凛の媚態に顔が真っ赤になる。何だろう、絶対に恥ずかしいことをしているのは英凛の方のはずなのに、いい年した大男である私の方が羞恥に身悶えしたくなった。

「本当はこっちにもいっぱい注いで欲しいんですけど、旦那様もお疲れでしょうから」

 腹部を押さえながらにっこりと笑った英凛が体を起こす。誰のせいで疲れたと思っているんだ、こっちはもう若くないんだぞと思いながらも、ふっくらとした谷間に白い筋がつうっと垂れていくのが目に入ってしまい、腰の奥がずくりと騒めく。

「おやすみなさい、旦那様」

 そう言った英凛が身をかがめて、未だびくびくとしている私のものに口付けるものだから、私はまた咥えられては堪ったものじゃないと慌ててがばりと身を起こし――そして引っかかったとばかりに笑う英凛に唇を奪われた。

 繰り返す。私が英凛の唇を奪ったのではない、英凛が私の唇を奪った。

 中年男が何を、と言われるかもしれないが、実は初めてだったのだ。こんな、貪るような激しい口付けは。妻とは触れるような口付けしかしなかった。

 さっきまで自分のものを咥えていたはずなのに、あまつさえ精液まで飲んだはずなのに、何故か英凛の唇は甘い。柔らかくて、熱くて、溶けてしまいそうだった。

「……良い夢を、旦那様」

 しばらく経ってから口を離した英凛は、真っ赤に濡れる唇で微笑すると、するりと身を翻して音も立てずに部屋を出て行った。

 ――良い夢など、いや夢が見られるほど寝られるとは思えなかった。

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