14 / 75
第1章 獣の檻
第14話 階級社会
しおりを挟むそれから二、三日ほどは何事もなくすぎた。渓青がいろいろと手を回してくれたのか、後宮の女たちから翠蓮への直接的な嫌がらせはなくなっていた。
外に出れば侮蔑的な視線を投げかけられることはあるが、今のところ皇帝から連続しての夜伽は命じられていないし、自分はさほど害はないと判断されたのだろう、と翠蓮は思う。
後宮の中は完全に階級社会だ。
あの後、渓青から翠蓮は後宮での位階について詳しく教えてもらった。
まずは皇后。これは完全に別格で、皇帝の正妻になる。国事行為にも出席するし、公務などで後宮から出ることも多い。孫皇后亡きあと、現在は空席になっていた。
皇后以外の女性は基本的に掖庭宮から外には出ない。皇后の次が四夫人で、上から貴妃、淑妃、徳妃、賢妃という序列になる。これはほとんどが大官の娘や皇族の縁戚の娘などで占められていた。
その次が九嬪で、昭儀、昭容、昭媛、修儀、修容、修媛、充儀、充容、充媛の九名となるが、今上帝が老境に差しかかっていることもあって、何名か欠員はでていた。
ここまでがいわゆる「妃嬪」と呼ばれる者たちで、実際に皇帝の寝所に断続的に呼ばれるのはこの程度までだ。言いかえれば、「いつ皇帝の種を身籠ってもよい」ような階級の女性で構成されていた。
そしてその下にさらに二十七世婦があり、婕妤、美人、才人をそれぞれ九名ずつ置いてもよい、ということになっていた。
このあたりになると、皇帝が戯れで一度だけ手をつけた女官あがりとか、異民族から人質としてきている王族、などが含まれてくる。無論、皇帝と一度も閨をともにしたことがない者も少なからずいた。
つまりは翠蓮も、「そういう女性」の一人に過ぎなかった。
先日、翠蓮に下らぬ仕打ちをした女たちも、「婕妤・美人」級なのだと渓青から教えてもらった。彼女らの地位は翠蓮によって脅かされる可能性もなくはないため、ああいった「稚拙な」手段に出るのだ、とも。
世婦の下にもまだ位がある。八十一御妻と呼ばれ、宝林、御女、采女がそれぞれ二十七名まで置かれたが、世婦と御妻の間には明確な違いがあった。
それは、御妻はそれぞれの職務をもつ「官」であるということだ。後宮の衣食住にまつわる業務を受けもつのが、この「御妻」たちであり、基本的には女官として区別されていた。
無論、彼女らも皇帝から声がかかれば当然寝所に侍ることができるが、それは砂漠の中から一粒の砂を探しだすに等しい確率であった。
これらの状況を総合すると、翠蓮は実に絶妙な位に置かれたと言ってよかった。
女官として働いている者たちよりは上だが、皇后亡きあとの皇帝が毛色が変わったものを気まぐれにつまむだけのその他大勢の一人であり、「妃嬪」の位を脅かすことはないが、一度も寵を受けたことがない婕妤・美人からは絶好のやっかみを買う位置である、と。
(鬱陶しいこと……)
覚悟を決めた翠蓮にとって、女たちの取るに足らない嫌がらせや言葉など、すでに尾のまわりにたかる蝿程度の認識でしかなかったが、なんの後ろ盾もない翠蓮は、慎重にそして狡猾に立ち回る必要性はひしひしと感じた。
そんなふうに、無為に数日を過ごしていた翠蓮だったが、ある日、渓青が「例のものが手に入りました」と囁いてきたときは、さすがに緊張せざるをえなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる