無字の後宮 ―復讐の美姫は紅蓮の苑に嗤う―

葦原とよ

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第1章 獣の檻

第21話 初夜 5

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 おずおずと翠蓮すいれんが頷くと、渓青けいせいの指はなんどか陰唇を往復し、そしてさきほどのように陰核がこねくり回された。翠蓮はまた断続的に嬌声をあげ、襲いくる体を追いつめる感覚に翻弄される。翠蓮の頭から思考が追い出されたころ、ぬるりとそれは入ってきた。

「……っあ!」

 すっかりと忘れていた感覚を思い出して、翠蓮は思わず渓青の指をきゅっと締めあげる。渓青の指は琰単えんたんのように中を荒らすわけでもなく、ただそこにとどまっているだけなのに、下腹部がじんじんと痺れるような心地がした。

「痛くはありませんか?」
「……いえ、痛みは……」
「そうですか、それは良かった。それにしても……翠蓮様の中はずいぶんと狭いですね。これはゆっくりと慣らしたほうがいいでしょう」

 琰単も皇帝も指で少しかき回しただけで無遠慮に突っ込んできて、それでほとんど痛くなかったのだから大丈夫なのでは、と翠蓮は思ったのだが、こと房事に関しては渓青のほうがはるかに知識を持ちあわせているのだから、大人しくそれに従おうと身を委ねた。

 渓青は指を何回か抜き挿しすると、今度は挿れたまま中をぐるりと搔きまぜるように動かしてきた。激しくはないが、上下左右にゆるやかに内壁を軽く押すように指が中へと馴染んでいく。
 その動きに翠蓮も少し息があがってきて、慣らすとはこういうことかと思った。異物感はもちろんあるが、前回のような嫌悪や忌避は感じない。渓青は決して性急にせず、翠蓮の体が準備を整えるように時間をくれているのだと理解した。

 ぼんやりとした意識の中で翠蓮は考える。性交は生き物として元々備わっている本能の一環なのだから、きちんと手順を踏めば受け入れることができるようになるのは当然ではないか、と。つまり翠蓮が女として不出来なのではなく、問題は相手にあったのだということに気づいた。

 多分、琰単も皇帝もそういった考えが頭から抜け落ちている――否、最初から持ちあわせていないのだろう、と思った。それは王者ゆえの傲慢なのかもしれない。奉仕されることは当然だと思っていても、自分が相手に手間をかけるなど考えも及ばないのだろう。

 そんな風につらつらと考えられるほどには渓青はゆっくりとことを進めてくれていたのだが、翠蓮に余裕が生まれてきているのを感じ取ったのだろう。一度指を引き抜くと、再度挿しこまれた。今度は少しばかり奥まで入ってきたので、人差し指から中指に変えたのか、と翠蓮は頭の片隅で考えた。

 けれどもやはり思考が熱に浮かされたようになっていたのだろう。それがなんのために、ということまでは翠蓮の考えには入っていなかった。だから中指が中に入ったままなのに、人差し指も入り口に押しあてられてじりじりと中に入ってこようとした段になってはじめて、翠蓮は慌てた。

(うそ、両方入れるの……⁉︎)

 指を変えたのは、それぞれを濡らすためだったのかと翠蓮が気づいたときには、すっかりと両方とも翠蓮の体内へと収められていた。

(……入って、しまった)

 渓青の指は元・武人らしく節くれだっていて、剣を握っていたせいかところどころが固く、がっしりとしている。そんなものが二本も入ってしまうなど翠蓮は自分で自分の体が信じられなかった。

「……痛みはございませんか」
「はい、大丈夫です……」
「では……徐々に強くしてまいりますので」

 強く、とは?、と翠蓮は思ったのだが、どうせ右も左も分からないのだから、大人しくすべてを渓青に委ねようと覚悟を決めた。けれどもそんな決心がもったのははじめのうちだけだった。

 渓青ははじめはゆっくりと指を抜き挿しした。指が二本も入っているのは自分でも驚きだが、感覚は先ほどまでとそう大差ない、そう翠蓮は思っていた。
 だが次第に渓青は入り口の上の部分を指の腹で押すように、圧迫するような動きを繰り返すようになった。そこを擦られると、なにかじわじわとした感覚が段々と蓄積されていくことに翠蓮は気づく。それは先ほど陰核をいじられた時よりももう少し微弱なものだったが、瓶に水を溜めていくように少しずつ度合いが大きくなっていることは確かだった。

 次第に呼吸が上がってきて、時折大きな声をあげそうになる。咄嗟に翠蓮は手で口を覆ったが、それは渓青が優しく外してしまった。口を開けば声が漏れ出てしまいそうで、翠蓮はふるふると首を振ったのだが、渓青はそっと頬を撫でると顔を寄せてきて言った。

「……声がお恥ずかしいようでしたら、塞いでおきますので」

 そういうと再び唇が重ねられて、翠蓮は声なき声を渓青の中に解放する。舌が絡みとられて口の中まで愛撫されたとき、感覚が急に押しあげられたようになって翠蓮はびくりと体を跳ねさせた。

(なに、今の……?)

 だがそれを渓青が見逃すはずがない。二本の指でぐりぐりとある一点を強く押し潰され、瓶の水はついに溢れた。


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