無字の後宮 ―復讐の美姫は紅蓮の苑に嗤う―

葦原とよ

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第1章 獣の檻

第23話 初夜 7

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 翠蓮すいれんが今夜の本来の目的を思い出して呆然としている中、渓青けいせいは黒漆の小箱を開き、中に入っていた布に包まれた棒のようなものを何本か丁寧に取り出した。

 翠蓮が手を伸ばして恐るおそる包みを開くと、そこには白くつるっとした表面の男根の先端が現れた。先日はまじまじと見たわけではないが、なにやら線やら段差がきちんと設けられていて、なんというかこだわりを感じる作りになっていた。

「これは……磁器?」
「はい。こちらは白磁ですね。今回のために作らせました。他に牛の角や、木、玉などを用いることもありますので、今後好みがございましたら遠慮なく仰ってください」

 好みといわれても、そんなに違いなどあるのか、と翠蓮は疑問に思いながら包みの残りをぱらりと開き、そして声にならない悲鳴をあげた。

「……っ! け、渓青……っ」
「はい、なんでしょうか」
「こ、これはいくらなんでも……その、大きすぎじゃありませんか。こんなの……絶対に入りません」
「え? こちらはやや小さめで作らせたのですが……」
「無理、絶対に無理です!」
「ちなみにこちらが標準的なもので……あとこれは元の私の大きさです」
「…………っ‼︎」

 渓青が二つの包みを開いて、翠蓮は竦みあがった。そこには渓青の言葉どおり、さきほどのものよりも一回り大きいものが一つ、そして……「渓青のもの」だというそれはもう、翠蓮にとっては凶器にしか見えなかった。

 翠蓮は恐ろしくなって寝衣を握りしめて渓青から遠ざかり、ふるふると首を振る。そんな翠蓮に渓青はため息を一つついて言った。

「翠蓮様……東宮殿下も皇上殿下も受け入れられたのですから、これも入りますよ」
「そんな大きいの無理です! だって二人とももっと小さかったもの……!」

 翠蓮が思わず叫んだ言葉に二人ともしばし固まった。ややあって呆然とした渓青が、半信半疑の様子で尋ねてくる。

「……翠蓮様、不躾なことをお聞きしますが……お二人ともさきほどのようにじっくりと前戯をされたわけではないのですよね?」
「……ええ。唾や潤滑剤のようなもので指を濡らして、少しかき混ぜられただけで挿れられました。でも痛くなかったし、血も出ませんでした」
「で、翠蓮様は達することもなく、一方的に精を吐き出された、と」
「そうです。多分時間にしたら……数分くらいでしょうか。だからさっきの渓青は……その、永遠のように思えました」

 翠蓮がそういうと、渓青は神妙そうな顔をしたあと――破顔して急に笑いはじめた。

「け、渓青?」
「くっ、くくっ……これは傑作ですね」
「ど、どうしたのですか?」
「皇上陛下はまぁ、お年のこともありますが……東宮殿下は間違いなく短小で早漏ですね」

 渓青の嘲るような表情を見て、翠蓮もそれがどういうことなのかピンときた。

「それは……一般的に見て、男性にとってはあまり好ましくない状態、ということですか」
「そうですね。大きさに関しては、大きすぎるのもどうかと思いますが、大体男の自尊心とか見栄とかに直結してますね」
「……東宮殿下はご自分でご自分のものを「大きい」と仰っていましたが……」
「おそらくご存じないのでしょうね、他のものを。そして周りの宦官や妃嬪たちも身分をはばかって言えない……と」

 翠蓮も謎が解けた気分だった。婚姻の支度をしてくれた侍女たちからは、破瓜の際は痛いだとか出血するだとか散々聞かされていたのだ。だからこそ藍月漿らんげつしょうも勧められた。
 処女を散らされたときに痛みもなかったし血も出なかったことは、不思議だとは思っていたがあんな異常な状況でもあったので、怪我の巧妙くらいにしか感じていなかった。そこにまさかこんなからくりが隠されていただなんて、初心者の翠蓮にはなにも分からなかった。


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