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第1章 獣の檻
第24話 初夜 8
しおりを挟む「早い、というのもあまり好ましくないのですね?」
「さきほどのでお分かりかと思いますが、女性の体は少し時間をかけて整えてさしあげなければ、男性ほど簡単には達しません。性交の目的が子作りならばまだそれでもいいですが、ともに快楽を得ることが目的であれば……」
「なるほど。男性だけが絶頂に達して、女は置いてけぼり、と」
「そういうことです。私は後宮で幾人か妃嬪の方のお相手をいたしましたが、皆様一様に狎具は大きめのものを、交わりは時間をかけてされることを好まれました。陛下はお年を召されている故かと思っておりましたが……そういう事情があったのならば納得です。おそらく東宮でも同じ状況なのでしょうね」
そういうと渓青は少し考えこむような表情を浮かべた。そこで翠蓮も今までの状況を整理してみる。皇帝も太子も同じように陰茎が小さく、射精に至るまでの時間が早い。そして後宮の女たちは大きい狎具で時間をかけることを好む、と。つまり両者の需要と供給は一致していない。そこになにか手がかりがあるような気がしたのだ。
そうして考えこんだ翠蓮があることを思いつき顔をあげたとき、おそらく同じことを考えているであろう渓青と目が合った。
「……翠蓮様もお気づきになられましたか」
「はい。私たちの活路はそこにある」
「……とはいえ、今宵は手持ちがこちらしかありませんので、一番小さいこちらを使いましょうか」
「……っ!」
渓青はにっこりと笑って、さきほどのやや小さめに作らせたと言っていた狎具を翠蓮の目の前に置いた。すっかりと忘れていたことを思い出させられて翠蓮は怯む。
「大丈夫ですよ。ほらこれが私の指二本です。そんなに太さは変わらないでしょう?」
「たしかに……」
差し出された渓青の指と狎具を見比べてみるが、直径はそれほど変わりがないように見えた。けれども長さが全然違うのでは……と翠蓮が抗議しようとしたとき、渓青は翠蓮の肩に手を添えて、握りしめていた寝衣を奪おうとするものだから、翠蓮は違うことに抗議せざるをえなかった。
「け、渓青っ……その……」
「どうかなさいましたか?」
「あの、私だけがなにも纏っていないのは恥ずかしくて少し寂しいのです……私ばかりが乱れているようで……」
「ああ、これは失礼いたしました」
そういうと渓青は羽織っていた上衣を脱ぎ、ぱさりと寝台の下へ落とした。ついで単衣を上だけ脱ぎ、逞しい上半身を晒す。
「さすがに下をお見せするのは心苦しゅうございますから」
そう渓青が苦笑するのに、翠蓮は胸が締めつけられるような気持ちになる。握っていた寝衣から手を離し、四つん這いになって渓青へ近づいた。もう少しで顔が触れ合うところまで行き、渓青の肩に両手を置く。
「私は……構いません……」
「翠、蓮様……」
自ら渓青の分厚い唇に口づけ、翠蓮はそっと手を渓青の体に走らせる。がっしりとした首回り、硬い胸板、太い二の腕、割れた腹筋。なにもかもが翠蓮の体の作りとは異なっていて、それらすべてが男性性を主張しているのに、渓青はいまや男ではないのだ。
口づけを交わしながら渓青の腰帯に手をかけると、渓青の大きな手が翠蓮の手に重ねられて制止を訴えた。
「……翠蓮様……これ以上は、いけません……」
「どうして……?」
「……こんなお見苦しいものを……」
「私はすべてを渓青に見せました……はしたない姿も弱い姿も、復讐を誓った昏い姿も。私たちは一蓮托生。私たちの間に隠しごとは不要ではありませんか?」
「翠蓮様……」
今度はもう一度翠蓮が腰帯を解こうとしても、渓青は止めなかった。舌を絡ませて、渓青の手が翠蓮の背を撫でる。翠蓮はゆっくりと腰帯を外し、下帯の結び目を探りあてるとそれも解いてしまった。
口を一度離して、邪魔な髪をかきあげ、翠蓮は視線をそこへと巡らせた。露わにされた渓青の下腹部には――一言で言えばなにもなかった。
引きつれたような傷痕と、その傷を埋めるように少し盛りあがった肉。かつてそこにあったであろう陰茎と陰嚢は跡形もなく、そしてまた陰毛の一本さえも生えておらず奇妙につるりとしている。ただ傷痕の中心あたりには小さな孔が開いていた。
痛ましいという思いはあれど、嫌悪感や恐怖は不思議と覚えなかった。翠蓮はそっと手をのばし、そこに触れてみる。その瞬間に渓青がびくりと震えた。
「……痛かったですか?」
「いえ、痛くは……ですが、そこは排泄に使う場所です。汚いのでお触りには……」
「あら、さっき渓青だって私をいじくり回したではありませんか。お互い様です」
翠蓮がそういうと、渓青はぐっと詰まってしまった。それを了承と解釈し、翠蓮は傷痕にそっと指を滑らせた。
「さぞ痛かったのでしょうね……」
「……四肢を縛られて切除され、ここに栓をされて三日三晩を過ごします。その後、通常は普通に歩けるようになるまでひと月以上かかりますが、私は頑健だったおかげか半月ほどでなんとか歩けるまでに回復しました」
それを想像しただけで翠蓮は血の気が下がる。労わるようにそこに触れると、再びびくりと渓青が揺れた。
「あのですね、翠蓮様……ものがなくなったからといって、感覚までなくなるわけではないのですよ」
「そうなのですか?」
翠蓮はふと好奇心から、その小さな孔の周りをくるりと撫ですさってみる。途端に渓青が翠蓮の手をがしりと掴んだ。
「……お戯れが過ぎます」
そのまま渓青はがばりと翠蓮を押し倒し、口を塞いで有無を言わせなくしてしまった。口づけを受けながら翠蓮は、いつかは渓青をいじり倒して仕返しをしてやろうと思ったが、すかさず渓青の指が挿入されて、もうそれ以上はなにも考えられなくなった。
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