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第1章 獣の檻
第34話 禁断の蜜
しおりを挟む渓青は爛月漿の効能と副作用を後宮の誰よりも熟知していた。それゆえ、もっともらしい理由をつけて翠蓮に提案する。
「……爛月漿はすぐには吸収されませんが、時間が経てば翠蓮様の体に害をもたらします」
それを聞いた翠蓮は、ふうとため息をついた。
「……中を洗ってください」
「御意に」
湯を運びこませると、まずは清潔な布で一糸纏わぬ状態の翠蓮の体を拭った。傷一つなく、透き通るような白皙の肌が灯明の薄明かりに照らされる。
そのまま翠蓮の手を引き、寝台の中へと入り帳を下ろす。脚を投げ出して座った自分の上に、翠蓮をもたれかからせるように座らせると、翠蓮は恨めしそうな顔で見上げてきた。
「……またこの体勢でするのですか……」
「この方がやりやすいですから」
渓青はしれっとそう言ったが、それはまったくの大嘘だ。
本当は寝台の上に四つん這いにさせたほうがやりやすいのだが、この体勢のほうが翠蓮の恥ずかしがる顔が見られるということに、前回気づいてしまった。
渓青が脚を大きく開くと、その上に乗っている翠蓮の脚も開かれる。失礼いたします、と一言断りを入れて、渓青は翠蓮の秘裂へと指を挿し入れた。
爛月漿で濡れそぼったそこは、ぬるりとなんなく渓青の指を咥えこむ。掻き出すふりをして二本の指で翠蓮の好きな場所を抉ると、ぎゅうっと指が締めつけられた。
「……そんなに締められては掻き出せませんよ」
「……っ! 渓青が……っ」
恨めしさの中に切なさを乗せた翠蓮の表情が渓青を煽る。渓青は二本の指を少し開いて、中を大きく掻き混ぜた。ぐっぽぐぽと下品な音をわざとたてさせると、羞恥のあまり翠蓮がぱたぱたと首を振る。その様子に渓青はいっそうかき立てられた。
足元に置いた盥には、ぽたぽたと爛月漿の名残がこぼれ落ちる。
「おや……やはりずいぶんと少ないですね」
「……ほとんど、舐めとられましたから……」
「その割には精液も混じってなさそうですね」
「……本当に……出ているかどうか分からないくらいでした……だから……っ!」
翠蓮の言葉を遮り、掻き出すというよりは明確な意思を持って責め立てると翠蓮の体が腕の中で跳ねた。
「や、ああっ! だめっ、ん、っあ! はな、してぇっ」
もがく翠蓮を腕一本で封じ、ぐちゃぐちゃと膣を撹乱する。指は次第に爛月漿でも精液でもない、泡立つ白濁にまみれはじめた。
「だ、めぇっ……渓、青のっ、ゆび、すぐに……っ‼︎」
翠蓮が思い切り喉をのけぞらせると、ぷしゃあっと音がして盥へ勢いよく水が注がれた。その水――潮を指にまとわせて、渓青はさらに翠蓮の中を追いたてる。
「ひっ! や、めぇっ……いってる、いってるからぁ……っ!」
何度も「訓練」を重ね、翠蓮の体は渓青の指でいとも簡単に潮を噴くまでに開発された。翠蓮は感度が良すぎるくらいで、渓青さえその気になれば一晩中いかせつづけることも可能だろうと思っている。
さすがに翌日に支障をきたすし、それをやったらしばらくは翠蓮から恨まれそうなのでまだ実行はしていないが、渓青自身は「果て」がないのだからやろうと思えば十分できる。
腕の中で荒い呼吸を繰り返す翠蓮のこめかみに小さく口づける。この敏感な体を微塵も感じさせることができないのだから、皇帝と太子はどれだけ不器用なのかと、渓青はせせら嗤った。
「ほら、これですっかり綺麗になりましたよ」
潮でびしゃびしゃになった指を翠蓮に見せつけると、翠蓮は顔を真っ赤にしてぷいとそっぽを向いた。その様子が愛らしくもあり、なんとも皮肉だと思う。
翠蓮自身は、房事にたいしてごく普通の羞恥心をきちんともっている。
渓青が恥ずかしがらせようと意図してやったことには、ちゃんと恥ずかしがるし、翠蓮のほうから積極的に渓青にしかけてくることはない。
けれども皇帝と太子に抱かれるとき、そのすべては「演技」になる。嫌がるのも、感じるのも、恥ずかしがるのも、すべて計算し尽くされたものへと変貌を遂げるのだ。
この部屋を一歩出れば、翠蓮は「亡き婚約者を想う貞淑で薄幸な寡婦」と「抗いながらも肉欲に負ける淫蕩な美女」の仮面を完璧にかぶる。翠蓮を抱く男たちは今のところその仮面をはがすどころか、仮面をかぶっていることにさえ気づいていない。
翠蓮本来の、泣き、笑い、怒り、恥ずかしがり、そして蕩ける顔を見られるのは、男ではなく宦官である渓青だけだ。
(だがそれもいつまで続くのか……)
渓青は自嘲した。
渓青は己の中の気持ちにとっくに気づいていた。
いつの間にか翠蓮がかけがえのない存在になりつつあることに。
その翠蓮を他の男どもに差しだすことでしか復讐が成し遂げられないという苛立ちに。
そして自分が作りあげた翠蓮の体を、渓青自身は本当の意味では味わうことができない歯痒さに。
いくら渓青が翠蓮の素顔を独占していようと、渓青は翠蓮を抱けない。
あのどうしようもない男どもが当たり前のようにやることを、渓青はできない。
優越感と劣等感。
相反する感情の間で翠蓮に溺れつつある自分が、一番の愚か者ではないのかと、渓青は嗤った。
翠蓮は地獄の劫火のようだ。
見た目は可憐な白蓮華のようだが、その花びらの一枚一枚は近づいた者を骨の芯まで焼き尽くすような焔でできている。
凍てついた黄泉路に棲まう亡者どもも、今の翠蓮に近づけば一瞬で溶けて消え失せるだろう。
自分ごときがその熱を奪い取るなど、土台無理な話だったのではないか。
そしてその熱に身を焼き尽くされようとも、焔に自ら飛び込んでいく羽虫のような男の一人に自分もすぎないのではないか、と渓青は思った。
「……渓青…………」
抱えた翠蓮が眉根を寄せて切なげに渓青を呼ぶ。
けれども本当に焦がれているのは渓青のほうだ。男根を失った箇所には、行き場のない高熱が燻りつづけている。
渓青は翠蓮の顎を取ると、噛みつくような口づけをした。今夜は翠蓮の愛らしい舌さえ温いと思えてしまうほどに、渓青は熱にうかされていた。
「……今日はいつもと逆みたい……」
翠蓮が小さく呟いた。
そうかもしれない、と渓青は思った。この体中で渦を巻く暴流のような熱を、翠蓮の劫火で包み、溶かしてはくれまいか、と祈った。
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