34 / 75
第1章 獣の檻
第34話 禁断の蜜
しおりを挟む渓青は爛月漿の効能と副作用を後宮の誰よりも熟知していた。それゆえ、もっともらしい理由をつけて翠蓮に提案する。
「……爛月漿はすぐには吸収されませんが、時間が経てば翠蓮様の体に害をもたらします」
それを聞いた翠蓮は、ふうとため息をついた。
「……中を洗ってください」
「御意に」
湯を運びこませると、まずは清潔な布で一糸纏わぬ状態の翠蓮の体を拭った。傷一つなく、透き通るような白皙の肌が灯明の薄明かりに照らされる。
そのまま翠蓮の手を引き、寝台の中へと入り帳を下ろす。脚を投げ出して座った自分の上に、翠蓮をもたれかからせるように座らせると、翠蓮は恨めしそうな顔で見上げてきた。
「……またこの体勢でするのですか……」
「この方がやりやすいですから」
渓青はしれっとそう言ったが、それはまったくの大嘘だ。
本当は寝台の上に四つん這いにさせたほうがやりやすいのだが、この体勢のほうが翠蓮の恥ずかしがる顔が見られるということに、前回気づいてしまった。
渓青が脚を大きく開くと、その上に乗っている翠蓮の脚も開かれる。失礼いたします、と一言断りを入れて、渓青は翠蓮の秘裂へと指を挿し入れた。
爛月漿で濡れそぼったそこは、ぬるりとなんなく渓青の指を咥えこむ。掻き出すふりをして二本の指で翠蓮の好きな場所を抉ると、ぎゅうっと指が締めつけられた。
「……そんなに締められては掻き出せませんよ」
「……っ! 渓青が……っ」
恨めしさの中に切なさを乗せた翠蓮の表情が渓青を煽る。渓青は二本の指を少し開いて、中を大きく掻き混ぜた。ぐっぽぐぽと下品な音をわざとたてさせると、羞恥のあまり翠蓮がぱたぱたと首を振る。その様子に渓青はいっそうかき立てられた。
足元に置いた盥には、ぽたぽたと爛月漿の名残がこぼれ落ちる。
「おや……やはりずいぶんと少ないですね」
「……ほとんど、舐めとられましたから……」
「その割には精液も混じってなさそうですね」
「……本当に……出ているかどうか分からないくらいでした……だから……っ!」
翠蓮の言葉を遮り、掻き出すというよりは明確な意思を持って責め立てると翠蓮の体が腕の中で跳ねた。
「や、ああっ! だめっ、ん、っあ! はな、してぇっ」
もがく翠蓮を腕一本で封じ、ぐちゃぐちゃと膣を撹乱する。指は次第に爛月漿でも精液でもない、泡立つ白濁にまみれはじめた。
「だ、めぇっ……渓、青のっ、ゆび、すぐに……っ‼︎」
翠蓮が思い切り喉をのけぞらせると、ぷしゃあっと音がして盥へ勢いよく水が注がれた。その水――潮を指にまとわせて、渓青はさらに翠蓮の中を追いたてる。
「ひっ! や、めぇっ……いってる、いってるからぁ……っ!」
何度も「訓練」を重ね、翠蓮の体は渓青の指でいとも簡単に潮を噴くまでに開発された。翠蓮は感度が良すぎるくらいで、渓青さえその気になれば一晩中いかせつづけることも可能だろうと思っている。
さすがに翌日に支障をきたすし、それをやったらしばらくは翠蓮から恨まれそうなのでまだ実行はしていないが、渓青自身は「果て」がないのだからやろうと思えば十分できる。
腕の中で荒い呼吸を繰り返す翠蓮のこめかみに小さく口づける。この敏感な体を微塵も感じさせることができないのだから、皇帝と太子はどれだけ不器用なのかと、渓青はせせら嗤った。
「ほら、これですっかり綺麗になりましたよ」
潮でびしゃびしゃになった指を翠蓮に見せつけると、翠蓮は顔を真っ赤にしてぷいとそっぽを向いた。その様子が愛らしくもあり、なんとも皮肉だと思う。
翠蓮自身は、房事にたいしてごく普通の羞恥心をきちんともっている。
渓青が恥ずかしがらせようと意図してやったことには、ちゃんと恥ずかしがるし、翠蓮のほうから積極的に渓青にしかけてくることはない。
けれども皇帝と太子に抱かれるとき、そのすべては「演技」になる。嫌がるのも、感じるのも、恥ずかしがるのも、すべて計算し尽くされたものへと変貌を遂げるのだ。
この部屋を一歩出れば、翠蓮は「亡き婚約者を想う貞淑で薄幸な寡婦」と「抗いながらも肉欲に負ける淫蕩な美女」の仮面を完璧にかぶる。翠蓮を抱く男たちは今のところその仮面をはがすどころか、仮面をかぶっていることにさえ気づいていない。
翠蓮本来の、泣き、笑い、怒り、恥ずかしがり、そして蕩ける顔を見られるのは、男ではなく宦官である渓青だけだ。
(だがそれもいつまで続くのか……)
渓青は自嘲した。
渓青は己の中の気持ちにとっくに気づいていた。
いつの間にか翠蓮がかけがえのない存在になりつつあることに。
その翠蓮を他の男どもに差しだすことでしか復讐が成し遂げられないという苛立ちに。
そして自分が作りあげた翠蓮の体を、渓青自身は本当の意味では味わうことができない歯痒さに。
いくら渓青が翠蓮の素顔を独占していようと、渓青は翠蓮を抱けない。
あのどうしようもない男どもが当たり前のようにやることを、渓青はできない。
優越感と劣等感。
相反する感情の間で翠蓮に溺れつつある自分が、一番の愚か者ではないのかと、渓青は嗤った。
翠蓮は地獄の劫火のようだ。
見た目は可憐な白蓮華のようだが、その花びらの一枚一枚は近づいた者を骨の芯まで焼き尽くすような焔でできている。
凍てついた黄泉路に棲まう亡者どもも、今の翠蓮に近づけば一瞬で溶けて消え失せるだろう。
自分ごときがその熱を奪い取るなど、土台無理な話だったのではないか。
そしてその熱に身を焼き尽くされようとも、焔に自ら飛び込んでいく羽虫のような男の一人に自分もすぎないのではないか、と渓青は思った。
「……渓青…………」
抱えた翠蓮が眉根を寄せて切なげに渓青を呼ぶ。
けれども本当に焦がれているのは渓青のほうだ。男根を失った箇所には、行き場のない高熱が燻りつづけている。
渓青は翠蓮の顎を取ると、噛みつくような口づけをした。今夜は翠蓮の愛らしい舌さえ温いと思えてしまうほどに、渓青は熱にうかされていた。
「……今日はいつもと逆みたい……」
翠蓮が小さく呟いた。
そうかもしれない、と渓青は思った。この体中で渦を巻く暴流のような熱を、翠蓮の劫火で包み、溶かしてはくれまいか、と祈った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる