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第1章 獣の檻
第37話 後始末
しおりを挟む琰単が立ち去った後の室内の惨状を眺めて、翠蓮は腰に手を当てて、ふぅ、と大きくため息をついた。
「……渓青、こんな時間にすみませんが、部屋を少し片づけてもらえませんか? この寝台では寝る気が起きません……」
翠蓮がそういうと、渓青はくすくすと笑いながら答えた。
「かしこまりました。こちらにお座りになって少々お待ち下さい」
翠蓮は唯一無事な状態の、居間にある長椅子に身をもたれかからせた。この椅子がひどい有様にならなかったのは、ひとえに行為の間中この脇に渓青が佇んでいたからに他ならない。
この長椅子は渓青が夜番を務める際の寝台代わりになっていたので、ひょっとして渓青は自分の寝場所だけは「臭い」がつかないように死守していたのでは?、と翠蓮は勘繰ってしまった。
長椅子の背もたれに顔を埋めると、渓青が身にまとう香の落ち着いた匂いがほのかに漂った。どんな高価な香よりも、身も世もなくさせる媚薬よりも、この香りが一番翠蓮を切なくさせる。
翠蓮がもう少しこの香りに浸っていたいと思ったのに、手際の良い渓青はあっという間に室内を綺麗にしてしまう。湯浴みの支度と新しい夜着の用意まで終えられていて、先ほどまで部屋に残っていた爛れた惨状は跡形もなくなっていた。
そのことに翠蓮は小さくため息をもう一度つくと、しわだらけになった夜着を脱ぎ捨て、一糸纏わぬ姿で湯盥へそっと足を入れた。
温かい湯の中へ座り、体に静かに湯をかけて清めていると、渓青がもつれた髪を梳ってくれる。器用な渓青の手の中で髪はくるくるとまとめられていった。それが終わると白絹で優しく背中を拭われる。
「……翠蓮様、ここに手をかけてください」
「……?」
なんだかよく分からなかったが、翠蓮は言われるがままに腰を浮かせ、膝立ちするような状態で盥の縁に手をかけた。
「失礼いたします」
「………………っ!」
ぬるりと渓青の指が翠蓮の秘裂へと差し込まれる。片手で渓青が灯明を手繰り寄せると、入口が指で左右に大きく広げられ、翠蓮はかっと顔を赤くさせる。
「……いつもより濃いですし、量も多いですね」
「あれだけ出されれば……」
翠蓮はくるりと振り向いて恨めしげに渓青を睨んだ。
「……媚薬を盛られた演技をしなければならないからって、本当に私に媚薬を盛らなくてもよかったでしょう?」
「でもおかげで媚薬を盛られたらどういう状態になるかお分かりになったでしょう?」
「……嫌というほどね」
翠蓮は渓青の手から逃れ、盥の中で膝を抱え、顔をそこに埋めた。
夕方の惨事を思い出してしまったからだ。
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