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第2章 蠱毒の頂
第18話 一滴の餓え
しおりを挟む復讐に必要なのは知力や気力よりも体力なのではないか、と翠蓮は渓青に腰を揉まれながら思った。
麗涼殿の翠蓮専用の湯殿に長椅子を置き、そこへ一糸纏わぬ姿でうつ伏せになった翠蓮を、渓青が香油で丁寧に揉みほぐしてゆく。
一見優雅なように見えるが、これがあるとないとで翌日の疲れの残りかたがまったく異なるのだから、もはや香油を必要経費に計上してもらいたい、と翠蓮は思う。
渓青にふたたび体調を整えられ、一番妊娠しやすそうな時期に瑛藍に一週間ほど抱かれ続けた。
そこまでは計画通りだったのだが、誤算だったのは琰単と瑛藍では一晩の性交にかける時間がまったく異なったことだ。
そもそも琰単に抱かれているときは、翠蓮はすべてが演技なのでさほど体力を消費しない。おまけに時間も短いし、終わったあとに渓青が掻き出し、そのまま「もつれこむ」時間のほうがよほど長いくらいだ。
けれども瑛藍と交わるときは、翠蓮は全力疾走したような状態になる。体は疲労困憊し、髪はもつれて喉は渇き、終わったあとも異物感がしばらくはなくならない。
ただでさえ瑛藍はわりと翠蓮をいたぶって焦らす傾向にあるのだが、時折渓青も混ざったりして、もはや蛇の交尾のほうがましなのではないかと思えるほど爛れた夜の連続だった。
そんな「過酷な」一週間を乗り切った褒美として、こうして渓青に体を揉んでもらうくらいは許してもらいたい。
なにしろこのあとにはまだ、妊娠適期と偽って琰単の前であんあん喘ぐという面倒な作業が残っているのだから。
「……明後日、徐老師をお呼びしております」
ぐっと腰を押しながら渓青がいった。いつもながら渓青の力加減は絶妙で、酷使された腰が楽になっていく。
徐老師は盲目の鍼師だ。渓青の実家の伝手で紹介してもらった老いた熟練の鍼師で、気が塞ぎ込んでいる翠蓮の治療のために鍼をうつという名目で呼んでもらっていた。だが、実のところは脈をみれば妊娠しているかどうか分かるという、すぐれた医師でもあった。前回も老師の診断には誤りがなかった。
「そうですか……」
組んだ腕に頭を乗せて翠蓮は呟いた。瑛藍の子を身籠ったことが確定すれば、あとは数回琰単に抱かれて、守りの体制に入る。
今度は後宮で子を守り育てねばならない。前回のように自宅でのびのびと過ごすこともできなかった。劉皇后と荘淑妃は幽閉されているが、まだ廃位されたわけでも処刑されたわけでもない。油断はできなかった。
そんな状況だから、渓青は翠蓮をより一層壊れものを扱うように守るだろう。自宅にいた前回でさえそうだったのだから、後宮にいる今は鳥籠の中で真綿に包まれるように、外部からの接触を一切遮断しそうな勢いだった。
ならば今しかない、と翠蓮は疲れた体に鞭を打った。
「……んっ……渓青、もっと下を……」
「はい」
腰を揉んでいた渓青の手がすこしさがる。それに対して翠蓮は、「もっと」と再度言った。渓青の手は一瞬考えるように止まったが、背骨の際あたりまで下がって、その周辺を揉みほぐす。それはそれで気持ちよかったのだが、翠蓮が求めていたのは違う種類の気持ちよさだった。
「…………もっと、下、です……」
「……翠蓮様……?」
恥ずかしすぎて翠蓮は渓青のほうなど見れず、組んだ腕の中に顔を突っ伏した。けれども顔だけでなく耳まで火を吹きそうに熱が集まっているのを感じる。きっと真っ赤になった耳は渓青から丸見えだろう。
さらり、と渓青の指がその耳を撫でた。そうして渓青が耳元で囁く。
「……このあたり、ですか……?」
「……んっ! そ、こ……っ」
香油のぬめりを纏った渓青の指が、背骨づたいにつうっと下がっていく。ゆっくりとその周辺を揉まれて翠蓮は腰を揺らめかせた。
妊娠しているかもしれないから前を使って無理するようなことはできない。だからさきほど湯浴みをしたときに、後ろを中まで綺麗に洗っておいた。初めて後孔をいじられた日から、もう何度渓青に貫かれたか分からない。渓青の指が触れるだけで、もの欲しげにひくひくと蠢くのが自分でも感じられた。
ぽたりぽたりと香油がそこに垂らされた。それを纏わりつかせて、渓青の指がぐちゅりと侵入してくる。異物感を覚えたのは最初だけで、すぐに貪欲に指に喰らいついた。
「腰を、あげてください」
渓青に言われるがままにのろのろと脚を曲げ、腰だけを高くあげる。すぐさま指が二本挿しこまれ、中を大きくかき混ぜた。
「っあ! ……んっ、あっ……ん、うっ!」
石造りの湯殿の床が、卑猥な音を反響させる。香油のぬめりもあいまってか、ぐぽぐぽと粘着質な響きが翠蓮の羞恥をいっそう煽った。渓青に開発され尽くした後孔は、もはや快感だけしか拾わない器官に作り替えられている。
渓青は片手で窄まりを大きく広げて虐め、さらにのしかかるようにして体をかさねた。寝椅子と翠蓮の体のあいだに手を差し入れ、押し潰されていた乳首をきゅうと摘み、捻る。
「……っああ! ひ、うっ……!」
「……前だけでは、足りなかったのですか……?」
渓青の言葉に翠蓮はかっと顔を赤くさせる。
たしかに翠蓮は飢えていた。あれだけ瑛藍に貪られたのに、だ。
でもそれは前が、とか後ろが、とか場所の問題ではなかった。瑛藍との情交にはおおむね満足している。けれどもどんなに交わっても、満たされても、最後の、ほんの一滴に翠蓮は飢えていた。
ただ、渓青が後ろが疼いていると勘違いしてくれるなら、それはそれでもかまわなかった。翠蓮の渇きを癒す方法は他になかったのだから。
翠蓮は背を捩らせてうしろを向き、できるだけ渓青を煽るように囁いた。
渓青のものでないと、足りない、と。
渓青に抱きかかえられて湯殿から寝室へと向かう。渓青は女官やら宦官やらに「昭儀様が湯当たりされた」などと平然と告げていた。
何枚かの衣服で包まれただけの翠蓮は、その中である意味湯当たりしたときのようにぐったりしている。
渓青を煽った代償は大きかった。後孔と陰核を同時に散々いじられ、翠蓮が絶頂に達してもやめてくれなかった。朦朧としているなかで衣服で包まれ、こうして運ばれている。
水や薬を運んできてくれた女官に、あとは自分がやるからと渓青は告げて、体よく追い払っていた。翠蓮はそれを寝台の上で、掛布にくるまりながら聞いていた。
やがてかちゃかちゃと音がしたと思ったら、がばりと掛布が剥ぎ取られて、翠蓮は目を白黒させる。翠蓮が言葉を発する前に、渓青が上からのしかかってきた。
後孔にはまだ冷たいままの狎具の先端が当たる感覚がある。さきほどの音は狎具の装着音か、と思った翠蓮の思考はすぐに中断された。
「……挿れますね」
翠蓮の返事も待たずに、ずぶりと狎具が肉を抉じ開けて入ってきた。最初は冷たい感覚にすこし驚いたが、激しく抜き差しされてそんなことはあっという間にどうでもよくなる。
「……っ! ああっ! あっ! ん、あ……っ!」
渓青がこんなに余裕がないのは初めてだ、と翠蓮は朧げに思った。たしかに煽った自覚はあるが、多分それだけではないだろう。いや、それだけでないといい、というのが翠蓮の願望だった。
後ろはすでに渓青の形に拡げられている。最初は異物感しか認識しなかったが、今はここも性器にされてしまった。渓青は翠蓮の体のありとあらゆるところを性感帯へと変貌させる。
「……翠蓮、様……っ」
「……っあ、あっ! ……渓、青っ……ん」
翠蓮は渓青の首に手をかけて引き寄せ、渓青の唇に自ら口づけた。渓青の熱い舌が絡みつき、歯列をなぞり、わずかな隙間さえも惜しむように重ねられる。必死に舌を絡め合わせ、伝えられない想いをこめて求めあった。
体の奥を突かれ、喉をのけぞらせた拍子に一瞬口が離れる。注がれた渓青の唾液を翠蓮は喉を鳴らして飲み込んだ。臓腑が灼かれるように熱い。
「……渓せっ、渓青……っ……ねつが、冷め、ないの……っ」
「……翠、蓮……様……っ」
ふたたび口が塞がれる。互いの唾液に溺れたまま、激しく揺さぶられてたまらず中がぎゅっと収縮する。痛みを感じない狎具は、本物と違いとどまることを知らない。それが一気に翠蓮を高みへと追いやった。
「……ん、んっ……んっ……――――っ‼︎」
一番深いところを思いきり穿たれて翠蓮が放った悲鳴は、渓青に吸い取られて消えた。それが聞こえなかったからとでもいうのか、渓青は翠蓮を貪り続ける。
達したばかりの敏感なところを責められて、絶頂が止まらなかった。酸欠気味になった脳が、このままでは死んでしまう、と思いはじめる。
(……このまま、死んで、しまいたい……)
最後の一滴が、翠蓮の飢えを満たす。
翠蓮は満たされたまま、意識を手放した。
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