無字の後宮 ―復讐の美姫は紅蓮の苑に嗤う―

葦原とよ

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第2章 蠱毒の頂

第34話 饗宴

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 どうしてこうなったんだろう、と翠蓮すいれんはぼうっとする頭で必死に考えた。

 緑基りょくきに想いを告げられて、唇だけは守れたと思ったら、それを曲解されて寝台に押し倒された。たしかに唇にこそ口づけられなかったが、さきほどから首筋や耳、頬、手、胸元と執拗なほどに唇で愛撫されて上半身ははだけかけている。

 ちらりと渓青けいせい瑛藍えいらんを見やると、すぐに緑基が顔を手で挟んで、他のものは視界に入れさせないとでもいうようにまぶたや目尻にも口づけをふらせた。

「……いいの? 止めなくて」
「……翠蓮様が拒否されるまでは、私に止める権利はありません」
「権利、ねぇ……」

 二人が交わすそんな会話さえも聞かせたくないのか、緑基の舌がぬるりと耳殻を犯す。ぞわりとした感覚が体に走り、翠蓮は思わず内股をぎゅっと締めた。

「嫌なら嫌って言え」

 耳元に直接流し込まれて翠蓮は混乱する。嫌ではない、と思う。たとえば初めて琰単えんたんに凌辱されたときのような嫌悪感も恐怖もない。
 感じるのはひたすらに強い緑基の想いだ。ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に、緑基の唇も手もただただ優しく甘い。一点の曇りもないような「愛している」という純粋な想いが痛いほどに伝わってきていた。

 だからといって緑基の想いを受け入れるには、翠蓮の思考は千々に乱れていた。いささか性急に想いを伝えられたこともそうだし、今、渓青が「動かない」ことにもいいようのない悲しみを感じていた。

 渓青に言われるまでもなく、翠蓮だって理解している。
 翠蓮が本気で緑基を拒んで命令しなければ、渓青は「動けない」。翠蓮の身に危険が及ばなければ、渓青の立場では相手を排除することはできないのだから。

 それでも翠蓮は渓青が強引に止めに入ってくれはしないかと、淡い期待を抱いていた。そしてそれは予想どおりに裏切られた。いや、裏切りでもなんでもない。それが「あるべきすがた」だった。

 いっそこのまま緑基を受け入れてしまったほうが楽なのではないかと、翠蓮は考えはじめる。成就しない苦しい関係に思い悩むよりも、純粋に翠蓮を求める緑基に愛され、そして愛せばどれほど幸せになれるだろうかと思った。

 体の中で渦を巻く行き場のない熱も、緑基ならば奪い取ってくれるかもしれない。そう思いかけていたときだった。

「おい……流されんなよ?」

 緑基の強い言葉と有無を言わせない視線に、翠蓮はどきりとする。

「俺は人形みたいなおまえが欲しいわけじゃねぇからな。おまえが爪先から髪の先まで全身全霊で俺のほうを向かねぇと意味がねぇんだ。楽になれるなんて思うなよ?」

 翠蓮は目をみはった。
 なんて激しい男なのだろう、と思う。このまま翠蓮が流されれば緑基は簡単に翠蓮を手に入れられるのに、そんなものでは満足しないと、それはまやかしだと翠蓮につきつけた。

(……緑基の真摯な想いに「流される」だなんて、かえって失礼ですね……)

 それで気づかされた翠蓮は、ふっと笑って緑基を見つめた。

「……正直なところ、すこし混乱しています。自分でもどうしたらいいのか分かりません。ただ、緑基のことは嫌いではないですし、こうして押し倒されても陛下の時のように生理的嫌悪感はいだきません」

「比較対象がアレってのが気にくわねぇが、まあよしとする。で、どうすんだ。このまま食っていいのか? それともやっぱやめとくか? 俺としては体の相性確かめるためにも、一発ヤッときたいんだけど」
「それは……」

 これもこんなになっちまったしな、と言いながら緑基は太腿にすでに硬くなったそれを擦りつける。布越しに感じた熱に、翠蓮はどきりとした。

「まぁ、体の相性は大事だよねぇ。想い合ってるのに気持ちよくなれないとか、拷問みたいなものだし」
「うっせぇな、茶々いれんな。おら、さっさとどっかいけよ。俺は野郎に見られる趣味はねぇんだ」
「えー? お兄ちゃんとしては弟がちゃんとできるか心配なわけですよ」
「だから誰が弟で兄貴だっつの!」
「いや、真面目な話ね。翠蓮はねやで相手と二人きりになるって絶対にないから、それは慣れておかないと彼女を「愛する」なんて土台無理な話だよ?」

 珍しく瑛藍がすこし嘲るような口調で言った。それで緑基もかちんときたようで、売り言葉に買い言葉の状態になる。

「おお、じゃあおまえらに見せつけてやるよ」
「えっ……ちょっと、緑基……っ」

 たしかに瑛藍の言うとおり、翠蓮は寝台の上で相手と二人きりになることはない。 ――渓青を除いて。

 琰単のねやに侍るときも、瑛藍に抱かれているときも、「護衛」という性質上、渓青がいないことはありえない。
 ただそれは瑛藍が言うように「慣れている」のはなくて、とても恥ずかしいけれど我慢している、の間違いだ。
 琰単のときは翠蓮も演技なのでだいぶ慣れつつはあったが、瑛藍と交わっているところを渓青に見られるのは、おそろしく恥ずかしく――そして例えようもなく感じてしまうのが自分でも怖かった。

「おら翠蓮、はっきり拒否んねぇならヤッちまうぞ」

 そう言われても先ほどの愛撫で火口ほくちにはすでに火が灯っている。瑛藍は椅子に腰かけてにやにやとこちらを眺めているし、その脇に立った渓青も動く素振りはない。
 結局のところ、選択肢は一つしかなかった。

 翠蓮は緑基の首元に顔を埋めて小さく囁く。

「……まず一度だけ」
「俺としては二度目以降も期待するけどな」

 にやりと犬歯を光らせて肉食獣の笑みを浮かべた緑基に、すこし早まったかなと思った。



   ***



「……っ! っああ! やぁっ……緑、基……これ、いや……っ!」

 見せつける、という言葉どおり緑基は翠蓮を一糸纏わぬ姿にすると、寝台の上に座らせた翠蓮の脚を大きく開き、うしろから羽交い締めにしてあちこちを弄り始めた。

 片方の手はすでに尖りきった乳首をこね回しぴりぴりとした快楽を翠蓮に与える。もう片方は蜜壺に出入りして敷布に蜜をこぼさせた。
 そのすべては渓青と瑛藍の視線に晒されている。二人の視線を感じれば感じるほど、体の奥が切なくなり、愛液がとめどなく滲んだ。

 翠蓮の尻のあいだには緑基のすでにそそり立つものがぬるりと擦りつけられている。往復するその動きが「このあと」を思い起こさせて、想像だけで体に火が灯った。

 それを見抜いたように緑基が耳元で悪魔のように囁く。

「……挿れて欲しいか?」
「……っ!」
「どうして欲しいか言わねぇと、このまま二人の前で何度でもイかせんぞ?」
「そんな……っ!」

 緑基は翠蓮の腰を掴んですこし浮かせると、翠蓮の秘裂に沿わせるように昂ったものを動かしはじめた。
 潤滑剤を用いずともすでにしとどに濡れているそこは、ぐちゅりぐちゅりと卑猥な音を立てて緑基の怒張にまとわりつく。

 緑基のものは傘の部分が大きく張り出している。そこが翠蓮の花芽をひっかけて弾くたび、翠蓮は口からこぼれでる嬌声を止められなかった。

「ひっ、あっ……! りょ、緑基っ、おね、が……っ!」
「どうして欲しいんだよ?」
「んっ! あっ、緑基のっ……挿れ、てくださ……っ!」
「そんなに挿れたいなら自分で挿れな」

 恥を忍んでやっとの思いで言ったのに、まさかの答えが返ってきて翠蓮は凍りついた。

 自分で挿れるだなんて一度もやったことがない。琰単は押し倒してすぐに挿入するのが常だったし、渓青も瑛藍も翠蓮を愛でこそすれ、なにかをやらせるというのは比較的まれだった。

 翠蓮は体をねじってうしろを向き、ふるふると首を横にふる。

「そんなの、やったことありません……っ」
「じゃあいい経験になるじゃねぇか」

 緑基が譲歩してくれる気配はなさそうだった。仕方なしに翠蓮はのろのろと膝立ちになって体の向きを変え緑基に向かい合うと、緑基の腰の横あたりに膝をつく。

 天をつくようにそそり立つ緑基のものの根本に手を添えると、自らの秘所にあてがった。待ち侘びた熱さを陰唇でとらえ、ゆっくりと腰を落としていく。
 大きな傘が翠蓮の秘所を割り開き、肉塊がずぶずぶと翠蓮を満たした。それが一番奥まで貫いたとき、翠蓮は背をしならせて駆け抜ける快感に身を震わせる。

「……っ、どうした、挿れただけで満足なのかよ? もっと腰を振れよ」
「……んっ、く……っ……駄目、です……っ」
「あぁ?」
「……きも、ち、よくて……動けな……っ」
「仕方ねぇな」
「っああ!」

 緑基は翠蓮の腰をがっしりと掴むと、下から激しく突き上げはじめた。熱い杭が翠蓮を何度も貫く。一番奥が溶けてこじ開けられてしまうのではないかと思えるほど、灼熱の塊が深く穿ってきた。

「緑、基っ……っああ! や、あっ……あつ、い……っ!」
「……くっそ、やべぇ、な、これ……っ」

 硬いものが肉壁を何度もこすりあげる感覚がたまらない。大きな段差が入り口にひっかけられるたびに背筋を快感が走り、粘着質な音と肉のぶつかる音が交互に響いた。

 渓青とも瑛藍とも違う、緑基そのもののような真っ直ぐな感触と想いが翠蓮を徐々に追い詰めていく。まるでそれは緑基自身から逃げることなど許さないとでもいうように、翠蓮に逃げ場を与えなかった。

「……りょ、くきっ……もっ……だ、め……っ!」
「ちっ……それは、こっちの台詞だ……っ」
「っあ、ああ! あっ、やっ……いっ、く……っ!」
「……くそっ……!」
「――っあああ‼︎」

 子宮に直接叩きつけて孕まそうとでもするかのように、緑基は滾る塊をぐりぐりと最奥に押しつけて長く吐精した。
 その熱に翠蓮は自分が灼き尽くされる感覚を覚える。この激しい熱ならば翠蓮の灼熱の焔さえ飲み込んで溶かすかもしれない、そう思った。

 けれどもそう思考すること自体、核の部分は焦げずに残っているのだと、その時の翠蓮は気づかなかった。




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