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第6章 アナザージャパン編

第64話 誘惑

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「おいおい、怒らせただけで全く効いてないじゃないか!」

 大蛇の氷柱が池田のすぐ近くに着弾した。だが、池田は全く動かない。

 お? 根性だけは座ってるのか。偉そうなことを言うだけあるじゃないか! 感心して見ていると、

「ちょっと、ソウ! お願い! 池田の奴、失神してるわ! 助けてあげて」

「え? ウソ?」

 目をこらして池田を見る。奴は口から泡を吹いて立ったまま白目を剥いているのだった。

 何て奴だ! 口だけ偉そうなだけだったのかよ! 全く、感心して損した。

「あんな奴助けるのも面倒なんで、ちょっと行ってきますね?」

「え? ちょっと、撤退命令が出てるのよ? すぐに逃げなきゃ……」

 泉は必死に俺の手を掴み、引き留めようとした。

「そんな大げさな。あんな蛇くらいで。ま、少し待ってて下さい」

 俺は駆け出した。大蛇に向かって。

 あ、念のため、池田にはバリヤーを張ってやった。あんな奴でも死なれたら目覚めが悪くなるかもしれないしね。

 さ、大蛇のレベルはと……、ん? たったの2000?

 これって、オークジェネラルより弱いんじゃ……。

 大蛇が大きな口を開いたまま俺に襲いかかってきた。

 遅いっ! 口が迫ってくるがまるでスローモーションだ。俺の目にはユックリと時が流れているように見える。ホーリーソードを一瞬だけ出し、口の下へ入り込む。そして、喉を一凪。

 奴の頭部は突っ込んできた勢いそのままに後方へすっ飛んでいく。

 あれ? もう終わり? 弱すぎない?

 そんな俺を唯一人見ていた泉は大きく口を開けたまま、動きが止まっていた。

「さ、終わりましたよ。泉さん?」

 泉は瞬き一つしない。指一本動かない。ただ体をフルフルと震わせ、「あ、そ、そんな……」と呟いている。

「おーい、泉さん? ほら! 目を覚まして!!」

 大声で叫ぶと、泉はハッと気を取り戻した。

「ちょ、アナタ。一体どんな強さしてるのよ!? あの大蛇を一発で倒しちゃうなんて!」

「んー、思ってたよりも弱かったから一発で終わっちゃった。見た目だけは大きかったけどね。さ、帰りましょう」

「え、えぇ……。でも肝心の車が……」

 あっ、忘れてた! 車が炎上しちゃったんだった。ヒールで車も治せるんだろうけれど、んー、泉さんには刺激が強すぎるかなぁ。

 そんなことを考えていると、一台の車が近づき急停車した。

 ドアが開き、降りてきたのは長くスラッとした脚。短いスカートにバストがパンパンに張り詰めたブラウス。ロングヘアーは風に靡いてキラキラと輝き、大きなサングラスを外すと、整った顔立ちの美人が降りてくるのであった。

「あ、あなたは!」

 泉が驚きながら声を上げる。

「あら? 私のこと、知っててくれたの? 光栄ね」

 車から降りた謎の美女はこちらへ向かって歩いてくる。

「伝説のモデルとしておととしまで活躍されていた鏡花きょうかさん! どうしてこんな所に!」

「ふふっ、嬉しいわね。現役は退いたのに覚えててもらえたなんて。ありがとう。泉さん」

「へっ? わ、私のこと知ってくださったんですか?」

「えぇ、有名人だもの。特に、私のグループ、関東妖激団ではね」

「そ、そんな!」

 泉はさらに驚き、口をパクパクさせている。

「ん? 関東妖激団って、あのテロリストみたいな連中のこと?」

「あら? テロリストだなんて誤解よ。私たちは警察、並びに日本政府に勾玉の返却を望んでいるだけ。それを力でねじ伏せようとしてるのはむしろ、警察のほう」

 鏡花は泉を見ていない。俺を見ながら話しかけている。

 こんな美人さんから熱心な視線を送ってもらえるのは嬉しいが、初対面の女性だし、心当たりもない。うーん、俺、何かしたのか?

「うそよっ! 警察は関東妖激団をテロリストとして手配しているわ。鏡花さんがそんなグループに入ってるなんて!」

「グループに入ってるも何も、私が作ったグループだもの。先ほどはお世話になったみたいね?」

「えぇ、さっきの連中はみな、逮捕したわ! もし、あなたが本当に関東妖劇団だというのなら……、あなたを逮捕します!」

 泉は腕を上にあげ、火の玉を出現させた。

「あらあら、私は話しをしに来ただけよ? あなたと事を構えるつもりはないわ。もちろん、攻撃されたら正当防衛はさせてもらうけれど」

 ん? 鏡花が俺にウィンクした。んー、ますます心当たりがないな。どうしたものか。

「くっ……」

 泉は腰を低くし、いつでも発射できる態勢を作った。

「本題に入らせてもらうけれど、そこのアナタ! アナタとお話がしたいのよ。いいかしら?」

「ん? 俺? あ、さっきの人たちをやっつけちゃったからかな? すみません、全く知らなかったもので」

「だめよ! ソウ! あの人の言うことなんて信じちゃダメなんだから!」

「あら? いいじゃない。ちょっと彼をお借りしたいのよ。先ほど捕まった人たちはいずれ帰してもらうからいいわ。それよりもアナタよ! ね? お姉さんに少しだけ、時間もらえないかな?」

 鏡花が少し前屈みになる。ここから見ても、そのダイナマイトな胸元が丸見えだ! ヒャッホゥ!

「ダメ! ソウは私のパートナーなんだから! アナタには渡さない!」

 若さ溢れる健康美が美しい泉からそんなこと言ってもらえるなんて!

「あら? 恋人ってわけじゃないんでしょう? なら、少しくらい借りてもいいじゃない? ね? 君もそう思うでしょ?」

 色香全開のお姉さん、鏡花さんから熱心に誘ってもらえるなんて!

 一体、今日はどうしたんだ? はっ! これがモテ期って奴なのか! 俺にも来たのか? 来てしまったのか?

「ソウ! あっちに行ったらダメなんだからね!」

「ソウ君っていうのね。お姉さんと一緒に、どう?」

 熱烈な二人からのお誘い。どうすりゃいいんだ? 俺!


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