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第7章 聖魔大戦編
第86話 神聖王国
しおりを挟む神聖王国。その玉座に腰掛ける男は怒りに拳を振るわせていた。
「今、なんと申した?」
震える声で斥候に告げる。
「はっ、恐れながら……。勇者は突如現れた謎の男に交戦。剣にヒビを入れられ、撤退いたしました」
勇者の装備には莫大な金がかかっていた。当代随一の鍛冶師達に作らせた剣、鎧、盾。それらに付与術士による強化魔法を重ね掛けさせた。刀は一流の研ぎ師に仕上げさせ、鎧と盾は勇者の体に合うよう細部にいたるまで調整を行わせたのだ。
さらに言うならば、魔界を侵略するための勇者召喚にも金を注ぎ込んだのだ。優秀な魔術師を多数呼び集め、接待しながらなんとか呼び寄せた勇者なのだ。
「娘よ。洗脳はうまくいっていたのか?」
男は隣に座っていた煌びやかなドレスに身を包んだ女に問うた。
「お父様。洗脳は勇者の召喚から4ヶ月もかけて用意したのです。私があのような下民にわざわざ付きっきりで進めたのですわ。そこに問題なんてありようがありませんわ」
「フム。ではレベリングが足りなかったのか?」
反対隣に控えていた宰相は額に汗を浮かべながら、
「恐れながら、陛下。これ以上ないほどにまでレベルは上げて送り出しました。勇者のレベルは人類最高峰といえる、4800代まで引き上げたのです。
王宮の優秀な騎士を何人も失いましたが、騎士が弱らせ、勇者が止めを刺す、所謂ところのパワーレベリングで効率的にかつ、徹底的にレベリングをしたのです。
やはり、勇者敗退の原因は剣のヒビ。ここに尽きるかと思われます」
「そうか……。その鍛冶師の首を刎ねておけ」
辺りは静寂に包まれる。
「よいか、この計画には多大な予算を注ぎ込んでおる。失敗は許されん。勇者だけでダメなら他にも呼び寄せるなりして、なんとしても成功させろ」
「「「はっ」」」
臣下達は一斉に礼をした。玉座に座った王冠を被った男はそこで会議を抜け、去って行った。
残された者たちはすぐに動き始める。
より強い者を召喚するために。
より強い武器を作るために。
より強力な洗脳を作り出すために。
こと魔界を侵略する計画に異論を唱える者は皆無であった。
王宮内の魔術師が集う、魔術研究所。今、ここに二人の若い男女がいた。二人は黒いフード付きのコートを着ており、フードを深く被っている。その顔は薄暗くしか見えない。
宮廷魔術師長のセイラは焦っていた。前回の勇者召喚はこれ以上ないくらいにうまくいったのだ。賞賛されこそすれども文句を言われるのは納得がいかない。だが、聖王の命令なのだ。より強力な者を召喚する必要がある。
「なんてこと……。あの勇者を一人呼び出すだけで数十人の魔術師が魔力を空っぽにするくらい大変だったのに……」
魔力が空になってしまうと、頭がクラクラするし、吐き気もするし、何より、起き上がったら顔がゲロまみれなんてこともある。こんなこと、何度もやりたくない。
「おいおい、魔術師長さんよ。あんなバケモノよりもっとスゲェの呼ぶなんて冗談だろ? アレ以上は無理だって」
呆れた顔つきで話しかけてきた男はこの聖教国の副魔術師長、ジル。口は悪いが魔術の腕は超一流であった。さらなる召喚にはこの男の魔力は絶対に欠かすことが出来ない。機嫌を損ねるわけにはいかない。
「一度で数人を呼び出さなきゃ。あの勇者は今回も魔王国に敗れたとはいえ、人間界で最強なのは間違いないわ。あの勇者に近しい者を呼び出せば、相当な戦力になりそう……よね」
「へ? 数人??? 無理無理無理! 前だって魔力がカラになっちまって倒れたっていうのに!」
ジルは端からやる気がないようね。無理もないけれど……。
「えぇ、今回は倒れる順番を考慮するわ。他国の魔術師や、ウチの新人達がまず魔力を全部かけてもらう。その後で私たちが足りない分を補う。これでなんとかしましょう。言っておくけど、これは王命よ。やり遂げなければ、私たちを待っているのは……」
ジルはガックリとうな垂れた。
「へいへい、所詮、下働きの魔術師は使い捨ての駒です、ってか? 全く、あの爺さんめ、コキ使ってくれちゃって」
「しっ、王宮内よ? 誰が聞いてるのかわかったものじゃないわ! 気をつけてよね!」
二人は頷き合うと、動き出した。
一刻も早く宮廷に魔力を持つ人間を多数集めなきゃ。そして、明日にでも召喚の儀式を。
武器管理官を務めるサップは頭を抱えていた。
なんだってスミス爺さんの首が取られなきゃならねぇんだ!
机をいくら叩いても悔しさは晴れない。
「スミス爺さん。すまねぇ! 俺がアンタに武器の製作を依頼したばっかりに大変なことになっちまった!」
ダラリと大粒の汗が流れ落ち、俺のシャツはびっしょりだ。
「何とか逃がす方法を考えなければ……。人類でスミス爺さんより優れた鍛冶師なんているわけない。それに、あれ以上の剣を作るなんて無茶だ!」
どうすりゃいいんだ……、
頭を抱え、まとまらない思考がぐるぐると頭を駆け巡っていると、
「どうした? サップ。呼んだか?」
ドアを開けて入ってきたのは渦中の人、スミス爺さんだ。
白髪、白ひげの顔中皺だらけだが、腕は太く、俺の太ももよりもある。
「困ったことになっちまった。聖王が勇者の剣にヒビが入ったからって、剣を作った鍛冶師の首を刎ねろ、なんて言い出したんだよ。お願いだ。スミス爺さん。ここから逃げてくれ!」
「なんだと!? 俺の作った剣にヒビが入っただと? そんなバカな……」
スミス爺さんは剣にヒビが入ったことに驚いて、死刑の宣告のほうはまるで聞いちゃいない。もう王宮内は動いているというのに……、この鍛冶バカ親父め!
「とにかく、そんなことを言ってる場合じゃねぇんだ! 早く逃げよう! 俺も手助けする。」
「なぁに、捕まっちまったらそん時は寿命だと思って諦めるわい。だがよ、俺の剣にヒビが入っちまったってのは許せねぇ。おい、サップ! なんとしてもあの剣をここに持ってこい!」
「何言ってるんだよ? 爺さん。頭でもおかしくなっちまったのか? 逃げるなら今しかねぇ。早く準備してくれ……」
「いいから、オメェさんが、しらばっくれてれば、数日くれぇどうにかなるだろ! その間、俺は鍛冶場に籠もる。いいか! 俺の剣より優れた剣があるんだぞ? 負けてられっかよ!」
スミス爺……、あんた大馬鹿だよ……。自分の命より、剣が大事なんて……。
結局、スミス爺さんの言う通りに動くしかなかった。この頑固爺は一度言い出したら絶対に聞かないことは何度も経験してきたのだ。今更、性格を変えられるワケがない。
「わかった……。剣はなんとしても持ってくる。だがよ、もし剣を打ち終わって、また逃げるチャンスがあったら必ず逃げてくれ。いいか? それだけは約束してくれ」
「あぁ、わかった。頼んだぞ? オメェしか頼れる奴はいねぇんだからよ!」
俺は説得を諦め、ヒビの入った剣を回収することになったのだった。
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