162 / 219
第9章 勇者RENの冒険
第160話 暇
しおりを挟むキュイジーヌは真祖と呼ばれるヴァンパイアだった。生粋のヴァンパイアとヴァンパイアの間に生まれた子だ。真祖と呼ばれる存在はこの世でももう数えるほどしか残っていない貴重な存在であった。
そのため幼いころから徹底的に甘やかされて生きてきたのだった。キュイジーヌには魔法の才能があった。特に努力せずとも他のどのヴァンパイアより強い魔法を自由に使うことができた。
しかも同時にいくつもの上級魔法を操り、それを融合する技術すらも苦労することなく身につけていたのだった。
そんな彼女がヴァンパイア族の頂点に立つのもすぐのことだった。
族長を一騎打ちで一方的に叩きのめし、自らがトップに立った。
そんなある日のことだった。
「はぁ……」
ボクが椅子にこしかけ、ため息を漏らしていると、執事のガヌーがお茶を淹れてくれた。
「いかがされましたか? お嬢様」
今日も極上の紅茶を振る舞いながら笑顔で問うてくるガヌー。
「暇なんだよ。暇すぎるんだ! どうにかならないのかな?」
ガヌーは表情を崩すことはない。いつも笑顔を顔に貼りつけたままだ。
「ふぅむ、それでは城の外に出かけてみてはいかがでしょう?」
「城の外?」
「えぇ、ここ最近は外出することもなく、数十年が経過しております。この間にも世界は少しずつ動いているものです。それらを目にするだけでも変化が感じられるのではないでしょうか?」
「うーん、外か……」
ボクが難色を示す顔をしてもガヌーの顔はピクリとも動かない。
「そうです。お嬢様。たまには外を見て回るのもいい気晴らしになるものですよ? ただでさえ、我々ヴァンパイア族は引きこもりがちですからね」
確かにヴァンパイア族は皆、引きこもりが多かった。前の族長を決める戦いをするだけでも100年以上待たされたのだ。それも前の族長が気乗りしなかったからという理由だ。
「こんなに暇ならどこか、他の種族でも攻めてこないかな? そうなれば暇がつぶせるのに……」
「お嬢様。物騒なことをおっしゃらないでください。第一、この大陸で我々より強い者などいるわけもありません。わざわざ死にに来る奇特な者などいるわけもありませんよ」
ガヌーは涼しい顔を崩すことなくクッキーをボクの前に差し出してくる。
そう、この大陸では我々より強い者などいないのだ。遙か太古の時代には、肩を並べる種族もいたようなのだが、古文書にしか残っていない。
幼少の頃、古文書を読み漁りながら興奮したのを覚えている。その時は、この世の中が強者で溢れていると思っていたのだ。
「しっかし、暇だなぁ」
クッキーをポリポリと齧っていると、ガッシャガッシャと金属が擦れる音が聞こえてきた。
「おや? 何事でしょうか? 見てまいりますね」
ガヌーが身を乗り出そうとしたとき、ボクは彼の前に手を伸ばしていた。
「いや、ボクが行こう。これはなにかの前触れのような気がするんだ」
数百年ぶりに訪れた何らかの知らせ。その報告に期待を膨らませ、ボクは番兵の知らせを聞くのであった。
***
「何? トーナメント?」
驚くボクに説明をしてきたのは、この大陸の神を名乗る男だった。
「はい、ありとあらゆる大陸から、王者達が一同に集まり、雌雄を決するトーナメントが開催されるのです。それに参加する資格が、キュイジーヌ様にはございます。いかがでしょうか」
トーナメント……。はっきり言ってそそられる言葉だ。しかし、城の外に出たくないボクには縁のない話だろう。
「うーん、なんだか気乗りしないなぁ。ただ戦いたいだけならボクの城を直接攻めて来ればいいじゃないか? どうしてわざわざ君たちの国へ行かなければならないんだ?」
なんだかんだ理由でもつけて追い払ってしまおう、そう考えていた時だった。
「トーナメントの覇者にはどんな願いでも一つだけ叶える事ができるのです」
神を名乗る男は口角を上げた。
「願いを叶える? ほ、ほんとに何でもいいのか?」
「はい。我々神々が集結し威神にかけて、トーナメント覇者の願いを叶えることになっております。そのため、特殊な魔法陣を敷いてある我々の居城においでいただくことにはなってしまい、申し訳なく思っております。ですが、このトーナメント、皆様のご期待に添えるだけの戦士たちが集まることは間違いありません」
神はまるでこちらが暇を持て余してることを知っているかのような口ぶりで得意そうに言ってのけた。
「なりません。お嬢様。お嬢様はこの城を預かる身。神の国なぞ、敵国のど真ん中です! どんな罠が待っているやもしれませぬ!」
珍しく声を荒らげてガヌーはボクを止めるべく、身を乗り出しつつ提言してきた。
「よいのですか? せっかくの暇を紛らわせられるチャンス。しかも優勝すれば願いを叶えてもらえるのですよ? キュイジーヌ様の実力があれば、このトーナメントを勝ち進むのも容易なはず。トーナメントでエキサイトな日々の後に願いまで叶えてもらえるなんて、暇とは縁の遠い話。これを断るなどもったいないにもほどがあるというものです」
「わかった。参加しようじゃないか」
「お嬢様!」
珍しく声を荒げるガヌーを静止し、ボクは決意した。
「よいのだ。ガヌーよ。ボクはこのトーナメントに参加しようと思う。この神たちにもそれを開催する目的もあるのだろう。それが何かは教えてはくれないだろうがね。だが、ボクの願いを叶えてくれるというのであれば、やぶさかではない」
「お嬢様……」
「わかってくれガヌー。それにボクが負けるわけがないじゃないか。この大陸で一番強いんだぞ?」
「色よい返事がいただけて光栄にございます」
神はうやうやしくお辞儀をすると、どこへともなく消えていった。
この瞬間、ボクのトーナメント参加が決定したのだ。そう! 暇で怠惰で引きこもりなボクがトーナメントに参加するのは……、暇すぎたから! なのであった。
1
あなたにおすすめの小説
最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~
華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』
たったこの一言から、すべてが始まった。
ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。
そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。
それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。
ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。
スキルとは祝福か、呪いか……
ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!!
主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。
ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。
ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。
しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。
一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。
途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。
その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。
そして、世界存亡の危機。
全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した……
※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。
荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。
異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~
ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆
ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
ある日、俺の部屋にダンジョンの入り口が!? こうなったら配信者で天下を取ってやろう!
さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。
冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。
底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。
そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。
部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。
ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。
『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!
無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~
甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって?
そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる