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第9章 勇者RENの冒険

第165話 黒騎士の暗躍

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 キュイジーヌの控室の前は静寂に包まれていた。そのドアは強力な結界術で開かなくなっている他、いかなる音や衝撃も外には漏れていなかった。

 だが、その控室内は……、

「はぁっ、はぁっ。こ……、この人間風情がぁっ!!!」

 神を名乗る白服の男は息を荒げ、手に持った短刀を振り回す。

 激しい金属音が鳴り、その衝撃で空気がビリビリと振動を放っている。

 だが、黒騎士はただ、静かに神の攻撃を弾き返していた。

「どうした? そこまでなのか?」

 余裕すら含む言葉に神は激昂した。

「貴様なぞ……、貴様なんぞぉ……」

 神の攻撃は速かった。舞台で戦っている猛者たちに勝るとも劣らないスピードで攻撃を放っていた。

 だが、その神速の攻撃が黒騎士には届かない。

 フゥ、と黒騎士は大きなため息をついた。

「奥の手があるものだと期待したんだがな。どうやら、本当にこの程度ということか……。残念だ」

 そのセリフと共に黒騎士の兜の奥にある目がキラリと光を放つ。

 初めて放つ黒騎士の一撃。それはその場から微動だにせず、ただ鞘から剣を抜き放っただけ。

「あん? なんのつもりだ? そんなかっこつけたって……、あえ???」

 神は気づいた! 自分の手が短刀ごと地面に落ちていることに!

「この程度も見えてないのか……。やはり、弱いな」

 黒騎士は剣を鞘に収めた。

「な、何をっ!!!」

 神が動こうとした時、自分の体の違和感に気づく。

「あれ? 視界が落ちる……」

 すでに体は細切れになり飛び散っていたのだ。そしてのこった頭部だけがゆっくりと地面に落ちた。

「き、さま……」

 頭部だけになってもまだ口の減らない神を目の前にして黒騎士はまた深い溜め息をついた。

「フゥ、まるで手応えがないな」

 そう言い残しつつ、神だった男の頭部を踏みつけた。

 べシャリと音を立て、神は散った。

 黒騎士は振り返りながら魔法を使う。その魔法が部屋を包み込んだ。傷だらけだった部屋は、まるで新品のような輝きを取り戻し、傷は消え、血痕も立ちどころに消えてしまう。

 そして黒騎士は部屋を去った。眠っているキュイジーヌを残したまま。



   ***



「ハァッ!」

 マリーンは叫びながら魔法を帯びた矢を連発して射る。それも一息に5発。

 飛んでくる矢のスピードはそのどれもが400キロを超えるスピードだった。目で見てから弾くなどということはほぼ不可能に近い。それも5発の矢が飛んでくるのだから、この攻撃に耐えうる者などいるはずもない……はずだった。

 ルシフェルはまだ一歩も動いていない。だが、マリーンの矢は彼に全く届かなかった。

 周囲を氷らせる一撃も風に載せたさらに疾い一撃も、土魔法で先端を硬化した特別製の一発も、全て届かなかった。

 当たる直前の距離で矢は全て逸らされ、氷魔法も振り払われ、硬化した矢は爆散した。

 ルシフェルは口角を上げた。

「まだだ。もっと攻めて来い。もっとだ……。もっと攻めてみろ……」

 顔をニヤつかせながらマリーンを見下すような目つきで言い放つ。

「くっ! ならばこれはどうだッ!」

 マリーンは10本もの矢に魔法を込め、瞬時に射出していく。そのどれもが属性もバラバラに、そして、ルシフェルの周りを素早く移動しながら放っていく。

「マリーンの姿が目で追えませんッ! ルシフェルの周りを回りながら矢を次々に放っていきます!!!」

 ルシフェルの前方だけでなく、後方からも矢を放ち、完全に死角からの一撃がルシフェルに襲いかかる。

 これで防げないはずッ!

 必ず当たるはずと確信に近い手応えを感じたのも束の間、矢は無惨にも全て弾かれてしまった。

「マリーンの射撃が止まらないッッッ!!! しかし、ルシフェルの周りで全て弾かれています!!! 本当に信じられない光景です!」

「どうやら……ルシフェル先輩はあの剣で弾いているように見えますね」

「剣で弾いてるんですか? 私の目からは全く動いてないようにしかみえませんよ? ローファンさん?」

「私の目にも薄っすらとしか見えないのですが、ルシフェル先輩の手がほんの瞬間だけブレるように見えるんですよ。だから……、恐らくですがあの矢を全て剣で弾いてるんじゃないですかね?」

「そ、それが本当なら凄まじい芸当なんじゃ……」

「えぇ、私も本当に信じられない思いです。それに後方からの矢も全て弾きましたからね……。後ろに目でもあるんでしょうか? それとも聴覚や嗅覚なと別の感覚で捉えてるのかもしれませんが……」



「信じらんない……」

 ウソでしょ? アイツ……、後ろ向きのまま……矢を弾いた。

 マリーンの目にはしっかりと見えていた。ルシフェルはやはり一歩も動くことなく、マリーンの放った全ての矢を弾いていた。それも目の届かない後方からの射撃すらも弾いたのが見えたのだ。

「こ、こんなバカなことって……」

 下唇を強く噛んでしまう。いけない……、ここで弱気になってしまえば、それこそ奴の思うつぼ。私にだってまだ使用していない技はたくさんあるんだ。

 マリーナは気を入れ直し、一つ深呼吸した。

 ふぅーーーっ、頭の中を整理し、次の一手を探りはじめる。

 すると、ここでようやくルシフェルの足が動き出すのであった。


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