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第9章 勇者RENの冒険

第167話 魔導弓

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「す、凄まじい爆炎ッッッ!!! こ、これが魔導弓の威力なのでしょうかーーーッ! 会場の上空にはキノコ状の雲が出来上がっておりますーーーッッッ!!!」

「これほどの濃密な魔力で遠距離からの攻撃が出来るなんて考えられません!!! マリーンの魔導弓ッ! 凄まじい威力です!!!」

「しかし、爆炎の隙間から金色に輝く球体のようなものが見えております!!! こ、これは……」

「あ……、あれはッ! オーラフィールド、ですッ! ルシフェル先輩が使ったいるのは間違いなくオーラフィールドですね! かつて神の創りし武具の一部に金色の防御結界を張るものがあると聞いたことがありますが……、まさか実在していたとは驚きました!」

「オーラフィールドと言うのですか! あの爆炎から身を守れるのですから相当レベルの高い結界ですね」

「それはもう、伝説では三日三晩を大悪魔の強烈な魔法攻撃を防ぎきった、とあります! マリーンの攻撃も強烈であることは間違いありませんが、これは相手が悪かったかもしれませんね」



 まだだっ、まだ私は負けるわけには行かないっ! 相手が化け物だろうと……、故郷を緑豊かな土地にするのだからッ!

 そう思い、またルシフェルの周りを移動しながら魔力を練り上げようとした、その時、

「あッッッ!」

 思いもよらない足のもつれで視界が回転する。どうやら地面を転がってしまったようだ。

「この程度……」

 すぐに立ち上がろうとしたのだが……、

「な、なに? 私の足が震えて……、力が入らない?」

 ルシフェルの方を見ると、剣を手に持ったまま悠然とこちらへ向かって歩いてきている。

 手のひらで自分の太ももをバシンッと叩き、強引に震えを抑え込む。そしてゆっくりと息を吐きながら体を起こしていく。

 ようやく立ち上がる時には、ルシフェルと正面から対峙していた。距離にしておよそ20メル。剣の間合いからはかろうじて離れているが、奴からすれば一瞬にして詰められる距離だろう。

 私の額を大粒の汗が流れ、顎から垂れ落ちていく。

「ほぅ、私の威圧を受けても立ち上がるか……、興味深い。だが、そろそろ茶番も終わりにしようと思ってね。コイツも仕事をしたがってるんだ」

 ルシフェルは手に持った剣を撫でるように触れ、そして、舌を刀身に這わせる。

「私は砂漠の民。諦めはそのまま死ぬことと同義。私の体が動く限り、決して勝負を捨てたりはしないッ!」

 弓を引き、また魔力で矢を形成し始める。

「またそれですか? その技は私には通用しない。もうわかっているでしょうに」

「何とでも言うがいいッ! 私は絶対に諦めないッ! 次こそオマエを倒して見せるッ!」

「フンッ、口だけは威勢がいいようですねぇ。だが、すでに私の間合いに入っていることを忘れてませんか?」

 ルシフェルは剣を横に一閃した。

 私は奴が剣を振るう直前にバックステップで距離を取った。そしてまた弓を構えようとした時……、

「…………え?」

 うそ? 弓が……無い? あれ? 手が……、私の手首から先が……無いッッッ!!!

 あわてて視線を奴の前に戻すと、私の手が、弓を握ったまま床に転がっていた。

「きゃあああああっっっ!!!」

 自分の手から吹き出す血。あわてて脇を押さえ、それ以上の出血をしないよう押さえつける。

「やれやれ、この程度も躱せないのですね。遠距離からの攻撃には目をみはるものがありましたが、どうやらそこまでのようですねぇ。あぁ、そうだ私も弓は得意なんですよ。ちょうどいい。見せてあげましょう」

 私の体はガタガタと震えが止まらず、そして声も出すことが出来なかった。

 まいった、降参だと叫びたかったのだが、声を出すことが出来ない。

 なぜ? これもあいつの威圧だとでもいうの?

 震える体を片手で抱きしめるように抑えたが、足に力が全く入らなくなりその場にペタンと座り込むように腰が落ちてしまう。

「はぁーっ、はぁーっ」

 できるのは呼吸だけ。それも心臓がバクバクを大きな鼓動を鳴らし、呼吸もどんどん激しくなっていき過呼吸状態となってしまった。

 ルシフェルは私の使っていた弓を拾い上げた。そして、手に持っていた剣を矢の代わりにして弓をぐっと引く。そして膨大な魔力を練って、その先端を私に向けた。

 私は……、ここまでか。これが死ぬということなのか……。チコ……、村のみんな……、ゴメン。

 ルシフェルの構えた剣には考えられないほどの魔力が込められていく。先程の私の弓などアレに比べれば児戯にも等しい。

 恐らくだが、私という存在そのものがチリ一つ残らずに消えてしまうはずだ。

 私の体は全く動かなくなった。意思だけはあるが、意思と体が完全に断ち切れてしまったように反応しないのだ。

 私に残されたのは恐怖。眼の前の存在は手を出してはいけない存在だったのだという恐怖だけが私の心を支配していく。

「それでは、素晴らしい弓をありがとう。お礼に一瞬で消してあげよう」

 ルシフェルの弓が放たれた。

 膨大な魔力を含んだ剣が解き放たれたのだ。

 その瞬間、私の視界が突然、真っ黒に染まり、私の意識は途絶えるのだった。


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