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第9章 勇者RENの冒険

第183話 来訪者たち

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「ふぅーーーっ」

 俺は大きくため息を一つついた。

 なんとか二回戦を突破出来たか。

 花道を歩いていると、意外な人物が待ち構えていた。

「オメェさんの剣、なかなかのもんだな。それを使いこなすアンタの腕も一流ときてる。ところでその剣だが……、もしかしてスミスの作だろうか?」

 バッジだ。この男は本職が鍛冶屋だと聞いている。恐らく、俺の剣にでも興味を持ったのだろう。

「あぁ、アンタの言う通り、こいつは人間族のスミスが造ったものだ。あの世界じゃ、聖剣と言われてる剣さ。他に、何か用でもあるかい?」

「そうか、いや、元気そうで何よりだ。アイツは一応俺の弟子でな。人間族にしとくにはもったいねぇほどのセンスだった。まぁ、それはいいんだがよ。本来なら敵同士の俺達ってわけだが、聞きてぇことがあってな」

 バッジは背中の大樽から一振りの小刀を取り出した。

 俺はその剣にしばらくの間、見入ってしまった。

 その剣の銘には ”RIZ” と刻まれていたのだ。俺は一瞬でその小刀の制作者に気づいた。間違いない……、あの小刀はアルティメットハンターズのリーダー、リズの制作した一品だろう。だが……、奴は何故、そんなものを見せてくるのか? ここは慎重にいかなければならないな。

「その小刀がどうしたというんだ?」

「コイツぁ、間違いなく鍛冶の神が造ったものにチゲぇねぇんだ。鍛冶に関しちゃ、ワシはそれなりのもんだと思ってたんだが……、どうやら俺はまだまだヒヨッコだったと気付かされてな。どうにかして、この制作者に会いてぇと思ってる。どうだろうか? アンタの反応から察するに何かを知っている……そうだろう?」

 まったく、鋭い男だ。油断がならない。

「フム、だが、俺がそれを教える義理はないはずだが?」

「ま……、そうだよな。もちろん、ワシもただで情報をもらっちまおうなんて考えてねぇ。だから……、ワシと一つ、賭けをしねぇか?」

 バッジはニカーッと笑いながら、馴れ馴れしく俺の肩を叩いてくる。

「賭け?」

「あぁ、ワシだってこのトーナメントを勝ち進むつもりだ。もしオメェさんと戦ってワシが勝利したら……、その時は知ってること全部、教えてもらうぜ? もちろん、オメェさんが勝ったなら何でも言うこと聞いてやるからよ! どうだ?」

「まぁ、いいだろう。だがいいのか? アンタの対戦相手は……」

「それくれぇの賞品がかかってねぇと燃えてこねぇってもんだ。ガーーーハッハッハッハ!!!」

 バッジは高笑いをしながら歩き去っていった。

 全く、何だったんだ? あの親父は……。だが、不思議と悪い気はしないな。このトーナメントでは数少ない話せる奴、という所だろうか。

 だが……、バッジの対戦相手は並の相手ではない。

 俺は胸にモヤモヤしたものを抱えながらも帰途につくのだった。



   ***



「何故、お前がここにいる?」

 俺の控室の前。待っていたのはあの、ズールだった。

 ズールは腕を組み、壁に寄りかかっていたが、俺を確認するなり、ズンズンと俺の方へ向かって歩いて近づいてきたのだ。

 無言で近づいてくる巨漢の男。先程まで戦っていたとはいえ、その迫力に俺の足が止まってしまう。

 その時、俺の影から瞬時に黒い影が飛び出した。そして、ズールと向かい合うようにその姿を現したのだ。

「イヴリス、さがっていろ。俺に話でもあって来たんだろう。今、ここで戦うわけでもなさそうだしな」

 俺はイヴリスの前に手をやり、前に出た。

 近づくとズールは大きかった。筋肉質で密度の詰まった腕はどれも俺の太もも以上の太さがあるのだ。身長も190以上あるのでこちらを見下ろす形になっている。

 ゴクリ、と喉が鳴る。いったい、何の用があるというのか……、さっぱり心当たりもないのだが……。

 ズールはこちらをじっくりと見た後、ようやく口を開いた。

「まずは礼を言う。貴殿のおかげで死なずにすんだからな。まさか、伝説に聞く、蘇生魔法を使えるとはな……」

「なんだ、そんなことか……。俺の目的は相手を殺すことじゃない。黒騎士だって生きているはずだ。何もアンタに限ったことじゃない」

「そうか、そうだとしても俺の命が助かったのはお前のおかげだ。ありがとう」

 ズールは軽く礼をした。

 少し緊張したが、わざわざ礼を言うためにここまで来たのか。律儀な男だ。

 そんなことを考えていると、ズールがさらに口を開く。

「その腕前を見込んで頼みがあるのだ」

「頼み? アンタほどの男が?」

「うむ、そこの悪魔を配下にしたのであろう? ならば、どうだ? 我も貴殿の配下に加えてもらえないだろうか?」

「………………は?」

 ズールの顔はいたって真面目だ。冗談を言っているようには見えない。本気なのか?

「我は”武”というものを知り尽くしたつもりでいたのだ。それがどうだ。貴殿にはまるで通じなかった。我の力は神の力を持って相当にパワーアップしていたはずなんだが、それを手球にとるほどの実力、正直に言って感服したのだ。我は貴殿の配下になり、その強さというものを見直したいのだッ!」

 握りこぶしを震わせ、声高らかに宣言するズール。

「でも、アンタって一国の王様なんじゃないのか? そんな勝手していいのか?」

「構わんッ! 我は知りたいのだ。この武を極めた先にどんな世界が待っているのかを! もうあの狭い国で待っているだけの生活などご免だ! いかがだろう? 我を貴殿の元に……」

「さっきから聞いていれば勝手なことを! ご主人さま、そんなことを聞く必要などありません! 配下は私一人いれば充分です! このような男が近くにいては寝首をかかれる可能性もあるのです!」

 イヴリスが後ろから喚くように叫ぶ。確かにイヴリスの言う事にも一理ある。オレが寝首をかかれる可能性もゼロではない。

 だが、ズールは全く動じなかった。それどころか、イヴリスに向かって話し始めたのだ。

「まぁまぁ、イヴリス殿。落ち着いてくれ。そなたは配下などではないだろう? REN殿の正妻となる御方。そのうちに子供が出来たときには護衛は誰がするというのだ? 我こそが適任だと思うのだがね?」

 なっ? ズールは何を言い出すんだ? イヴリスが正妻? 子供???

 イヴリスを見ると、口をパクパクとさせ、その表情は驚きに満ちていた。

「せ、正妻…………、子供……?」

「あぁ、そうであろう? なんなら子供の剣術指南、我に任せてくれてもいいのだぞ? これでも教えるのは得意なのだ。魔法はそなたの方が得意だろうからな。ワーーーハッハッハッハ!!!」

 どうして俺とイヴリスが子供を作らねばならん? …………しかも今のセリフのどこに面白い箇所があったのか全く理解できん。ズールには早々にお引取り願うとするか……、

 俺はイヴリスをチラリと見た。アイコンタクトでズールに帰ってもらうよう合図を……、って? イヴリス?! こっち見ろよ?

 イヴリスの眼はキラキラと輝き、顔は喜びに破顔し、両手を祈るように指を交互に合わせて握りしめ、そして叫んだ。

「まぁ! よくわかってるじゃないの!!! わかったわ! ズール、配下としてこれから頑張ってちょうだいね!!! アナタのような配下が欲しいと思っていた所なのよ! ちょうど良かったわ! 採用決定ね! おーーーほっほっほっほっ!」

「ハハッ! ありがたき、幸せ」

 ズールは俺の前に膝をつき、頭を下げた。

「期待してるわよ? おーーーほっほっほっほ!」

 ちょ、ちょっとまて、俺の意思に関係なく話しが進んでいるじゃ……。

「我はこれ以上、一人では強くなるのも難しい状況だった……。これで道が開けたッ! 感謝ッッッ!!!」

 顔を上げたズールは眼から涙を流し、男泣きに泣いていた。左手を開き、右手を握って合わせるのはズールの国の礼をするときの形なのだろう。ブルブルと身体を震わせ、喜びを噛み締めているようだ。

 そんな表情されたら、もう断りにくいじゃないか……。

「では、これより我らは仲間! 共に歩んで行こうぞ! おーーーほっほっほっほ!」

 イヴリスが高らかに宣言する。

 クッ! いったい、どうしてこうなったんだ!

 俺は一人、どうしようもなくなってしまった状況に歯噛みしつつ諦めざるを得ないのであった。

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