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人知れずの恋
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しおりを挟む翌日、チャイムが鳴る前に登校してきた三枝はいつものように「おはよう」と挨拶してから自分の席についた。桃ちゃん先生からまだ何も聞いていないのだろうか。あまりにも普通な態度になんだか拍子抜けしてしまう。
いや、やっぱり、やる気ないんじゃないか。授業に出るのと、放課後に学校で勉強するのは、ちょっと違うだろう。
もしも三枝が来なかったら、……まぁ、その時はその時に考えよう。今は授業に集中だ、とまた今日も隣から遠慮なく突き刺さる視線の圧を無視しながら、真面目に勉学に励んだ。
そしてあっという間にやってきた放課後、静まり返った図書室。二階の奥の方にある席でテスト範囲をまとめていると、目の前に人影がひとつ。
何か用があるのだろうかと、その頃にはすっかり三枝のことなんて忘れていた俺は顔を上げ、その人物を確認して思わず口をポカンと開いた。そんな間抜けな顔を真正面から受け止めた三枝は、子どもみたいな顔で笑っていた。
「勉強教えてくれるなら、先に場所ぐらい言っておいてよ」
「……まじでやる気あったんだ」
「失礼だな」
「ごめん……。正直、来ないと思ってた」
端から期待していなかったのが本音だ。いくら態度が改善されたからといって、授業に出るようになったのは、そうすると決めた本人の意思があったから。
担任からの話だからといって、あの三枝がまさか放課後まで勉強に費やすなんて信じられなかった。いつもすぐに帰ってしまうのに、どうして。
驚きを隠せないまま、目の前に腰掛ける三枝に謝ると、彼は気まずそうに笑った。そんな顔をさせたいわけじゃなかったのに。心の中がモヤモヤと曇っていく。
「ううん、そう思われてもしかたないって分かってるから……」
「あー、去年授業に出てなかったのって、体調がよくないとか、家庭の事情とか、そういうのっぴきならない理由じゃないんだろ?」
「まぁ……」
「ふーん、じゃあいいじゃん」
「え?」
「詳しいことは知らないし、別に聞く気もないけど、学校に来るのがしんどいとかじゃなくて、自分でそうするって決めたことなら何だっていいんじゃないって、ただ俺はそう思っただけ」
例えば、クラスが合わないと感じて教室に行くのが億劫になっていたのだとしたら、今年はそうならないように委員長として助けになりたい。
まだそこまで仲良くなったわけじゃないし、それなりの関係は継続したいけれど、それとこれとは話が別。首を突っ込んだなら、最後まで面倒を見る。無責任に放り出すのは俺の信念に反するから。
まぁ、要領のいい三枝なら、俺の手なんか必要とせずに一人で何だってできるのだろうけれど。悩みぐらいなら吐き出す場所になれるだろうか。
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