神さまに捧ぐ歌 〜推しからの溺愛は地雷です〜【完】

新羽梅衣

文字の大きさ
99 / 114
一番星は泡沫を泳ぐ

しおりを挟む

 「……紡」


 そんな僕を呼ぶ声。ぎこちなく振り返れば、拗ねたように唇を尖らせている。


 「捨てるなんて許さないよ、おいで」
 「…………」


 渋々ベッドに戻れば、体を起こした彼に紙袋を奪い取られる。そうしないと、僕がゴミ箱に放り込んでしまうと分かっての行動だった。


 「開けていい?」
 「……ん」


 それでもちゃんと許可を取ろうとするところが憎い。

 視線を逸らして頷けば、まるで子どものようにワクワクしながらラッピングを丁寧に外していく。


 「わぁ、綺麗だね」
 「…………」
 「ありがとう、紡。めちゃくちゃ嬉しいよ」


 キラキラした瞳で花を見つめる彼は、青いバラがよく似合う。その姿に渋谷に飾られていたポスターを思い出した。


 「どこに飾るか悩むなぁ、紡はどこがいい?」
 「…………がいい」
 「ん? ごめん、もう一回言って?」
 「……律が、この家の中で一番長くいる場所がいい」


 それは僕の我儘。
 でもあまりにも強欲すぎるから、はっきりと口に出すのは憚られて、どんどん声が消えそうになっていく。

 嫌がられないかな、引かれないかなと律の反応に怯えていれば、腕を引っ張られて律の胸にダイブする。


 「ふふ、紡の願いは何でも叶えてあげる」
 「…………」
 「この部屋に飾ろう。でも置く場所がないから、今度一緒にスツールでも買いに行こうね」
 「……ん」


 僕も置いてもらうなら寝室がいいと思っていた。朝目が覚めて一番に目に入って、夜寝る前に一番最後に目にするところだから。

 僕なりの独占欲に答えてくれただけで堪らなく嬉しいのに、それにデートの約束まで付け加えてくれる最高の恋人。恋人にしたいランキング、ナンバーワンの冠を被る者は伊達じゃない。


 「あ、そうだ、忘れないうちに返さないと」
 「ん?」
 「合鍵、借りっぱなしだから」


 鞄の中から持ってこようと、ぴととくっついていた体を離そうとすれば、必要ないと回した腕に力を込められる。そのまま律がベッドに倒れ込むから、抵抗する間もなく僕も横になった。


 「律?」
 「あげるって言ったでしょ」
 「え?」
 「持っててよ、いつでも来ていいから」


 想像していなかったプレゼントに瞳が潤む。律の特別を許されたことを実感する度に信じられなくて、でもそれはいつだって現実で、感動と喜びのあまりこみ上げてくるものを抑えられない。

 律と出会って、僕は泣き虫になった気がする。だけどこれは喜びの涙だから、いくら流してもいいんだ。


 「毎日来てくれますように……」
 「本人を前にして神頼みしないで。毎日は無理だよ」
 「意地悪……、ちゃんと使ってよ」
 「……うん、使う」


 なかなか勇気は出ないかもしれないけれど、ちゃんと一緒のペースで歩いていきたいから。会いたい気持ちを我慢しないで、ほんの少しだけ我儘になってみようと思う。


 「あーあ、紡もここに住めばいいのに」
 「それは無理」


 即答すれば、隣からじとと抗議の視線が送られてくる。


 「……でも、考えてはみるよ」


 どうせ大学を卒業すれば、今の家は出ていくことになる。その時どうするかは未来の僕が決めるけれど、ひとつの選択肢として心の片隅に置いておこうと思う。

 そう言うと、律は未来の約束が嬉しくてたまらないといった表情で瞳を甘く蕩けさせた。冬の寒さなんて気にならないぐらい、満たされた朝だった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました! 最終17位でした!応援ありがとうございます! あらすじ 魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

泣き虫だったはずの幼なじみが再会したら僕を守るために完璧超人になっていた話。

ネギマ
BL
気弱で泣き虫な高校生、日比野千明は、昔からいじめられっ子体質だった。 高校生になればマシになるかと期待したが状況は変わらず、クラスメイトから雑用を押し付けられる毎日を送っていた。 そんなある日、いつものように雑用を押し付けられそうになっている千明を助けたのは、学校中が恐れる“完璧超人”の男子生徒、山吹史郎だった。 文武両道、眉目秀麗、近寄りがたい雰囲気を纏う一匹狼の生徒だったが、実は二人は、幼い頃に離れ離れになった幼なじみだった――。

ひろいひろわれ こいこわれ【完結済み】

九條 連
BL
母を突然の事故で喪い、天涯孤独となった莉音は、ある夜、道端で暴漢に襲われかけたところをひとりの男に助けられる。 莉音を庇って頭を殴られ、救急搬送された男は青い瞳が印象的な外国人で、一時的な記憶喪失に陥っていた。 身元が判明するまでのあいだ、莉音がその身柄を引き受けることになったが、男の記憶はほどなく回復する。男は、不動産関連の事業を世界的に展開させる、やり手の実業家だった。 この出逢いをきっかけに、身のまわりで起こりはじめる不穏な出来事……。 道端で拾ったのは、超ハイスペックなイケメン社長でした――  ※2024.10 投稿時の内容に加筆・修正を加えたものと差し替え済みです。

処理中です...