24 / 47
第一章
24.旅立ち、船上にて3
しおりを挟む
「あっ、回し忘れるところだった!」
キリリッキリリッと音を立てながら、懐中時計のネジを回す。そうすると止まりそうになって小さく動いていた秒針は、また元気よく回りだした。
「船に乗ってからは、他にも面白いことがあって、回すの忘れがちね」とマルチナ。
「ちゃんと面倒見てあげないと、時計がすねちゃうね。ごめんね」
ソニアが文字盤を優しくなでると、マルチナも横から手を出してきて、文字盤をなでた。
「わたしがソニアを独り占めしてごめんね」
「ふふふ、なにそれ」
「だって、前もわたしのせいで、ネジを回し忘れたじゃない」
「えっ、本当?」
「初めてうちに来て、お父様たちと話した時よ」
ソニアが「ああ、そういえばそうだったね」と言うと同時に、船内にアナウンスが流れだした。
『ご乗船の皆さま。本日の夕刻、ドイツェリクに到着いたします』
一枚膜を被ったようなくぐもった不思議な声に、最初は驚いた。船内すべての部屋に声を届けるための特殊な魔法を使っている、と最初の夜にテオが教えてくれた。
「あーあ、とうとう着いちゃうわね」
マルチナは口を尖らせて、手すりにグデッともたれかかった。マルチナの頭の向こう側には海が見え、さらに遠くの方に陸が見えてきた。あれが目的地のドイツェルクだ。
「あれ。マルチナ、楽しみじゃないの?」
「うーん。……初めての国は、楽しみなんだけど」
「だけど?」と繰り返すと、マルチナは上目遣いでソニアの方を見た。甘えん坊な顔をしている。最初に出会った時は、大人ぶった高飛車な子だなと思ったが、最近は年相応の顔もするようになった。よく考えなくても、マルチナだってまだ子どもだもんね、とソニアは思った。
「どうしたの、マルチナ」
「……ソニアが、わたしの魔力をかくしてるわけじゃないって、本当にわかったら、さみしいな、と思って」
「なんだ、そんなこと?」
「そんなことじゃないわよ! ソニアのおかげで、ソニアに出会ったおかげで、うれしいことばっかり起こったのよ!」
マルチナは手すりから手を離して、ズイッとソニアに詰め寄って来た。船内のお店で買った新しい香水の匂いがふわっと漂う。南国の花の甘い香りだ。
「同い年の友達と一日街で自由に遊べて、レースやタイルや素敵なものを見て、おいしいものを食べて、エリアスさんとソフィアさんともたくさんお話をして、お父様とお母様とも仲直りできて。これって全部、ソニアのおかげなのよ」
マルチナはすっかり興奮して、まくしたてるようにそう言った。
「わ、わたしは何もしてないよ」
マルチナは少し怒った顔をして、バッと両手を広げた。
「そんなことないわ! ソニアに出会ったから、今だってこうして船に乗って、街の外を目指してるじゃない」
必死な表情を浮かべるマルチナの青い目は震えている。たおやかな長い髪と青色のワンピースは、海風で波のように揺れている。その光景に、ソニアは、やっぱりマルチナって絵になるな、とぼんやり考えた。
するとマルチナはまたソニアに詰め寄り、ソニアの両手を自分の両手で握り締めた。
「だから、わたしの魔力をかくしてるのがソニアじゃないって言われたら、わたしの世界を明るくしてくれたソニアと、つながりが無くなるみたいで、……さみしいのよ」
「それって、わたしが魔力をかくしてるわけじゃないってわかったら、マルチナはわたしと遊んでくれないってこと?」
「違うわよう! そんなわけないでしょう! うまく言えないんだけど、なんかさみしいの!」
マルチナはプリプリしながらソニアの腕にしがみついてきた。
さみしいって言いながら怒っているあたりは、やはりマルチナだ。
ソニアがフフッと笑うと、マルチナは赤くなった頬を膨らませてソニアをにらんできた。
「バカにしてるでしょう」
「してないよ。……ねえ、マルチナ」
「……なに?」
「わたしはこれからもずっとマルチナの友達で、そばにいたいと思ってるけど。マルチナはそれだけじゃ足りないの?」
マルチナのサファイヤのような目がきらりと光る。
「マルチナがいやって思うくらい、たくさん会いに行くし、たくさん遊ぶつもりなんだけど。こういう遠出も、たくさんしたいと思ってるよ」
マルチナのサファイヤのような目が水にぬれていく。
マルチナはうつむいて、ソニアの腕にいっそう強くしがみついてきた。そして、ささやくような声でこう言った。
「……わたしだって、そのつもりよ」
「それじゃあ、ずっと一緒にいられるね。わたしたちには『友達』ってつながりがあるんだから」
ソニアがそう言うと、マルチナは涙をこぼしながら笑った顔を見せてくれた。
キリリッキリリッと音を立てながら、懐中時計のネジを回す。そうすると止まりそうになって小さく動いていた秒針は、また元気よく回りだした。
「船に乗ってからは、他にも面白いことがあって、回すの忘れがちね」とマルチナ。
「ちゃんと面倒見てあげないと、時計がすねちゃうね。ごめんね」
ソニアが文字盤を優しくなでると、マルチナも横から手を出してきて、文字盤をなでた。
「わたしがソニアを独り占めしてごめんね」
「ふふふ、なにそれ」
「だって、前もわたしのせいで、ネジを回し忘れたじゃない」
「えっ、本当?」
「初めてうちに来て、お父様たちと話した時よ」
ソニアが「ああ、そういえばそうだったね」と言うと同時に、船内にアナウンスが流れだした。
『ご乗船の皆さま。本日の夕刻、ドイツェリクに到着いたします』
一枚膜を被ったようなくぐもった不思議な声に、最初は驚いた。船内すべての部屋に声を届けるための特殊な魔法を使っている、と最初の夜にテオが教えてくれた。
「あーあ、とうとう着いちゃうわね」
マルチナは口を尖らせて、手すりにグデッともたれかかった。マルチナの頭の向こう側には海が見え、さらに遠くの方に陸が見えてきた。あれが目的地のドイツェルクだ。
「あれ。マルチナ、楽しみじゃないの?」
「うーん。……初めての国は、楽しみなんだけど」
「だけど?」と繰り返すと、マルチナは上目遣いでソニアの方を見た。甘えん坊な顔をしている。最初に出会った時は、大人ぶった高飛車な子だなと思ったが、最近は年相応の顔もするようになった。よく考えなくても、マルチナだってまだ子どもだもんね、とソニアは思った。
「どうしたの、マルチナ」
「……ソニアが、わたしの魔力をかくしてるわけじゃないって、本当にわかったら、さみしいな、と思って」
「なんだ、そんなこと?」
「そんなことじゃないわよ! ソニアのおかげで、ソニアに出会ったおかげで、うれしいことばっかり起こったのよ!」
マルチナは手すりから手を離して、ズイッとソニアに詰め寄って来た。船内のお店で買った新しい香水の匂いがふわっと漂う。南国の花の甘い香りだ。
「同い年の友達と一日街で自由に遊べて、レースやタイルや素敵なものを見て、おいしいものを食べて、エリアスさんとソフィアさんともたくさんお話をして、お父様とお母様とも仲直りできて。これって全部、ソニアのおかげなのよ」
マルチナはすっかり興奮して、まくしたてるようにそう言った。
「わ、わたしは何もしてないよ」
マルチナは少し怒った顔をして、バッと両手を広げた。
「そんなことないわ! ソニアに出会ったから、今だってこうして船に乗って、街の外を目指してるじゃない」
必死な表情を浮かべるマルチナの青い目は震えている。たおやかな長い髪と青色のワンピースは、海風で波のように揺れている。その光景に、ソニアは、やっぱりマルチナって絵になるな、とぼんやり考えた。
するとマルチナはまたソニアに詰め寄り、ソニアの両手を自分の両手で握り締めた。
「だから、わたしの魔力をかくしてるのがソニアじゃないって言われたら、わたしの世界を明るくしてくれたソニアと、つながりが無くなるみたいで、……さみしいのよ」
「それって、わたしが魔力をかくしてるわけじゃないってわかったら、マルチナはわたしと遊んでくれないってこと?」
「違うわよう! そんなわけないでしょう! うまく言えないんだけど、なんかさみしいの!」
マルチナはプリプリしながらソニアの腕にしがみついてきた。
さみしいって言いながら怒っているあたりは、やはりマルチナだ。
ソニアがフフッと笑うと、マルチナは赤くなった頬を膨らませてソニアをにらんできた。
「バカにしてるでしょう」
「してないよ。……ねえ、マルチナ」
「……なに?」
「わたしはこれからもずっとマルチナの友達で、そばにいたいと思ってるけど。マルチナはそれだけじゃ足りないの?」
マルチナのサファイヤのような目がきらりと光る。
「マルチナがいやって思うくらい、たくさん会いに行くし、たくさん遊ぶつもりなんだけど。こういう遠出も、たくさんしたいと思ってるよ」
マルチナのサファイヤのような目が水にぬれていく。
マルチナはうつむいて、ソニアの腕にいっそう強くしがみついてきた。そして、ささやくような声でこう言った。
「……わたしだって、そのつもりよ」
「それじゃあ、ずっと一緒にいられるね。わたしたちには『友達』ってつながりがあるんだから」
ソニアがそう言うと、マルチナは涙をこぼしながら笑った顔を見せてくれた。
0
あなたにおすすめの小説
9日間
柏木みのり
児童書・童話
サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。
大事なのは最後まで諦めないこと——and take a chance!
(also @ なろう)
図書室でだけプリンセス!〜魔神の封印は私におまかせ〜
神伊 咲児
児童書・童話
本が大好きな小学五年生、星乃 朱莉(ほしの あかり)。
彼女の正体は、千年前、七体の魔神を封印した伝説の「星光姫(プリンセス)アステル」の生まれ変わりだった!
ある日、図書室で見つけた光る本『アステル』を開いた途端、朱莉は異世界へ飛ばされる。
そこで出会ったのは「おっす!」と陽気な勇者リュートと、その背後に迫る一つ目の魔神だった。
リュートから星光の杖を受け取った朱莉は、星光姫(プリンセス)アステルへと変身する。
「魔神の封印は私におまかせ!」
リュートと朱莉の、ワクワクいっぱいの魔神封印の冒険が、いま始まる!
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
図書室はアヤカシ討伐司令室! 〜黒鎌鼬の呪唄〜
yolu
児童書・童話
凌(りょう)が住む帝天(だいてん)町には、古くからの言い伝えがある。
『黄昏刻のつむじ風に巻かれると呪われる』────
小学6年の凌にとって、中学2年の兄・新(あらた)はかっこいいヒーロー。
凌は霊感が強いことで、幽霊がはっきり見えてしまう。
そのたびに涙が滲んで足がすくむのに、兄は勇敢に守ってくれるからだ。
そんな兄と野球観戦した帰り道、噂のつむじ風が2人を覆う。
ただの噂と思っていたのに、風は兄の右足に黒い手となって絡みついた。
言い伝えを調べると、それは1週間後に死ぬ呪い──
凌は兄を救うべく、図書室の司書の先生から教わったおまじないで、鬼を召喚!
見た目は同い年の少年だが、年齢は自称170歳だという。
彼とのちぐはぐな学校生活を送りながら、呪いの正体を調べていると、同じクラスの蜜花(みつか)の姉・百合花(ゆりか)にも呪いにかかり……
凌と、鬼の冴鬼、そして密花の、年齢差158歳の3人で呪いに立ち向かう──!
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
オバケの謎解きスタンプラリー
綾森れん
児童書・童話
――七不思議を順番にめぐると、最後の不思議「大階段踊り場の鏡」に知らない自分の姿が映るんだって。
小学六年生の結菜(ユイナ)が通う三日月(みかづき)小学校では、そんな噂がささやかれていた。
結菜は難関中学に合格するため、塾の夏期講習に通って勉強に励んでいる。
だが一方で、自分の将来にひそかな期待と不安をいだいてもいた。
知らない自分を知りたい結菜は、家族が留守にする夏休みのある夜、幼なじみの夏希(ナツキ)とともに七不思議めぐりを決意する。
苦労して夜の学校に忍び込んだ二人だが、出会うのは個性豊かなオバケたちばかり。
いまいち不真面目な二宮金次郎のブロンズ像から、二人はスタンプラリーの台紙を渡され、ルールを説明される。
「七不思議の謎を解けばスタンプがもらえる。順番に六つスタンプを集めて大階段の鏡のところへ持って行くと、君の知らない君自身が映し出されるんだ」
結菜と夏希はオバケたちの謎を解いて、スタンプを集められるのか?
そして大階段の鏡は二人に何を教えてくれるのか?
思春期に足を踏み入れたばかりの少女が、心の奥底に秘めた想いに気付いてゆく物語です。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる