【第二章完結】マルチナのかくれ石【続編執筆中】

唄川音

文字の大きさ
45 / 47
第二章

18.ソニアの夢、魔法のお屋敷にて

しおりを挟む
「わたし、時計職人になろうと思います」
「まあ、時計職人に」
 一番に口を開いたのは、ソフィア母さんだ。「まあ」と言っているけれど、口調はとても穏やかで、驚いている様子はない。
「うん。今回の旅で、ルフブルクの時計職人養成学校に通ってるユッタって子と友達になったんです。それで、時計職人についていろいろ教えてもらって、ユッタからそんなに時計が好きなら、職人になれば良いのにって言われて」
 マルチナに負けないように、ソニアもその場にいる全員の目を順に真っ直ぐに見つめながら話す。
「父さんやリベルトさんの話を聞いてると、船乗りも良いなって思ったんです。いろんな場所に行けて、いつも海を眺められる。大変なことも多いだろうけど、楽しそうだって。でも、それ以上に、アロイスさんの言葉で、時計職人になろうって決めたんです」
「どんな言葉だったんだい?」とエリアス父さん。
「『時計は人と人のつながりを作るんだ』って。素敵だと思わない? 会話を作って、人と人を結ぶんだって。わたしとマルチナも、アロイスさんの時計のおかげで、出会えて、たくさん冒険できた。それで、今こうしてたくさんの大好きな人に囲まれて笑ってる。それってすごいって思うんです。だからわたしも、そんなきっかけを作る様な時計を作りたいって思ったんです。アロイスさんの時計が作ってくれた縁で出会ったみんなに、今、言いたかったから、聞いてくださって、ありがとうございました」
 ソフィア母さんは立ち上がり、ソニアの肩に手を回した。
「寂しくなるけど、わたしは応援するわ」
 エリアスもソフィアの後ろに立って、ふたりの背中に大きな手を当てる。
「ソニア、あなたってば毎日毎日魅力的になって行くわね」
「そうかな?」
「ええ。一秒ごとに魅力を増すソニアを見られないのは残念だけど、ソニアが初めて持った夢だもの。ねえ、エリアス?」
「そうだな。父さんも応援するよ」
 その顔はソフィアよりも寂し気に見えた。
「ありがとう、父さん、母さん」
 ソニアはふたりにまとめて抱きついた。
「わたしたちも応援するよ、ソニア」
「ソニアの時計を買うの、楽しみにしてるわね」
「俺も会いに行くよ。ラファエルさんのところにも行かなきゃならないからね」
「ありがとうございます、エリアスさん、ルシアさん、テオさん」
 みんなの笑顔に囲まれながら、ソニアはマルチナを見た。
 その途端、ソニアは周りの音が小さくなったような気がした。
 マルチナの目は悲し気にぬれていた。

 そうだ、この決断をするということは、マルチナと離れ離れになるということだ。

 ソニアは胸が苦しくなり、グッとくちびるをかみしめた。
 するとマルチナが弾かれたように立ち上がって声を上げた。
「それなら、ソニアの出発の日は盛大にパーティーをしなきゃね! それから、今日も豪華な晩餐会にしましょうよ。わたしたちが無事に帰って来たお祝いに!」
「そのつもりで、料理長たちが頑張ってくれているよ。今頃カリーナが新しいドレスを受け取っている頃じゃないかな?」
「わあ、本当に! ソニアの分もある?」
「もちろん。着替えておいで」
「ありがとう、お父さま!」
 マルチナはソニアに駆け寄り、ギュッと手を握って来た。
「行きましょう、ソニア!」
「えっ、あ、うん」
 さっきの表情がウソのような明るさに、ソニアは呆気にとられた。そしてすぐに、マルチナがいつも通りに振舞ってくれているのだとわかった。

 マルチナだって寂しいと思っているに決まっている。
 うぬぼれではなく、そう確信できた。

 ソニアは「ありがとう」と言う代わりに、マルチナと繋いでいる手の力を強めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

転生妃は後宮学園でのんびりしたい~冷徹皇帝の胃袋掴んだら、なぜか溺愛ルート始まりました!?~

☆ほしい
児童書・童話
平凡な女子高生だった私・茉莉(まり)は、交通事故に遭い、目覚めると中華風異世界・彩雲国の後宮に住む“嫌われ者の妃”・麗霞(れいか)に転生していた! 麗霞は毒婦だと噂され、冷徹非情で有名な若き皇帝・暁からは見向きもされない最悪の状況。面倒な権力争いを避け、前世の知識を活かして、後宮の学園で美味しいお菓子でも作りのんびり過ごしたい…そう思っていたのに、気まぐれに献上した「プリン」が、甘いものに興味がないはずの皇帝の胃袋を掴んでしまった! 「…面白い。明日もこれを作れ」 それをきっかけに、なぜか暁がわからの好感度が急上昇! 嫉妬する他の妃たちからの嫌がらせも、持ち前の雑草魂と現代知識で次々解決! 平穏なスローライフを目指す、転生妃の爽快成り上がり後宮ファンタジー!

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

9日間

柏木みのり
児童書・童話
 サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。  大事なのは最後まで諦めないこと——and take a chance! (also @ なろう)

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

処理中です...