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3章 商品チート

49話 技術公開会議

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「ついにこの時が来たのう、クラーシュ」


隣でカッチカチに緊張したクラーシュに声を掛けたのじゃが、本人は返事も出来ておらなんだ。
そう言うワシも年甲斐もなく緊張しておるが、それも仕方のない事じゃとクラーシュに伝えたのじゃ。


「で、でも、ワタシにこんな綺麗なドレスは」
「何を言っておるクラーシュ、リイル殿も綺麗じゃと言っていたのじゃ、似合っておるよ」
「でも、ワタシは奴隷ですよ」
「それが何じゃと言うのじゃ?」


これだけの器量を持った奴隷はいないと言いたのじゃが、そもそも奴隷として扱われていない事に気づいていない様なのじゃ。
三食を普通に取り、職業も自由でベッドに寝れるのは、普通の民の生活でも裕福な方だ。


「さて、話は終わりじゃクラーシュ」
「はい」


急に切り替えられるのもすごいのじゃが、ワシらの方に来たのはラインハット国のセバール王子じゃった。
一緒にいるのは友好国の者たちで、楽しみにしているとか簡単に言って来たのじゃ。


「この広間にいる者は、そなたが呼んだのじゃろう?」
「ああ、やっぱり分かりますか?」
「当然じゃろう、敵対とまでは言わないじゃろうが、帝国や聖法王国までいるじゃろう」


誰でも分かるじゃろうと、クラーシュも頷いておるし、そもそも加工石の説明は敵側には見せたくないモノなのじゃ。
つまりは、恩を売っておくのと同時に、これ以外にもあると見せつけて牽制の効果を持たせているのじゃよ。


「その分、密偵は増えるじゃろう」
「そこは心配していません、何せリイル様ですからね」
「フォッフォッフォ、なるほどのう」


こんなに楽な宣伝は無いと言う事が分かり、ワシも納得してしまった。
前回の港街での話もあるし、リイル殿だけが凄いわけではないのじゃ。


「ですので、今回の説明は期待しているのじゃよ」
「はい」


クラーシュが良い返事をしたが、今までの緊張が何処かに飛んでいて、リイル殿の為と言う気持ちが溢れている。
それだけ奴隷に慕われる主はいないが、だからこそ強い絆を持っているのじゃ。


「良い返事ですね、ではお願いします」
「はい、行きましょうバーバルナ様」
「うむ、度肝を抜いてやるぞい」


壇上に向かい、ワシたちは注目されるが、クラーシュの度胸はワシを越えていた。
ドキドキが止まらぬワシと違い、余裕で壇上に上がり用意されたテーブルの前に立ったのじゃ。


「それでは始めたいと思います、バーバルナ様魔石をお願いします」
「わ、分かったのじゃ」


事前にクラーシュとの話し合いの通り、ワシは魔石をテーブルに置いたのじゃが、注目されているのはクラーシュの両手じゃった。
クラーシュは、既に魔力を手の平に集めていて、魔石を挟んで両手を一定の間隔で置いたのじゃ。


「それでは、最初に見ても分かると思いますが、魔力を手の平に集める事から始め、次に魔石から魔力を抜き取ります」
「「「「「おお~」」」」」


クラーシュの言葉通り、魔石から魔力が溢れ出て来て、それを手の魔力と絡み合うように集め出した。
魔石の石が崩れていく横には、誰もが目を疑う程の綺麗な結晶が出来始めたのじゃ。


「これが加工石の作り方となります・・・何か質問ありますか?」
「あ、あの~魔石からどうやって魔力を抜くのですか?」


セバール殿の横にいた、友好国の特使【リーングラン】殿が恥ずかしそうに手を挙げたのじゃが、それはワシも聞きたいことじゃった。
他の者たちも同じで、そんなに簡単な事ではなかったのじゃよ。


「簡単に言いますと、手の平の魔力で引き寄せるんです」
「ひ、引き寄せる?」
「はい、魔力はお互いに引き寄せ合う性質があり、大きな魔力の方に集まります」
「そ、そうだったんですか?」


頷いて返事をしたクラーシュは更に続けたのじゃが、引き寄せた魔力を手の平の間で固めると言う説明に、またまた質問されたのじゃ。
そこでは、自分の魔力を魔石の魔力に溶け込ませるのが大切と説明され、それが成功すると結晶化するそうなのじゃ。


「ここで注意となるのが、魔石の魔力を中核にはしない事です」
「そ、それをしたらどうなるんですか?」
「不安定になって爆発します」
「「「「「ば、爆発っ!!」」」」」


会場中がビビってしまったが、ある場所でそんな事故があった事をクラーシュが伝えて来て、ワシだけが納得の顔じゃった。
そして、今作った結晶は平気なのかと質問が振られ、クラーシュは出来上がった加工石を持ってテーブルにたたきつけて見せたのじゃよ。


「このように、安定していますのでご安心ください」
「そ、そうか」
「危ないじゃない!爆発したらどうするのよ!」
「一度結晶化すれば問題はありません、問題はここまでに至る訓練です」


訓練方法まで教えるのかと思ったのじゃろう、会場中が静まり返ってしもうた。
その訓練方法は、今の様に手の平を間隔を開けてテーブルに乗せ、その間に水の入ったコップを置く事じゃった。


「コップの中の水を動かす?」
「その通りですが、動かす向きがありまして、渦を作る様にするんです」
「う、渦って・・・どうやるんですか?」
「グルグルと循環させる感じで、それが出来るようになるのが大変なんです」


イメージだけでそれを成す事になり、最初は何も起きないので挫けてしまうらしいのじゃ。
魔力の訓練にも似ているのじゃが、あれは流すだけで身体に魔力を感じる事が重要じゃった。


「魔石からの魔力抽出はとても難しく、この練習でスキルの【魔力操作】を覚えないと無理です」


それだけの熟練者がいてこその成果と分かり、ここで二つの意見に分かれるのがワシには見て取れた。
1つは、職人を育てて生産する案じゃが、こちらは時間がかかるのじゃ、もう1つは加工石を買う方じゃった。


「どちらも金が掛かるが、最初に莫大に掛かるが、永遠と費用が掛かる方を選ぶよりはマシじゃろうな」


その為の公開会議じゃったが、やり方を知っているワシたちに注目が集まったのは言うまでもない。
指導者がいるのとそうでないのでは天と地ほどの差があり、ここでクラーシュから職人の指導を請け負う事が提案されたのじゃ。


「勿論、費用は頂きますがそれを覚えた職人は、国に帰って指導者になれます」


クラーシュの説明に、誰もが期待の目をし始め、ワシたちは莫大な資金を得る事が約束されたのじゃよ。
そして、ラインハット国もその中に入り、集まった国のリーダーが決まったのじゃ。


「ちょっと待ちなさい」


そんな空気の中、反論を口にしたのは聖法王国の特使で、その者は大聖女と呼ばれるお方じゃった。
大聖女の名は【レイシャルト・フォン・アスレーン】と言って、とても綺麗なお方じゃ。


「大聖女様、何でしょうか?」
「あなたの要望は分かったけど、その職人たちが覚えるまで、ワタクシたちはずっとそちらから買わないといけないのよね?」
「そうなりますが、それは仕方ない事です」
「あらそう?いったいどれくらい掛かるのかしら?」


クラーシュの答えは、3年から5年と言うモノで、それはさすがに掛かり過ぎると、大聖女は困った顔をしてきてクラーシュを睨んでおったよ。
じゃが、それも想定内じゃから、仕方ないとクラーシュは言い捨てたのじゃ。


「ワタシたちは、この技術を提供するように言われただけです、それ以上を言われても困ります」
「それもそうね、じゃあ職人を派遣するからよろしくね」
「ありがとうございます」


文句を言いたかっただけに見えるが、大聖女はそこで訓練を一番最初に約束させたのじゃ。
他の者たちは、いまだに考えているから、大人数になっても最初に約束を交わした大聖女を優先しろと言う事じゃ。


「まったく、顔に似合わずやりおるわい」


世間で聞く大聖女は、やはり猫を被っているのが分かったのじゃよ。
その後は、集まっていたすべての国が職人派遣を要請して来たのじゃよ。


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ご愛読ありがとうございます
まったりーです。

明日から2話投稿に変えて、9月に完結させたいと思いますので、これからもご愛読ください。
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